第一話
「いきなり呼び出して何の用ですか?まぁ、予想はしていましたけど。」
駅の入口、高そうな制服に身を包み、日除け傘を手に持っているお嬢様は、いつだって気だるそうにしていた。
お嬢様学校に通っている生徒に近づくのは少し勇気が要る物だと私は思う。だって、制服や校章が違うし、私が通っているような誰でも行けるような高校と1番違うのは、身にまとっているオーラだ。それは、今まで礼儀や作法を丁寧に教えられただけはあると思わせる。
結果、私は少しこのお嬢様に対して近寄り難いと思っていた。
「早く用件を言って下さる?私、もう少しで習い事があるのですが……。」
お嬢様はそう言うと、気だるそうに欠伸を1つ零した。
私は、勇気を振り絞り一歩を踏み出す。決してこの行動が誰にも見られないようにと少し願いながら。
お嬢様は、私が1歩をやっとで踏み出したのを見てクスッと笑った。それはまるで母が初めて我が子が歩んだのを見て喜ぶような顔だった。
「ここでは話しにくいでしょうから、喫茶店にでも行きます?名を捨てた炎の女騎士さん。」
「そうして貰えると嬉しい。あなたみたいなお嬢様と私が話しているところなんて、私の知っている人に見られたら何してるか聞かれるし、そういうの面倒くさいから。」
私は、お嬢様に向かってそう口を開いた。
よく口を開けたものだと思う。いや、口を開けたのは、この目の前の女騎士に私の血を馬鹿にされたからかもしれない。
私は、1度名を捨てた炎の女騎士。太陽の血族。私の家族はその名誉ある”チカラ”を手放した。
一方私の目の前にいるお嬢様は、氷の女騎士。水の血族。いつだって今から起きる戦いの、優勝候補であるとてつもなく名高い女騎士だ。
「じゃあ、私のオススメの所でもよろしいかしら。そこならあなたの知っている人は来れないはずよ。お金の面では心配しなくても構いません。私が特別に奢って差し上げましょう。こういうのってお友達同士でやるものですしね。」
目の前の氷のように冷たい笑みを浮かべたお嬢様は、日除け傘を差して、駅の入口から出た。その顔はあまりの清々しく、反対の私は今まで日に当たっていたため少し汗が滲み出そうだ。
今年のとてつもなく暑い夏。私は、女騎士戦争に向けて準備を進めていた。