11:鐘の音
12月9日9時30分事務所内
9時を迎え、今日の恐怖は終わった。
しかし、目の前で人が殺されるのを見て、そして9時を迎えても静かな町を見て、6人は孤独を感じていた。
「なぁ光…」
慶が話しかける。
「俺達さ、このまま必死に生き延びて、結局どうなるんだろう?」
「……。」
光は慶の質問に答えられなかった。
町の様子を見る限り、もう人はほとんど残っていない。賑やかだった町がもう元に戻ることはない。
そう考えると、生き延びて何になるんだろうと思ってしまうのだ。
「そんなこと考えても仕方ないだろ?
俺達は今を生きるしか出来ないんだ。」
里志が慶に言った。
「でも、地球はもう元には戻らないよ。
大勢の人が…いないんだもん。」
美月が切なく言った。
「………。」
みんな黙っている。
黙っているというより、自分の生きるための理由を探している。
といった感じだ。
光も黙ったままだった。
俺の生きる希望ってなんだろう…
勉強する学校もない。
それ以前に勉強する必要すらない。
何のために生きるんだ!?
その時だった。
ゴーン!!
ゴーン!!
ゴーン!!
光の耳に鐘の音が響いた。
この音……前に聞いたことがある。
どこから聞こえてくるんだ?
光は窓から外を眺める。
「どうした?何探してる?」
里志が尋ねた。
「この鐘の音、どこから聞こえてるのかと思って…」
光がそういうと、里志は不思議そうな顔をした。
「はっ?鐘の音ってなんだよ?」
「え?聞こえてないのか?今鳴ってるだろ、ゴーンゴーンって…。」
「何も聞こえないよね?」
美樹も聞こえないようだ。
「何で聞こえないんだ?
鳴ってるじゃん…ほら。」
慶と美月も聞こえないと言っている…
「さおりは聞こえてないか?」
「えっ!?き、聞こえないよ…鐘の音なんて。」
さおりは慌てた感じに答えた。
「何で俺だけなんだよ…」
光はつぶやいた。
「……。」
ガタッ!!
しばらく沈黙していた光は突然立ち上がった。
「おい、どうした?」
里志が聞く。
「突き止める!!」
「は!?」
「だから鐘の音が聞こえる場所を突き止めんだよ。
そうすりゃなんかわかんだろ?」
光は窓を開け、鐘の音を黙って聞いていた。
「…あっちから聞こえる!!」
「はぁ…仕方ねぇ。確かめに行くか!!」
里志が言った。
みんなが腰をあげる。
「だ、だめだよ…!!」
さおりが叫んだ。
「い、いきなりなんだよ?」
「行っちゃだめ…
なんか、嫌な予感がする…」
さおりは真剣だった。
「…でも、俺は確かめたいんだ!!」
「鐘の音なんてないのよ!!」
さおりは強く否定した。
鐘の音はまだ鳴っている。
「ならさおりはここで待っていてくれ。
この鐘は、何か俺に伝えようとしてると思うんだ。
それがなんにしても、俺は知りたい。」
光は素直に話した。
「わかった…」
光の思いに負け、さおりが頷いた。
「でも、私も行く!!」
「あんなに嫌がってたのに?」
「うん。実は…私にも聞こえるの。」
さおりの発言に5人も驚く。
「聞こえるのか?
ゴーンって音が。」
光が聞く。
「それだけじゃない、何言ってるのかわからないけど男の声がする。
だから怖かったの…」
「マジかよ!!」
「2人だけに聞こえる鐘の音と男の声…
HIVEと関係あんのか?」
「なんにせよ、確かめに行くしかねぇ!!
覚悟はいいか、さおり。」
「うん。」
こうして6人は鐘の音の方角へ歩き始めた。
12月10日11時05分
「こっちだ!!」
光が先導して進む。
だんだん音が近づくのがわかる。
「まだ男の声するか?」
光がさおりを心配する。
「うん。よく聞こえないけど、私を呼んでる気がする。」
町外れの場所まで歩いて、人気のないところに着いた。
「ここだ!!
