退屈な世界へサヨナラを
楽しくない
現実も仮想現実も
何一つとして楽しい事が、無い
万を超えるゲームを遊んだが、何一つ楽しめなかった。
学校に行っても、既知の物を何度学ぶだけでつまらない。
一通りの、所謂趣味と呼ばれる事の多いスポーツや芸術もやっては見たが、何一つ満たされない。
唯一満たしてくれそうだった、本ですらも、満たすには程遠かった。
ボーッと、何科を考えているわけでもなく、目的地がある訳でもなく、無意味に街を歩く。
そこに『楽しい』は存在しない。
「おいガキィ!ゴラてめぇぶつかって来て謝んねぇのかゴルァ!?」
不意に、変な野郎とぶつかる。
騒がしい奴だ。こういう類の人間は無視するに限る。
「おいテメェ話聞いてんのかッ……!?」
「……しつこい」
あまりにもしつこいからついつい手を出しかけてしまった。
いや、出てはいるのか?
野郎の目の前で俺の拳は止まっている。
当たってないし問題は無いだろ。
反応も無くなったからそのまま踵を返して、また歩き出す。
結局、あんなのに絡まれようが楽しくは無い。
寧ろ苛立つだけだ。
再びボーッと街を歩いていると、遠くのトラックが目に映る。
何を血迷ったか、俺はそのトラックの車線上に出ていた。
多分あの時、俺は狂っていたんだ。
あまりにも周りの物全てがつまらなさ過ぎて。
ドンッ!と鈍い衝撃が走ったと思えば、既に視界は暗転していた。
最期に聞こえるのは、周りの通行人達の悲鳴だけ。
轢かれるのは……少なくともこれを楽しいと言う奴は人外だな…………
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「……おや、ここに人が来るとは珍しい。いらっしゃい、人の子よ。」
気付くとそこは、なんというか、不思議な場所だった。
無限とも思える程に広い平原に、たった一本の木と、その下に椅子と机が一つずつだけ。
そして、その椅子には本を読んでいる女性が座っていた。
「ここはね、まぁ私専用の部屋みたいな物さ。本来なら君みたいな死者の魂が来る事は無いのよ。」
これが……部屋?
これを部屋と言うにはあまりにも無理があるのでは?と思ってしまう。
「部屋だよ、ただ無駄に広いだけのね。……と、そんな部屋の話は良いのさ。ここに流された君には二つの選択肢がある。一つは魂の円環へと戻る事、もう一つは転生してもう一度人生を歩む事だよ、まぁ、こっちを選んだ時は異なる世界にしか転生させてあげられないけどね。魂の円環に戻るのなら……まぁ、言わなくてもわかるだろう?」
勝手に話を進める女だ。
と、言うより先程から俺は声を出していないはず……
あぁ、神(自称)の転生展開か。
「何が神(自称)よ。私は神でもなんでもないわ。」
?神でもなんでもない……?
……考えても仕方ないか。
で、その異世界は……楽しいのか?
「さぁ?楽しめるか楽しめないかは、君次第さ。ただ、少なくとも君を満たさんとしていた本の世界に入れると思えば、分かりやすいんじゃ無いかな?」
なるほど……
で、あれば答えは一つしかない。
楽しめるのなら、それは異世界に是非とも転生してみたいさ。
「んじゃ、転生するのかい?」
あぁ、転生させてくれよ。
前の世界は、あまりにもつまらな過ぎた。
楽しめるのなら、俺は行きたい。
「そうかい……じゃあ、楽しんでらっしゃい」
そう言うと、女は微笑む。
その笑顔を見るのを最後に、再び視界は暗転した……