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嫁が最強スペックすぎて戸惑うんだが。  作者: tetoc
■ 嫁暗躍 編 ■
6/25

【04】噂と渦中の俺と嫁。

 

『ねえ、聞きまして?グレイズ王太子殿下の。』

『あら、グレイズ殿下がどうかなさったの?』

『なんでもここだけの話…レイリア妃殿下はグレイズ殿下のご寵愛を賜らなかったらしいんですの。』

『まあ!ご寵愛を?』

『ええ、妃殿下は初夜もお1人で過ごされたそうよ。』

『初夜もお1人でだなんて…。グレイズ殿下は如何なさったのかしら。』

『なんでもレイリア妃殿下を避けて、愛人の所に通われているとか。』



 婚姻の公表して、2週間足らずでそんな噂が俺の耳に入ってきた。

 ご婦人達の噂が広まる速度ってのは音速飛竜(ソニック・ドラゴン)より速いのは最早常識だ。まあ、あれは人が乗れるものじゃないし、音速飛竜自体が希少だが。


 とりあえず、噂は多種多様。

嫁が病人とか実は嫁自体いないだとか。実は俺が不能だとか、男に熱を上げているとか。全く…飽きないのか。


 でも、そんなことは今はどうでもいい。



「今の話は本当か?」

「ああ、間違いない。」



 悲しみと怒りが込み上げてきて、両手は自然と拳になっていた。

 歯を食いしばって、それらの感情に耐えるが、怒りはなんとか抑え込めるものの、悲しみだけは居座る。



「誰が…誰がティテスを…!!」



 ティテス、俺の愛人の1人。

 大人しく穏やかで、花を愛する女性。まるで春をもたらす精霊のように美しい人だった。

 そんな彼女が何故…!



「詳しく調べようにもあそこはヒョルリーナ領、思うように動けず…。申し訳ない。」

「いいんだ…分かっている。ダン兄は何も悪くない…むしろ感謝してる。」



 ダン兄は、俺が子供の時から世話になってる人で、武術の面で未だに勝てたことのない、まるで兄のような存在で、尊敬すべき人だ。


 ヒョルリーナ公国。小国なれど、フローリアを含む4つ国に挟まれその存在価値はとても高く、重要な位置に存在する国。

 強大な力を有するフローリアでさえ簡単に手は出せない。そう、手を出そうものなら隣接する他の3つの国が黙ってないからだ。そうなればいくらフローリアも痛手を被る。


 殺害されたのが王族、または十二貴族の者なら事も大きくなるし、協力をあおいで調べることも出来ただろう。でも、ティテスは俺の愛人…愛人が殺害されたとしても、そんなに大事にはならない。


 そんな中、ダン兄はよく調べて来てくれたと思う。



「でも何故…何故なんだ。」

「分からん。ティテス殿は誰かの恨みを買い、殺害されるような人ではないし…。」

「…他に何か分かっていることは?」

「確定ではないが、殺害された状況と変な噂くらいしか…。」

「詳しく話してくれ。」



 ここは俺の別邸の応接室。

 誰もが好き勝手入れる場所ではないし、細工も出来ない。だからこそ、この話が漏れることないだろう。


 ティテスが殺害されたと聞いて、立ち上がってしまっていたが、俺は椅子に腰掛けなおした。仕事机を挟んで、対峙するダン兄は軽く頷いてから話し始めた。



「まず、殺害された状況から。叔母上の誕生パーティーに出席したティテス殿は、パーティーが終わり、他の客人らとほぼ同時刻に帰路につこうとしていたそうだ。招待客は約820名、従者やその他関係者を合わせ、2700名程度が叔母上の屋敷にいたところ、不審な者の襲撃に。」

「その不審者を目撃した者は?」

「いない。屋敷敷地内にいた者も、目撃したであろう者も、みな殺害されている。」

「じゃあ、犠牲者の数は…。」

「現在確認されただけで2739名。」



 そんなに犠牲者が…だから紅銀の月がのぼったのか。


 ティテスの叔母上は、ヒョルリーナの有力貴族に嫁いだ方だ。王族や貴族などの大きなパーティーとなれば、招待客やそれらの従者、パーティー開催の為に給仕の者などをあわせ、数千人規模のものになる。

