クマの親子、寝床の中で
森の中にお母さんクマと、二匹の子どものクマが住んでいました。
小さいかわいい赤ちゃんクマです。
三匹は森の奥の洞窟の中で暖かい木の葉の布団の中で眠っていました。
長い長い冬の間、こうしてグッスリと眠ることがクマにとっては必要なことなのです。
しかしちびクマたちは目を覚ましてお母さんクマを揺り起こして困らせます。
そんな時お母さんクマはお話をして眠らせてあげるのです。
「ねぇお母さん。お話して」
「しょうがない坊やたちだこと。じゃあ春のお話をしてあげようね」
「うんボクたち、そのお話大好きなんだ」
お母さんクマは子どもたちの木の葉の布団をもう一度かけ直して話し始めます。
「春になると、野原には小さいお花が咲いてとてもキレイなのよ」
「さかなのウロコより?」
「アレもキラキラ光ってとてもキレイだけど、お花もとてもキレイなのよ」
「へー春を見てみたいなぁ」
子どもたちにとっては初めての春。
お母さんクマに聞く春が楽しくて仕方がありません。
「それから、虫たちがたくさん飛んでね、おいしいお魚さんたちも川をグイグイ泳ぐんだよ」
「へーまたおさかなを食べたいなぁ」
「そしてとっても温かくて、雪なんてあっという間に溶けちゃうんだから」
「雪ってあの白いやつ?」
「そう。白くて冷たいやつ」
「ボク、あの白いの苦手だなぁ」
「そうよね。あの白いのも春になると消えて無くなるのよ」
「ふーん。どうして」
「温かくなるからよ」
「このお布団より?」
「そう。お布団なんていらなくなっちゃう」
「どうして温かくなるの?」
「それは……春になってのお楽しみ」
「そうかぁ。早く春になるといいなぁ」
「そう。だから二人とも良い子でまたおねんねしなさい」
「うん」
子どもたちはまた布団の中で眠りにつきます。
やがて、木の上に乗った雪がドサリと落ち、ポタポタと雫の垂れる音にお母さんクマは目を覚まし、子どもたちを揺り起こします。
「ほら。二人とも起きなさい。春が来たわよ」
「ほんとぅ?」
三人は仲良く起きて洞窟から出ると、そこはまばゆいばかりに輝いて、草原には小さな花も咲き始めています。
わぁ! とはしゃいで飛び出す子どもたちをお母さんクマが心配になって追いかけます。
森に春がやって来たのです。
それはクマの親子だけではなくたくさんの生き物たちにも平等に訪れます。
それは太陽からの贈り物。
温かな光が命を作る大事な大事な贈り物。
【おしまい】