僕の騎士と私の侍女は両想いなので付き合わせるために婚約者となりました
今から私は婚約者とお忍びデートという名の尾行を開始する。変装は完璧だ。サングラスをし口元を隠している。
目標は2人。彼の騎士と私の侍女だ。
2人はカフェで話を楽しそうに話をしていると後ろの方から「2人は、どうかな」と声をかけられる。私の婚約者だ。婚約者は、私のために、あんパンを買ってきてくれた。そして、この婚約者は国の第2王子カインである。ちなみに私の名前は侯爵家令嬢、そして第2王子の婚約者となる。私、セイラである。普通であれば私がパンを買いに行くのが普通なのだが、私たち婚約者は普通ではなかった。
こうなったのはあの日のこと――
第2王子が、我が家に挨拶に来た際に私は逃げた。いや、逃げてはいないのだ。木に登って、部屋の中の様子を見ていた。普通の令嬢なら、こんなことはしない。ましてや王族相手。こんなことをしたら無礼である…有り得ない事に逃げた。父は頭が痛いだろうなと思ったが部屋の中の様子を見て父が普通に笑っていたので、おかしいと思った。そして私はあることに気づく。父の前に座っている相手は第2王子ではなく第2王子付きの騎士ということに。
「なんでアイツなんだ」
と前のめりになった瞬間。
私はツルッと高い木から落ちてしまった。
いや落ちてはない。落下したがクッションという名の人がいた為、大丈夫だった。
「すまない、大丈夫?」
家のものなら「またお嬢様の野生児が」と頭を抱えて言われるだけで済むんだがそうはいかなかったらしい。
「痛いな〜鍛えてなかったら僕ぺっちゃんこになってるよ。ここは噂通りだな」
「野生児」私のあだ名である。主に悪口。周りの貴族にもあの家には野生児がいると笑われていた。
イテテという痛がる青年には見覚えがあった。綺麗な金髪で、王族にしかありえない緑色の目をした私の婚約者候補をクッションにしていたらしい。
「何故、貴方がここに?」
「待って君も何故ここに?」
お互いがお互いここに居るはずが、ないから驚きが隠せない。
「もしかして…」
王子が口を開く。
「僕がいる場所を見つけて追いかけに来たの?」
否定をしようと思ったが勘違いをした王子は続ける。
「やだな〜聞かなかった?僕と君は婚約者にはなれないって断りを入れたんだけどな」
何だこの勘違い王子。キレそうになりながらも黙っておく。
「王子に幻滅しただろう、こんな王子様なんて嫌だってね。理想じゃないってね。ほら、泣いておかえり」
あしらわれた挙句に笑われキレた。いつものように家にいる時だけ許されている言葉使いで。
「勘違いしてるのはお前だ!王子と婚約なんてこっちから願い下げだし!ここにいるのは、この話を破断させるためにいるんだ!というか、木の上から部屋を見ていただけだ!」
一気に言ってしまっていた。王子は目をまん丸として口をあんぐりしているが、お構い無しに言わせてもらった。
「だが、そうか。破談になったんだったら良かった」
そのまま去ろうとしたら王子が口を開けた。
「君、令嬢なのに木が登れるのかい?」と。
「えぇ、それが何か?」
振り返ると王子は「僕も登ってみたい」と私のすぐ近くまで来た。
「へ?」と呆気に取られてしまったが王子は、お構い無しに木に登ろうとしている。
何故、登りたいのかと聞くと部屋の中の様子が知りたいと言っていた。私も、さっきからあの部屋にいた3人のこと気になっていたのでもう一度、王子を連れ木に登った。
王子は木に登ると「凄いなぁ景色が綺麗だ」と感動していた。
「王子あの部屋です」と指差し王子と2人でその部屋を見た。
侍女のエリーが顔を赤らめていた。
「え?赤い」
「え?何が」
「いや違う!エリーが…!私のエリーが赤らめている!」
「君の侍女が僕の騎士に惚れただと…??」
「えぇ、絶対あれは惚れている顔です」
エリーが照れてチラッと騎士と見るとまた照れてという光景が見られた。
騎士の方はどんな方なのだと、よく知っている王子に聞こうとすると王子が部屋を見てビックリしていた。
「照れてる…!!ライが…あのライが!」
先程の私はこんな感じだったのか。
だが騎士のライといわれる方を見ても照れているようには見えなかった。いや背中しか見えない。顔が見えなかったから照れているのかもわからない。
「どこが照れているのです」と聞くと「耳が真っ赤だ」と言われた。確かに耳が真っ赤だ。
「なるほど…ではあの2人両想いなのでは」
「確かに…」
2人は見合わせて心で同じことを思っていた。よし、あの2人を付き合わせようと――
それには、あの2人を定期的に会わせないといけない。王子と話してみたらお互いが無理だった。主人の隣に絶対いると主人思いのあの2人には無理であった。だが、幸せになってほしいと思う主人たちはこう考えた。
自分たちが『婚約者』となれば2人は自然に会えると――。
「セイラ殿。先程の無礼は詫びよう。もし良ければ私の婚約者となっていただけませんか?」
「えぇ私も先程の無礼を詫びますわ。もちろんです。よろしくお願いします」
木の上で第2王子カインと侯爵家令嬢セイラは運命共同体として婚約者となったのだった。
「では、必ず幸せにしましょう」
「あぁ、必ず」
誓いを立てた――。
という経緯があったのだ。普通じゃない?って、そんなの私たちが1番わかっている。
「パン食べない?」
隣で、しゅんとしている王子もあの頃からすれば印象が、かなり変わった。