この中から聞こえてくる。」
そこにあったのは大きな教会だった…
「こんな場所に教会があったなんて知らなかった。」
教会を見上げながら美樹が言った。
「でけぇな…
でも教会の鐘、動いてねぇぞ!?」
慶が光に言った。
「間違いなくここだ!!
感じるんだ!!誰かが呼んでるのを…。」
光はさおりも何か感じてるのかと思って、さおりを見る。
しかし、さおりは頭を抑えうずくまっていた。
「さおり?
どうしたさおり!!!」
「あ…頭が……痛い。
誰かが私を呼んでるの…何度も…何度も…。」
さおりは地面に膝をついた。
「おい!?しっかりしろ!!さおり!?」
光がさおりの肩を掴んで話しかける。
4人も心配そうに見つめる。
ガチャッ!!
教会の扉が開いた。
中から神父らしい服を着た男が現れる。
「おや?どうされました、このようなところで…」
「神父さん…助けてくれ!!さおりが苦しそうなんだ。」
「わ、わかりました。
とりあえず中へ…」
神父に連れられ、大聖堂でさおりを休ませる。
「ところで貴方がたは?」
神父が尋ねる。
「俺は矢吹光です。後は里志、慶、美樹、美月、そして横になってるのがさおりです。」
光が説明する。
「ふむ。それでこんな町外れの教会に何の御用ですかな?」
「実は………」
光は今までのことを話し始める。
「なるほど…
光さんとさおりさんにだけ聞こえた鐘の音を辿ってここまできたと言うわけですか………。
すいません、少し電話をしてきてもよろしいですかな?」
神父は急に態度が変わり、いそいそと奥に行ってしまった。
それを見た慶が光の元に近づき言った。
「なぁ…この教会おかしくね?」
「おかしいって何が?」
美月が慶に聞き返す。
「だって、こんな広い教会で、いるのはあの神父だけだろ?
それに、こんな時に誰に電話するんだ?」
言われてみれば変だ。
5人は神父の電話が気になった。
「俺ちょっと盗み聞きしてみる。」
慶はドアの近くに行き、聞き耳をたてる。
微かに神父の声が聞こえてきた。
「……い、そうです、見つけました。
まちが……く………です。時間を稼ぐので、お早く…」
「見つけた?
……時間を稼ぐ!?」
慶は急いで光達の元に戻る。
「どうだった?」
「まずいかもしんね…
見つけたとか、時間稼ぐとか言ってやがったぜ!」
「どうするよ?」
里志が光に聞いた。
「……少し、様子を見てみよう。」
ガチャッ!!
神父が戻ってきた。
「いやー、すいません。
シスター達の帰りが遅いので心配になりまして…。」
シスターに電話?
とてもそんなふうには見えないが…
やはり何か隠している?
「ところで、君達は奴らから隠れる場所があるのかね?」
「いえ、とくに…」
「ならここに泊まりなさい。」
「……いえ、遠慮させていただきます。さおりを連れて出ていきます。」
そういって光は立ち上がりさおりの近くに歩く。
「そういうことなんで、失礼します。」
里志が神父に一礼する。
後に続いて慶達も立ち上がる。
「クックックッ!!」
突然、神父が笑い出した。
「残念だが……そうはいかないんだよ!!!」
神父は先程と態度が変わり、すごい形相でこちらを見る。
「あんた誰だよ?」
光が聞いた。
「それを知る必要は………ない!!」
バーン!!!
その瞬間武装した軍隊が扉から現れ、光達を囲む。
「何だこいつら!!!」
慶が一歩前に出る。
「動くな!?」
軍隊が銃を構える。
「くっ…!!」
後ろに下がる慶。
コツ…コツ…
神父がゆっくり向かってきた。
「やれ。」
ガツッ!!!
軍隊は銃で5人の首を殴る。
「がはっ!!」
5人は倒れ込み、気絶した。
「例の場所に運んどけ…
ボスに伝えろ、“神の予言を実行するときがきた”とな!!」