 その規模の被害とは…。



「叔母上の安否は?」

「それが…旦那様と共に命を落とされたそうで。それに今回の件で、ヒョルリーナの約半数にものぼる貴族や有力者が命を落としてる。」

「…なんてことだ…。」



 頭を抱え、瞳を伏せる。

 これじゃあ、ヒョルリーナの内政はめちゃくちゃだ。あの国は、この世界で1番古く、伝統あふれる国…そう、フローリアよりも。各国へのパイプも太く強いし、不倒の国とも呼ばれている。そんなヒョルリーナが…かつてないほど弱体化するぞ。



「グレイズ、続けても?それとも一度、気持ちを整えるか?」

「…いや、続けてくれ、頼む。」

「…。ティテス殿の亡骸も、他の者の亡骸も、体の一部を残すだけで…。」

「体の一部だけ?」

「ああ。例えば、指だけとか…耳だけとか…。現場はどれが誰の体の一部か分からなくて、捜査も進まぬほどだと言う。更に、残された体の一部の断面は、まるで大きな生き物に一口で食いちぎられたようなものらしいぜ。」



 食いちぎられただと?

 自分でも表情が曇ったのが分かる。ならこの件は何か大きな生き物が?いや、人を一口で食らうほどの巨大な生き物がいるなら、目撃情報があってもいいはずだ。

 それなのに、ダン兄は目撃者はいないと言っていた。

 この事件、とんでもなく不可思議だ。



「そして、変な噂なんだが。」

「ん。話してくれ。」

「ティテス殿の叔母上であるナディーン様は、フローリアの属国を攻め盗ることを、密かにヒョルリーナ王に進言していたようなんだよ。」

「なんだと?」

「それに、ナディーン様とヒョルリーナ王は()()()()だって噂も。(ま、これはヒョルリーナの重鎮も知らない、頭が単独で入手した極秘中の極秘の1つだけど、バラした方が信憑性が増すよな。)」



 そんなことをダン兄が思っているとも知らず、俺は事の大きさに頭痛さえしてきた。

 頭を抱え込んだままでいると、ダン兄が不意に近付いて来た気配を感じ、頭を上げ見てみると、黒焦げた布きれが俺の目の前に置かれた。



「これは…?」

「ハンカチだ。よく見てみな。」



 引き出しから白手袋を手に取り、それを手に取ってよく見てみた。

 ふむ、色は白か。ハンカチだとしたら8割ほど燃えてしまっている、丁寧な作りだし、見た感じ質もいい。

 布を裏返して見ると何やら紋様か?何かの印が見て取れた。



「これは…ただの柄ではないな。ハンカチに縫われているとなると…。」

家紋(エンブレム)。」

「何故これを?」

「それはナディーン様の部屋の暖炉にあったんだ。分かりにくいが血液が付着している所がある。」

「よく持って来れたな…。」

「逆だ、証拠品の保管庫からは、それしか持ち出せまなかった。」



 ダン兄の方を見ながら話していたが、もう一度家紋をよく見てみる。見たことがないな、どこの家のだ?



「一応調べてみたが、今のところ一致する家紋は見つかってない。」

「待ってくれ。()()()()()()()()()だって?」

「ああ、だから更に調べる許可を。」



 一致する家紋がない…。

 という事は、ヒョルリーナの王族や貴族の物、しいては、被害者の持ち物ではないということだ。こう言うのは、被害者の物であるか調べるのが先だからな。

 ダンの言葉の意味をくみ、俺は深く頷く。



「許可する。だがくれぐれも気を付けてくれ、ダン兄。」

「おう、任せとけ。」




 ────────

 ──────

 ────



 "緋褪(ひさめ)・鎮守の森"

