12:神話
12月9日19時29分???
「ん……」
ガバッ!!
光は飛び上がるように起きた。
ここはどこだ?
周りは白い壁、あるのは窓ガラスだけ。
後ろに里志達が寝ていた。
「おい里志…起きろ。」
光は里志の肩を揺らす。
「ん……、ここは?」
美樹が先に起きた。
「美樹!!大丈夫か?」
「うん、平気。」
続いて里志、慶、美月と起き始める。
「さおりがいない!!」
光が叫んだ。
「さおりはどこいった?
誰かあいつをみてねぇか!!?」
光は慌てる。
「落ち着け!!
きっとあいつが話すさ…」
里志の目線の先にはあの神父がいた。
「お目覚めかな…」
「てめぇ!!さおりはどこだ!?」
光が神父に近づく。
「おっと、ストップだ。」
神父は銃を構える。
「くっ…!!」
立ち止まる光。
「そんなに彼女が心配か?しかし、彼女は最重要人物だ!そう簡単には教えられんのだよ…」
そう言うと楽しそうに笑い始めた。
「悪魔め!!」
「いや…、神だよ。」
ガチャッ!!
ドアから誰か入ってきた。
「……ここで何している?」
50くらいだろうか…
キリッとした顔の男が部下を何人か連れて入ってきた。
「ボ、ボス…!!」
神父は慌てて姿勢を正す。
「何してると聞いたんだ。」
「は、はいすいませんボス。捕まえたこいつらが大人しくしているか気になりまして…」
神父がそういうと、ボスらしき男は部下に何か命令し、神父が連れていかれた。
「すまなかったね…
出来の悪い部下はこれだから困る…」
ボスが話した。
「それより、さおりをどこにやった?」
光がそいつに聞いた。
「さおり……、あぁ例の彼女か。
大丈夫、別室で寝ている。」
「なら、さおりに会わせろ!!」
「それはできない。」
「なぜだ?」
「……。」
少し考えた後ボスが話し出した。
「君達は知っておくべきかも知れないな。
今回の事件の真相を…」
「事件の真相?」
慶が聞いた。
「そう、あの化け物の正体だ。
神話にあるアダムとイヴの話は知っているか?」
「だいたいは…。」
「神が2人の男女の人間を造り、子供を産み、今の我々がいる。
みんなが知ってるお話だ。しかし、その話は事実なんだ。
そして、それ以上に残酷だ。」
ボスが話を続けた。
「真実はこうだ…
神は3人の人間を造った。アダムとイヴ、そしてHIVEを。」
「HIVEだと!?」
5人は聞き返した。
「そうだ。
そして3人は協力して、過ごしていた。
しかし神はHIVEの醜い姿に怒りを感じた。
そしてアダムとイヴを残し、HIVEに呪いをかけた。
1時間ずつ動けなくなる呪いを…。
1日が過ぎるごとにHIVEはどんどん動けなくなっていった。
そして、父親である神、アダムとイヴを恨みながら12月24日、HIVEは完全に石となった。
神はHIVEを海に沈め、アダムとイヴに言った。
“産めよ。増やせよ。”
そして、今の我々がいるというわけだ。」
「それと今回の事件とどう繋がる?」
「HIVEはその後何千年も呪われ続けた。しかし、イエス・キリスト、彼が死んだ時神の力が弱まった。
そして奴は今年の12月から自由へのカウントダウンを始めた。
2010年12月24日、やつの呪いは完全に解ける。
そして、それまでに我々人類に恨みをはらし、神をも殺そうとしている。
それが今回の事件の真相だ…。」
「つまり、HIVEは過去の恨みをはらして、新たにHIVEの世界を作ろうとしている。
それらは全て神がHIVEを嫌ったことから始まる、そういうことか?」
慶が言った。
「簡単に言えばそうなる。」
「なぜ地震が起こる?」光が聞く。
「HIVEは海の底に沈められた。やつは今地底に潜んでいるんだ。
だから地上に上がる時地震が起きるんだ。
活動できる時間と共に…」
「何でおまえらはそんなことを知ってるんだ?」
里志が聞く。
「我々の組織名は“DG”ディスティニーゴッド、神の決めた運命という意味だ。
我々は神の忠実な部下、この話も神から聞いたのだ。私の名はペガサス…
神の家来だ。」
「神がそう話したのか?