「食べます、ありがとうございます」
「どういたしまして」と言って笑って尾行を始める。毎回している訳では無い。今回が初めてだった。ライとエリーのデートは今日が初であった。カインと会う度にひっそりと消え草むらからカインと2人の様子を見ていた。今回初めての2人のお出かけだ!やっと進展!嬉しい、ものすごく!これで2人が付き合えばと思っている。どう転ぶか気になるからこんな感じに2人で尾行しているのである。これが私たち2人の趣味って言う訳では無いので誤解はしないでほしい。まぁお忍びなので他の貴族にはバレても婚約者との親交を深めていたと言えばいいのだから楽なものである。
「ずっと眺めていても疲れるから気分転換に僕らも少し歩かないかい?」
「そうですね、少しなら」
少し歩いたところで王子がスタスタと歩いて行ってしまい。私は、王子を探していたら変な男たちに捕まった。
そのまま腕を掴まれて、街の裏の方に連れていかれた。
「怖がるなよ、お嬢ちゃん」
と気味悪い笑みを浮かべた男はニヤニヤとセイラを見た。
「離してください」
「離してくださいって離すわけねぇだろ」
男に言われ、それもそうだなと冷静にセイラは納得してしまった。
「お前、セイラだろ?侯爵家令嬢の。いや依頼でな『攫って欲しい』って頼まれてたんだがこんな別嬪さんなんてな〜」
ジロジロ見られて気持ちが悪かった。それよりも誰が依頼したのか…と言われれば分かる。あの婚約者のせいだ。外に出た瞬間これか、あぁ萎える。てかこの人めっちゃ喋るじゃん。何を言ってんだが、と思ったら手を伸ばしてきた。その手を掴み私はその男を投げ飛ばした。
その場所に、ちょうどよく私の婚約者が来た。男は現れた王子をみて邪魔が入ったとキレる。
「お前ッ誰だ!」
「私か?私は、この者の知り合いだ」
男は王子をジロジロと見て鼻で笑った。
「弱っちい男だな」
「ほら、女そんな弱々しい男より旦那の方がいい男だぞ」
とモブ共も王子を笑った。
「後ろに隠れていろ」と王子に言われたが隠れているつもりはない。
「楽しい遊びでは、ないですか」
「我慢しろって言う方が無理ですよ」
男たちは「おぉやれやれ!」と言ったモブ1人セイラに殴られ、モブ共はセイラに襲いかかった。セイラにグーパンされたり蹴りを入れられたりと、みんな散々とやられてしまった。
残っているのは、その光景をびっくりしている男と下を向いて震えている王子だけだったら。そんなのお構い無しに冷たい目で男を見つめてセイラ言った。
「貴方、笑いましたね?」
急な質問にびっくりした男は「え?」と怠けた声で返事をした。
「私の婚約者を笑いましたね?貴方」
と男を胸ぐらをつかみ拳をあげようとするともう1人下を向いて震えていた王子が止めた。
「セイラ、そんなに怒らないでよ」
「あー笑いが止まらない」
涙が出てくるくらい笑ったと言って王子は男を殴って剣を抜いた。男はビビって逃げようとしたが、そのまま気絶してしまった。
「なんで自分の手でやるかな」
私の手を触り傷がついていないか確認しながら言ってくる。
「周りが見えなくなるのは本当に君の悪いところ」
説教も少し混ぜて申し訳なさそうにでも嬉しそうに王子は言う。
「嬉しかったけど、今度からは、こういうのやめてね」
「…分かりました。でも今回は良かったでしょう?」
「ン?何が?何がかな?」
「私の言葉使い聞きましたか?綺麗でした?」
「悪い言葉使わないように心掛けましたの」
自信満々に言う。
「気にするところは、そこなのかな」
本当に僕の婚約者殿は…と言ったので呆れるのかと思いきやお腹を抱えていた笑いだした。数秒、数分笑った王子がキリッとし、明るいところにいたライを呼んだ。何故ライがいるのに呼ばなかったのかと問うと、呼ばなかったのは、かっこつけたかったからだとと言われた。ライが呼ばれると元気よく返事をしライと共にエリーも来た。エリーは、どこかでこけたらしい。服が汚れてしまっていた。
ライはちょっとしょげてるエリーを愛らしく見ているがエリーと目が合い2人とも顔面を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
可愛いなーもう。
「さぁて、お片付けしよう」
パァンと手を叩き切り替えをした王子は絶対に言わないが、ちょっとかっこよく見えてしまう。絶対に言わないが。それにちょっとだが。
その後は、王子とライのおかげで迅速にことが進んだ。雇い主はやはりある所のご令嬢であった。理由も当たりで、私の理想の王子様を取られたとからと話していたらしい。
「僕は物じゃないのに酷いし、僕は理想の王子とかけ離れてる気がする」
「それもそうですね」と適当に相槌を打つ。本日は、2度目の尾行である。
「早くあの2人付き合わないかな」
「いいですか。あの2人には、あの2人のペースがあるんです」
「急かさないで、あげてください」
「わかってるけどさ」
でも早く2人が付き合わないと、何も進展できないじゃんと心の中で思って今日も今日とて運命共同体として頑張っている。
好きな人には臆病者な王子と令嬢でした。
読んでくださってありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)短編です。もしかしたら続くこともあるかも、しれないです(^^;
思いついた話を、きちんと書けて良かったです(*´-`*)