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太陽

そう、わかっていた


いまさら高校に行けば周囲に溶け込めないこと


奇異の視線が向けられること


入学したてのクラスでの自己紹介


「小鷹幸明です、よろしくお願い致します。」



今まで、数えきれないほど挨拶はしてきたはずだ


時には厳粛な場で、時には公的な場で、時にはユーモアを聞かせた談笑だってやってきた


それでも、こんなシンプルな自己紹介しかできなかった



「緊張してたんだよな…」


振り返り一人でつぶやく



それでも、3年は乗り切ろう


せっかく、社長が気を利かせたのだ


甘えよう


そう…さっきまでは思っていた




「はぁ、はぁ…


無理だ、もう、無理だ…」



今までの人生で、こんなに走ったことはない


ましてや、たかがアラサーの営業マンが…


ビール腹が出てきた中年が…




20メートルを音楽に合わせて何度も往復するなんて




恐るべし、20メートルシャトルラン




60回超えたあたりで力尽きた


そこから、体育館の端で大の字に寝転がったまま動けないでいる



「あの…大丈夫ですか?」


一人の男子が上からのぞき込む


「ああ、心配をお掛けしてすみません。」


幸明が営業口調で応える


「そ、そんな、敬語なんて使わないでください。」


「そちらが敬語を使わなければ私も使いませんよ?」


幸明が上体を起こしながら言う


「でも、小鷹さんはおそらく年上ですし…」


「クラスメイトですよ?


それともクラスメイトとは認めてくれないと?」


「い、いえ、そういうわけじゃ…


えっと、じゃあ、よろしく小鷹君…。」


少し遠慮気味に言う


「こちらこそよろしく。


改めて、小鷹幸明、29歳独身。


よろしく。」


「あ、うん。


大空 太陽おおぞらたいよう、よろしく。」


「きらきらした名前だな。


さて、そろそろ集合みたいだぞ?」



「あの、本当にいいの?


敬語じゃなくて…」


「普段、自分も相手も敬語ばかりだからな。


たまには互いに敬語を使わない、友達ってやつが欲しかったところだ。」


「…友達、だよね。


うん。」



太陽が嬉しそうに笑う















昼休み


「小鷹君、ごはん一緒に食べない?」


「おう、太陽か…じゃあ、学食に…と、そちらの美しいお嬢さんは?」


太陽の後ろに立つ少女に目を向ける



「僕の双子の妹でB組の翼。」


「は、初めまして。


1年B組の大空 つばさです。」


翼が恥ずかしがりながら言う


「小鷹幸明です。


よろしく。」


「妹も一緒にお昼行きたいんだけど…いいかな?」


太陽が遠慮がちに尋ねる


「むしろ、美女と二人きりで食事がしたいからお前は邪魔だ。」


「ええっ!?」


「よし、翼。


おじさんがホテルの最上階にある夜景のきれいなレストランに連れて行こう。


もちろん、食後にはスウィートなお部屋で…」


「それはセクハラよ!」


幸明の頭頂部を背後から本の角が攻撃する


「いったぁ!


こんな無礼を働くお嬢さんはどちら様で?」


幸明は頭を押さえながら本を手にした少女を見る



「学級委員の高塚 莉桜りおよ。


セクハラおじさん。」


莉桜がにっこりとほほ笑む


「まぶしい笑顔が素敵だ、結婚してくれ。」


「嫌です。」


莉桜がさらにほほ笑む





莉桜も加えて学食に集まる4人


「それにしても、急に友達が3人もできた。」


幸明が言う


「本当はもっと早く話しかけたかったけど…どうしたらいいかわからなくて。


もともと、友達がいなかったから余計に…」


太陽が言う


「私も友達が全然できなくて…お兄ちゃんが友達を紹介したいっていうから誰かと思ったら学校中で噂の小鷹さんだったからびっくりしました。」



「小鷹さんだなんて他人行儀な…


気軽に小鷹君とか幸明君とか、ダーリンって呼んでほしいな。」


「他人行儀というか他人でしょうが…


私も声の掛け方がわからなくて…」


「にしては、かなり砕けてる気がするけどな。


これも何かの縁だ。


手始めに名刺交換でもしとくか?」


「それをいうなら連絡先交換でしょ…。


名刺なんて持ってないわよ。」


「ナイスなツッコミだ。


夫婦漫才でM-1を目指そう!」


「嫌。


さて、さっさと携帯出しなさいよ。」


幸明の話をバッサリと切り捨て連絡先を交換する




「そういえば、来週のテスト、勉強してる?」


太陽が言う


「中学までで習った範囲で出るってやつね。


まぁ、大丈夫でしょ。


受験で勉強したのとほとんど変わらないわよ。」


莉桜が言う


「べつに、おさらいなだけで赤点とか追試がないならできなくても大丈夫だろ?」


幸明が言う



「うわ…勉強できないやつのセリフね…」


「いやいや、そもそも中学なんて俺からしたら何年前だよ、っての。」


「つっこみづらいこと言わないでよ…」


「翼…さっきから黙ってどうしたの?」


太陽がスマホを持ったまま動かない翼に言う


「あ、あの、男の人の連絡先…初めてだから…うれしくて。


でも、最初になんて送ればいいかわからなくて…。」


翼がもじもじとしながら言う


「そこは 好き の二文字がオススメだな。」


幸明が言う


「真に受けないほうがいいわよ。」


莉桜が言う


「別に何でもいいと思うけど…


あ、もうお昼が終わるよ。」


太陽が言うと同時に予鈴が鳴る


「教室に戻りましょう。」


莉桜の掛け声で教室に戻る



「午後は眠いな。」


幸明が自分の席に着きながら言う


と、スマホが一瞬震える


翼からメッセージが来ていたので幸明は手短に返す





《よろしくお願いします。》


《おう、末永くよろしく》









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