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リアル・おふライン!?  作者: 立風 颯
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憤怒の審判

趣味程度に楽しんでかけていければ幸いです。


コメントなどもらうと、作者は飛び上がりますのでよろしくお願いします!

 さっきから浅い呼吸を幾度となく繰り返し、俺の頭は既に霞がかっていた。意識は朦朧とし、足を踏ん張って立ってるだけで精一杯だ。


 体中傷だらけだが、痛みは無い。その代わりに心臓が身体の危険を伝えるかのように、必死に鼓膜を叩く音だけが、頭の中を支配していた。ちらりと視界の右上を確認すると、緑色の円ゲージは半分ほど削られている。


 それに対して、今目の前に現れたこいつはどうだ。こちらの疲弊を嘲笑っているかのように口の端を上げ、この暗闇でもはっきりと分かるほどの怪しい光を帯びた白い目が、まっすぐ見つめてくる。犬みたいな顔をしている癖に、可愛げのないやつだ。


 先程までの戦闘から、今はまでとは違う不快な点が一つあった。それは、奴らが実際に生きているということだった。奴等を斬った時、確かな弾力があったのだ。生きた動物の骨を、血管を、筋肉を斬り裂く感覚が、はっきりと腕から体全体に伝わってきた。これが仮想と拡張の違い。いや、仮想と()()の違いなのだろうか。


「グガァァァァァァ!!!」


 傷だらけにしては余裕そうな顔をした俺が気に食わなかったのか、目の前の犬型モッブのコボルト=サーヴァントは突然、雄叫びを上げながらこちらへと突進し、連撃を繰り出してきた。


「……遅いんだよ……」


 遅い。こいつらの攻撃は格段に遅かった。現に、ほとんど防具を付けず、黒のパーカーに適当なズボンを履いただけの俺に、ほとんどこいつはダメージを当てれていなかった。もっとも、集団で襲ってこられたら、こちらも対応しきれないのだが。


「グ……ガガガァァァ!!」


 渾身の乱撃をいともたやすく防がれたことに腹が立っているのか、コボルトは肩で息をしながらその鋭利な牙を晒し、こちらに唸っている。


「おいおい、なんでお前がキレてんだよ」


 腕をだらんと下げ、初期装備である木剣を上段に構えながら煽るようにコボルトを見つめる。その顔や体は、蛮族にふさわしい、余りにも野蛮なものだった。


 こいつらは弱い。俺のレベルよりいくつも下にランク付けされるモッブだ。そう、俺になら倒せた。怪我人を出さずに、還付なきまでに。なのに、()()()()()()。その考えが頭を(よぎ)るだけで頭には血が登り、あの光景を思い出すだけで自然と剣を握る右手に力がこもった。


「キレてんのは……こっちだよ!!!」


 この不毛な戦いを終わらせようと、俺は地を蹴り、すぐさまやつとの間合いを無くした。急な俺の攻撃に不意をつかれたのか、コボルトはすぐ目の前で驚愕の顔をしている。構えていた剣を振りかざすと、コボルトはなんとか我に返り、ギリギリのところでガードを入れる。


「お前らは俺の家族を殺した! 母さんも、父さんも、兄弟達もだ! 俺は絶対に許さない。絶対にだ!!」


 声にならない叫び声を上げながら、ぶつけた剣にありったけの力を入れていると、不意に家族の姿が頭の中に現れ、頬を流れるものがあった。


 あぁ、みんな。守れなくてごめん。間に合わなくてごめん。守れたはずなのに、救えたはずなのに。虚しみや悔しみや寂しみが一緒くたにされた感情は、自然と怒りへと変化していった。しかも、ただの怒りじゃない。憤怒だ。やり場のなくなったこれらの負の感情を力に変換して暴れる憤怒が俺の心に宿っていた。


「アアアアアアアア!!!」


 それが怒りに支配された俺の喉から発せられたものなのか、それとも死の恐怖を感じたコボルトによるものだったのか分からない。分からないが、一際大きな絶叫が辺りに響いた瞬間、握ってた剣の抵抗が突然なくなり、そのままグニュッと不快な感触が身体を駆けずり回ったと思うと、俺はコボルトの身体を左肩から右の腰にかけて一刀両断していた。


 


 真っ二つに別れた身体がそれぞれ塵となって空へと消えていき、コボルトの死を完全に確認すると、俺は手に持った木剣を腰の左にある木製の鞘に収めた。すると、自然と身体の重心が少しだけ左にずれる。やはり、この剣も実在する物体であるのだ。


 そして、体力切れだ。突然足から力が抜け、俺はばたりと地面に倒れ込んだ。思い返せば今日はほとんど何も食べていない。朝は急いで出ていったし、昼前には()()が起きてずっと戦い続けていた。それに、連続戦闘によるアドレナリンが切れてきたのか、今更ながら外の空気の寒さに身体が反応する。


 このままじゃ餓死か凍死か、はたまたモッブたちに食い殺されるか。どのみち自分が危険な状況にいるということは間違いない。段々と息もしづらくなってきた。頭の霞がさらに濃くなってくる。


「まぁ、これでみんなに会えるなら……それも……」


 遠い彼方に淡い光の存在を確認したところで、俺の視界は完全に暗転した。

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