 フローリア王大国・王都イルスの東に位置する大森林の中にある区画がそう呼ばれている。

 そこだけは、許可された者しか立ち入ることが出来ない絶対的な聖域だ。


 今は深夜、2つの月に照らされ、その聖域の木々は淡く緋褪色に光を帯びていた。

 汚れを知らぬ純白の巨木が立つ聖域の中心部、こともあろうか神木でもある、巨木の太枝に腰掛けるレイリアの姿があった。

 神木の下でラプスが伏せた状態で眠っている。



「そんなにもやもやしないで、ダン。」



 こちらに背を向けたまま、距離も10mほど。

 自分の名を呼ばれたダンは、1度足を止めてから神木の元へ歩いて行く。



「ここにいると落ち着くんです。」



 眠っていたラプスが起き上がり、ダンを見た後に主人を見上げた。すると、レイリアが軽い音と共に地へ飛び降りてきた。



白神木(はくしんぼく)黒神木(こくしんぼく)は祖龍が遺したと言われる、全てを育み守るもの。とても神聖な木です。()()これのそばにいると、とても癒されるんですよ。」

「分かってるんだが、頭以外の者にとってこの神木は、触れることすら叶わないくらいあまりにも尊い。」



 試しにダンが神木に手を伸ばしてみるが、見えない壁に阻まれ、その手は途中で止まった。

 分かりきっていた結果に、肩を竦めてダンは手を引っ込める。その様子に、レイリアは苦い笑いを浮かべた。



「これからどうするつもりなんだ?」



 気を取り直してレイリアに問いかける。

 すると、レイリアはラプスのところに歩み寄り、そばに腰掛けてラプスの背を撫で始めた。



「まだまだ始まったばかりですからね。とりあえずヒョルリーナのことは、しばらく放置で問題ないと思います。」

「なぜ言いきれる?」

「あの国の闇は深い。今回の件で、貴族など身勝手で他者を蔑ろにする行いが明るみになって、民も何か勘づくでしょう。あの国の腐敗は深刻ですし、民もバカではありません。」



 レイリアはラプスを撫でる手を止め、地に座り込み、ラプスを抱き上げて自分の膝に乗せた。



「あの国は、新たな策をはらずとも…しばらく内乱期に入るでしょうね。こちらとしても好都合です。」

「グレイズ様の件にヒョルリーナの件、それにギルメキア、クィナリス。どれもでかい案件だ、よくもまあ、対応出来るもんだな。」

「ダンをはじめ、レナートやルディー、それにリリーにDのみんなのお陰ですよ。」

「そりゃ敬愛する頭の為だからな。して、頭の次なる策は?」



 ダンがしゃがみ込み、レイリアの顔を見て微笑みながら首を傾げる。



「今は流れのままで構いません。グレイズ殿下の件も殿下の出方次第ですしね。リリーから聞きました、例の物(ハンカチ)をこちらから提示したそうで。」

「婚姻が発表された日に帰って来たんだが、なかなかそう言う情報が入ってこないからよ。ヒョルリーナがあの件を隠したいのか…そのくせ、ヒョルリーナの上の方が意外と騒ぎ立ててたもんでな。焦れったいし、待つのも面倒だから丁度いいかと思って。」

「本当、ダンは意地悪ですねえ。」



 レイリアは不意に空を見上げた。

 金の月と銀の月、一定の距離を保つ2つの月を視界におさめると瞳を細める。



「………。殿下と私の噂もいい具合にたち始めています。これからなんですよね。本当、何もかも。」



 噂の渦中の者達は各々の夜を過ごす。

 片や亡き愛人のことや、その叔母が自国を狙っていた事実に思いを巡らせ、片や白神木の元で、一時の休憩を楽しむ。


 離れた2人はこの瞬間、同じように空を見上げていた。





【04】噂と渦中の俺と嫁。END.

■ヒョルリーナ公国

公国とありますが、今は君主だった公爵が王と名乗っています。近々、王国に名前を変えるとか変えないとか。



■白神木と黒神木

祖龍が太陽へと姿を変える時に、神獣達と共に遺した聖なる木です。どちらも白い光を帯びていて、神木が根を張る周辺は、広範囲でとても緑豊な地となります。

世界各地に各16本計32本の神木が存在し、そこは聖域とされています。

神獣と並んで信仰を集め、国が神木を保護し、許可された者しかその聖域には入れません。



■緋褪の森

白神木と黒神木が佇む場所と。16柱の神獣達はかなり密接な関係があると言われています。

緋褪の森も神獣が住まう場所として知られています。


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