HIVEが恨んでいると…」
里志がさらに聞く。
「だからそういっている。」
「信じられねぇな…
うさん臭いね!!」
光は信じなかった。
「ならさおりさんに聞こえた男の声は何だと思うのかな?」
ペガサスは聞いた。
「それは…わかんねーけど。」
「神の声だよ!!」
「鐘の音も声も、神からの警告だ。
現におまえらもその音を頼ってここまできたんだ。
偶然だと思うのか?」
「なぜさおりに聞こえるんだ?」
光の質問にペガサスはピクッと動いた。
「わかりませんか?
彼女がイヴの生まれ変わりだからだよ…」
「なっ…!!」
5人は驚く。
「さおりが……イヴ!?」
「そう。
神は3人にそれぞれ力を与えたのを知っているか?
アダムには愛を無限の命に、HIVEには憎しみを無限の力に、そしてイヴには優しさを無限の守護に。」
「イヴには、人間を守り癒す力がある。
だからイヴをHIVEの手に渡すわけにはいかない。イヴは我々の希望だ。我々は彼女を守らなくてはいけないのです。」
「さおりは俺が守る!!
あいつに約束したんだ!!」
光は言った。
「我々が責任を持って守ります。
どうかわかっていただきたい。」
ペガサスは光に頭を下げる。
「……。」
光は沈黙する。
「光…さおりの安全を考えたらそのほうがいいよ。」
美樹が説得に入る。
「……わかった。
さおりを頼む。」
「はい。
あなた方はどうされます?ここに残りますか?」
「俺は残らない…
ここにいるとさおりを連れ去ってしまいそうになる。」
光は下を向きながら話す。
「おまえがそういうなら俺も残らないよ!!」
里志が言った。
「里志…」
「今のおまえ一人だと心配だからな…!!」
結局5人とも残らないことになった。
「上まで送ります!」
ペガサスの案内で上まで上がった。
結局さおりには会えなかった。
エレベーターで上の教会まで上がる。
ガチャッ!
教会に着いた。
光はずっと寂しそうな顔をしている。
「元気出しなよ。一生会えないわけじゃないんだし…」美月が慰める。
「わかってるんだ…
でも……、これでよかったんだろうか?
さおりはそれを望んでいたんだろうか?」
光は大聖堂の椅子に座る。
慶が肩を叩いた。
「HIVEに殺されるよりマシだろ?
なっ里志?」
「………。」
「里志?」
「ん…どうした?」
「ぼーっとしてたぞ、大丈夫か?」
「大丈夫だ。」
「まっとにかく光はよくやったよ。
あとはあの人達に任せましょ。」
これでよかったのか?
話が出来すぎてないか?
どうしても納得できない。
ガタッ!
奥のテーブルが動いた。
「誰だ!?」
5人はテーブルに近づく。
そこにいたのはボロボロで、傷だらけの神父だった。
「おい、大丈夫かよ…ひどいな。」
里志と光が神父を起こす。
すると虫の息で神父が口を開いた。
「あ…あぁ…おまえらどうしてここにいる?」
「えっ…!?
さおりをペガサスに預けて俺らは他に移動しようとしてるんだ。」
「イヴをペガサスに…?
おまえらなぜ簡単に渡した?」
神父が尋ねる。
「人間の希望“イヴ”を守るのが奴らのつとめだろ?」
「イヴを守る…?
ふっ……ふぁっははは!!」
「何がおかしい!!」
「おまえらはペガサスにまんまと騙されたな…
やつの話すことは嘘ばかりだ。」
「…どうゆうことだ!?」
「DGはイヴを守る組織じゃない。
イヴの守護の力を利用し、自分達の身を守りたいだけだ!!
イヴの能力を使えば、HIVEに気付かれることはない。
そのためにイヴが必要だったんだ。」
「何だと!!」
「そのための機械を今奴らは作っている。
完成まであと5日ってところだろう。
完成したら、イヴの能力を吸い取り、守護エネルギーを放出させ、存在を消す。
しかし、その代償にイヴは死ぬ。」
「さおりが死ぬだと?
奴らは人類を守る組織だろ。そんなことするわけない!!」
「仲間だった俺をここまで痛め付ける奴らだ。
殺すことなど訳無い…
そうやって奴らは神のためにといろいろやって来た。」
「そんな……」
光は膝をついた。
さおりが殺される。
さおりが…
「おい、しっかりしろ!!俺らで取り戻せばいいんだ!!」
里志が叫ぶ。
「無駄だ!」
神父が言った。
「そこのエレベーターを見ろ。
上に上がってきただろ。
武装集団がおまえらを殺しにくる。
秘密を知ったおまえらを。」
「なんて奴らだ!!」
「早く逃げるといい。
死ぬのは私一人で十分だ…」
「逃げろだと…!!
