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【2025/09/30翻訳書籍化】こちら、あやかし移住転職サービスですー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第五章・柳川、そして立花山。淋しい狐と私の顛末。

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1.土地付き一戸建て所有猫

 篠崎さんの車でアパートに送られてから、私はふらふらの足取りで部屋に到着した。

 そしてすぐに、フォローに回ってくださった羽犬塚さんに電話する。


 私が声を出す前に、羽犬塚さんはいつもの明るい声で話しかけてくれた。


「大丈夫、楓ちゃん〜! 急に攫われたんでしょ〜?? えっちなことされなかった?」

「全くされてません! ご安心ください!」

「あららそう〜? 篠崎さんにもされてない?」

「しっ篠崎さんとも健全な関係です!!!」


 声が裏返る私に、電話の向こうでクスクスと笑う気配がした。


「それならよかったわ〜。ふふふ、私の件は大丈夫よ。元々博多駅の近くにお使いに出てたから、すぐに対応できたし。楓ちゃんが気にする必要はないのよ〜」

「ありがとうございます。でも申し訳ありませんでした……今度から攫われそうな時はすぐに○やかけんビームで応戦します」

「それもどうかと思うけどね〜」


 その後私たちは当たり障りなく会話をして電話を切った。

 切った瞬間にふと思う。羽犬塚さんは普段ケモモフな黒柴犬さんの姿にOL服を着てお仕事している。ケモナーさんがホイホイされるような見た目だが、人間らしさは低い。


「あの姿で博多駅でお使い……?」


 もしかしたら篠崎さんのように、普通の人間に近い姿にもなれるのかもしれない。逆に篠崎さんももしかしたら、羽犬塚さんのようなケモモフな狐さん姿にもなれるのかも。いつかその姿でもふもふさせてもらいたい、是非とも。


「……篠崎さん……」


 篠崎さんの事を思うだけで、自動的オートマティックに頬が熱くなっていく。触れられた場所がじんじんする。車の中でキスされた、あの一瞬が何度も何度も甦ってくる。

 あの時初めて、「社長」でも「霊力の世話をしているあやかし」でもない「篠崎さん」に触れた気がする。

 篠崎さんの過去を聞くのは怖い。こんな甘い気持ちに浸れるのなんて今だけかもしれない。


 だからせめて、今だけでも篠崎さんの匂いとか、キスの感触とか、優しい声を何度も反芻していたかった。


「にゃあ」

「ぎゃーーーーー!!!!!!」


 風呂上がりの夜さんが猫の姿でやってきていた。

 私の叫び声にびっくりしたのか、黒い毛並みがぶわわ、と立っている。


「……ごめん、びっくりさせちゃったね。考え事しててちょっとぼーっとしててびっくりしちゃった」

「そうか」


 夜さんは猫の姿で、私のそばにぴたりと寄り添って丸くなる。霊力充電中の夜さんの頭に手を伸ばすと、耳がぺたんとヒコーキになる。可愛い。

 悶々とした気持ちを猫もふ欲にすり替えようとするものの……やはり落ち着かない。

 私はゴロゴロと喉を鳴らす夜さんを見下ろした。


「夜さん、週末はどうするの?」

「元の主人の屋敷に帰る。草むしりをして綺麗にしてくる」

「あ。そういえば、元のご主人のお屋敷を買ったんだよね」


 なんと、夜さんは元のご主人がずっと住んでいた土地を購入していた。

 雌猫又さんたちを助けた中洲の夜、彼は猫又さんの有力者に好意を持たれ、土地を買うための後ろ盾や保証人を得られたらしい。

 現代ではかなり交通の便が悪い山の上の土地なので安かったのであっさりと手に入り、夜さんは嬉しそうだ。


「そうだよね、夜さんは夜さんで忙しいよね……」

「掃除が済んだら楓殿も招待させて欲しい。茶を立てよう」

「そういえば元々お武家さんの猫さんなんだよね、夜さん。すごいなあ……」


 夜さんを撫で撫でしながら私は物思いに耽る。

 一人で週末を過ごしたくない。じゃあ誰と会おうか?実家に帰ろうか?

 でも実家で結婚だとか将来の話題をされたら凹んじゃうかもしれない。


 そんな時、狙い澄ましたようにスマホが音をたてる。

 片手を伸ばして手に取れば、メッセージの送信者に春ちゃんの名前があった。


「春ちゃん!」


 私は浮かれてタップする。


——————————————

 春:今電話していい?


 もちろんだよ!:Kaede

——————————————


 既読になってすぐに、電話がかかってくる。電話の向こうから春ちゃんの柔らかな笑い声が聞こえた。


「楓ちゃん、取るの早すぎ」

「えへへ……ところで春ちゃんどうしたの?」

「ねえ、突然だけど週末空いてる? 一緒に柳川観光しない? 御花のチケットをもらったのよ」

「柳川!」


 渡りに流し船とはこのことだ。

 柳川は私鉄で天神から45分ほど降った場所に位置する、筑後屈指の風光明媚な城下町だ。町に張り巡らされた水路クリークと、城下町ならではの町の作りが魅力で、最近観光キャンペーンが盛んに行われているので気になっていた場所だ。

 職場のある天神地区だとどうしても、篠崎さんと一緒に過ごす日常を思い出してしまう。そんな状態で柳川へのお誘いは嬉しい。


「どうかな?」

「いくいく!」


 春ちゃんの言葉に食い気味に返事する。


「ちょうど誰かと遊びたかったんだ。誘ってくれてありがとう」

「じゃあ明日10時、天神駅の大画面前で待ち合わせね」

「了解! お腹空かせていくね」

「もう、楓ちゃんってば」


 くすくすと春ちゃんは笑う。


「楓ちゃんとのデート、楽しみにしてるわ。……()()()()()()、いっぱい食べましょうね」

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【連載開始しました!リメイクのご当地あやかし異類婚姻譚です!】
身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。―福岡天神異類婚姻譚

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