第二話
氷のお嬢様がオススメしていた喫茶店はどこにでもあるような洒落た喫茶店だった。
お嬢様は本当にここの常連のようで、店員さんはお嬢様を見るならまた来てくれたんですね、ありがとうございますと言った。
お嬢様はそれを笑顔で返すと、コーヒーとピーチケーキをお願いしますと言う。それをどこか遠くで聞いていた私にお嬢様が目を向けた。
「貴方はなにに致します?」
私は、ハッキリとしない頭のままホットミルクと答えた。
お嬢様は他はいいのかと聞いてきたが、私は、いらないと答えた。
お嬢様はじゃあミルクコーヒーとピーチケーキもお願いします。といった。わざわざ私の為にケーキまで奢ってくれるらしい。
お嬢様は、カウンターから離れた窓側の席に着いた。私は、机を挟んで、お嬢様の前へと座る。
「今更ですが名前を言わせて頂きますわ。知っているでしょうけれど、私は氷上綾と言います。あなたは、炎谷焔で良かったかしら?」
「それであっているよ。まさか、私みたいなやつの名前を覚えていてくれているなんて、嬉しい。」
私は、まさかこの氷の女騎士頑張れ、私のことを知っているだなんて思わなかった。名を捨てたという汚点を持っている私の家系を見ていただなんて。
お嬢様は口を開いた。
「用事はキャンセルしたわ、ゆっくり話しましょ。どうせ用件はあのことでしょうし。さすがに疎かにできない事ですもんね。」
そうだ、私がわざわざ個人情報を集めてこのお嬢様に会いに来たのには理由がある。
私は、一度深呼吸を小さくすると目の前のお嬢様に言った。
「お願いします。私と”ペア”になってくれませんか?」
お嬢様はそれを待っていたと言った顔でそれを聞いていた。
好きな人に告白をするよりも緊張しているようだ。手に汗をかいていた。
私が今から参加したい戦争に参加するためには”ペア”を作らなければならない。それは、共に戦う相棒と行った感じのものだ。
私が聞いた限りでいうと、やはり北欧の伝記を元にしたためそうなってしまったと聞いたが、わざわざこんなにも面倒くさいシステムを作った人を私は理解できない。
お嬢様の返事が来る前に、先程頼んだケーキとホットミルクミルクが運ばれてきた。
お嬢様の方にも同じようにコーヒーとケーキが運ばれており、お嬢様は一口コーヒーを飲んだ。
そして、話し始める。
「私、ここの喫茶店が大好きなんですの。以前、父に連れてこられて、わざわざ普通の喫茶店に入るんだ。と思いましたわ。しかし、入った瞬間この空間を好きになってしまいました。」
私は、何を話し始めたのかと思ったが、口には出さないことにした。私としてはそんな話よりも、私の用件の返事をして欲しかったのだが、聞いておくことにした。
「私は、ここに来てホットミルクを頼みましたわ。私の召使いよりも美味いものが作れるのかそれが知りたかったんですの。まぁ、結果を言うと私の召使いの方が美味しかったんですが。でも、ここの店主様がとても良い方で、私の知らないことを沢山教えて頂きました。それからというもの、私はここに通うようになりました。」
お嬢様はケーキを一口、口に含んだ。その様子を私は、見つめる。
私は、まだホットミルクとケーキに手をつけてはいなかった。
「私は、色んな方からペアになってくれと誘われています。手紙だったり、電話であったり。」
お嬢様は、私の目をしっかり見て言った。
「でも、わざわざ私を呼び出してその用件を話してくれたのはあなたが初めてですわ。焔さん。」
お嬢様が私の名前を呼んだ。
私は、それに少し驚く。私の事を貶しているのかと思っていた。女騎士の恥として言われている私を。お嬢様は名前で呼んだ。
「私は、面白いことが大好きですの。貴方と”ペア”を組んだら、面白くなりそうですわね。」
お嬢様は、またコーヒーを一口飲んだ。
私は、その様子をただ見る。
「良いでしょう、私でよければ”ペア”になって差し上げますわ。焔さん。」