さおりが殺されるってのに逃げるわけにはいかねぇんだよ!!!」
光がゆらりと立ち上がる。
異変に気付いた里志が言う。
「やばい!!慶、光を捕まえろ。
あいつ周りが見えてねぇ…」
ガシッ
慶が光を抑える。
「何しやがる慶、放せよ」
「すまない光!!」
ドスッ!!
里志が光を殴り気絶させる。
「来るぞ。早く行け!!
ここは私が食い止めてやる。」
神父がふらふらと立ち上がる。
「感謝します。神父…」
里志は光を担いで走る。
あとに続いて3人も走り外に出る。
「感謝します……か。
何年ぶりに言われたことか。
そんな小さな幸せを忘れていたようだ。」
神父はそういって、ポケットから手榴弾を出す。
エレベーターが開き、軍隊が出て来る。
「最後くらい正義のために使わせてくれ。
…強く生きろ、少年達よ。」
カチッ!!!
手榴弾をにぎりしめ、軍隊に向かっていく。
「未来を託すぞ、矢吹光!!」
ドーーーン!!!
教会から爆発が起きる。
遠くから教会を見つめる里志達。
「神父…ありがとう。」
そのあと里志達は近くのビルに隠れることにした。
「ん…んん。」
光が目を覚ます。
「大丈夫か?」
「ここは?」
「近くのビルの5階だ。」
「そうか…」
むくっと起き上がりドアに向かう光。
「どこに行くつもりだ?」
里志が聞く。
「決まってんだろ!!
あのやろうどもからさおりを救い出しに行くんだよ。」
「今日はもう暗くなる。
明日まで待とう。」
「ふざけんな!!
んなの待ってられっかよ。」
光は再びドアに向かう。
がしかし、美月が光の前に立ち止まる。
「どけ美月!!!」
「嫌だ。1人じゃ無理だよ」
「邪魔すんじゃねぇ。
俺だけでも助けに行く。
おまえには関係ねぇだろ!?」
バシッ!!!
美月が光の頬を叩いた。
「………。」
無言の光。
「関係ないって何よ!!
あんただけがさおりを心配してると思ってんの?
みんな心配してるよ。
だからこそ落ち着いて助け出す計画作ってんじゃない!!
あと5日あるのよ。
光が無茶して死んだらさおりを助け出せないんだよ。しっかりしてよ!!!
今の光、私の好きな光じゃない…」
美月はドアから屋上の方に走っていった。
「………」
「落ち着いたか?」
里志が尋ねる。
「里志…俺……ごめん。
さおりが死ぬって思ったら何も考えれなくて…
慶と美樹もごめん。」
「俺らはいいから美月連れ戻してこいよ。」
「わかった。」
光は屋上に走る。
ガチャッ!!
屋上のドアを開ける。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「美月…」
美月は手摺りに寄り掛かっていた。
「その、ごめん美月。俺がカッとなってひどいこと言っちゃって。」
「………。」
美月は黙っている。
「それで…その……」
「もういいよ、怒ってない。」
美月はくるっと振り向く。
「こんな言い方ひどいかもしんないけど、さおりちゃんが羨ましい。」
「だってこんなに光に想ってもらってるんだもん。」
「美月…」
「私、さおりちゃんに光を譲る。
お互いこんなに想ってるのに邪魔しちゃ悪いもん。」
「だからこそ、絶対さおりちゃんを助けようね!」
「美月……サンキュー!!」
光は優しく笑う。
「もうっそんな顔見せないで!!
ドキッとすんのよ!!」
「わりー!!
さっ戻るぞ!?」
「うん。」
ガチャッ!!
「帰って来たか。」
「わりー!!」
「光…」
里志が話し掛ける。
「さおりを救えんのはおまえだけだ。
無茶すんなよ?」
「ああ!!」
5人は手を合わせる。
「いーかみんな!?
絶対にさおりを救い出すんだ!!
力を合わせていこうぜ!!」
「おお!!!」
この時からすでに、俺達は神の怒りに触れていた。
そうとも知らず俺は、俺の希望を取り返すことに必死だった。