【03】微笑む嫁と紅銀の月。
── レイリア side.
「紅茶が美味しい。」
王太子妃である私に与えられた部屋で、ご紅茶を一口。お城での午後のティータイムって中々オシャレだと思う。
あ、もちろんこの部屋にいる時は魔法の眼鏡は外しています。常に手元には置いているんですけれどね。
グレイズ殿下が城に帰って来なくなり10日。
お手紙を何通か送らせて頂いているけど、なんの反応もない。ま、当然でしょうね。
ティーカップを置き、一口サイズの焼き菓子を取って口に運んでみる。サクサクでほんのり甘い!
私の為に用意されたこの部屋も、落ち着いた雰囲気でセンスもいい。いるんですよね、ドギツイ成金趣味の方って。
それに比べると、このお城で使われている家具や調度品の諸々は質のいい物だけど、さり気なく繊細に配置されています。流石は、国王陛下と王妃陛下。
こんな素敵な部屋で優雅にお茶を飲んで、焼き菓子も食べれられる。幸せですねぇ。
「リリーも食べますか?この焼き菓子美味しいですよ。」
王宮に仕える特製のメイド服を着こなし、私の脇に佇む、美人なお姉さん、もといリリーへ振り返り、焼き菓子を指さした。
すると、リリーは首を左右にゆっくりと振ります。…いらないんですか…残念です。
「お頭が食べて下さいな。あたしはさっき毒味として6枚頂いたので。」
「…それ毒味って言います?」
「大事な妃殿下のお命を守る為ですわ。」
「リリーったら、都合がいいんですから…。」
焼き菓子が入ってたお皿のある部分だけ、ごっそり無くなってたのは、そのせいだったんですね。
あ、そうそう。リリーはルディーと同僚で、私の大切な部下の1人でもあるんです。今は私の侍女さんとして、そばに控えてくれています。
茶目っ気たっぷりなとても頼りになるお姉さんなんですよ。
「そう言えばリリー、ヒョルリーナの件なんですが、報告に上がってきているもの以外で何か分かりましたか?」
「はっ。その事についてなんですが、あれ以来妙な動きはありません。」
なるほど。ラプスの行動はやはり結果的に良い方に回ったという事ですか。
「…そうですか。事がおきれば随時対処をお願いしますね?邪魔が入ると胸クソ悪いので。」
「それは承知していますが…。お頭、素が出てますよ。」
「あら、ごめんあそばせ。オホホホホ。」
ふざけた調子で笑いながら1度置いたティーカップを持ち、また一口紅茶を飲む。
と、言うか…ラプスにあれだけしてやられたんですから無理に動こうとは流石に思っていないみたいですね。面白味がないけれど…まあ、いいでしょう。
「でもお頭。結果的にとは言え、早期に始末して良かったんですか?」
「どうせ後々邪魔になるんです。今消えようが後で消えようが変わらないですよ。」
「グレイズ殿下が、事を知れば怒り心頭でしょうね。」
「殿下は軍の最高司令官でもあり、自ら戦いにも出ていらっしゃいます。怒りに身を任せてしまう程度のおバカさんにそんなものは勤まりませんよ。」
もちろん、あの方の息がかかった者も国内外問わずいて、何かあればあの方の耳に入るでしょう。
今回の件だってそろそろが伝わるはず。
「リリー。私に繋がるものは?」
「お頭の指示通り、残してきたと報告が上がってきています。」
「詳しくお願いします。」
「お頭と殿下との結婚にあたり、お頭の指示ででっちあげた家に繋がる代物を現場に痕跡として残して来たそうです。」
「と言うと?」
私の問いにリリーは咳払いをして、こちらに歩み寄って来た。すると扉の向こうに感じる気配を察知し、中腰になって、私に耳打ちをする。
「それはそれは絶妙に燃え残って、ローズブレイド家の家紋がギリギリ確認できるハンカチを。」
「あぁ、あれが役に立ったんですね。」
「はい。それと一応、以前からの指示通り、家の方も不信感を持つであろう程度に細工させておきました。もちろん、こっちも絶妙に。」
「流石!気が利きますね!」
今回の件でグレイズ殿下は必ず動き、そのハンカチを見つけることが出来たのなら、痕跡を辿るはず。
そして、私への不信感を強く抱くに違いない。
万が一の為にあらゆる手は打っています。
例えば、十二貴族や元妃候補の方への根回し、殿下のごく身近な者達の中へ間諜を潜ませること。順番を誤らないように仕掛けたエサの数々。もちろん、もし誤った方に行ってしまった時の為のエサもいくつか。
今行動をおこす面倒臭さと、事後処理の面倒臭さを天秤にかけるなら、断然前者に限ります。
事後処理と言うものは案外、と言うより本当に面倒なんですよねぇ。私の場合。
なので、もう1つ手を打っておきますか。
「リリー。新たにお願いしたいことが。」
「なんなりと。」
先の気配は、ただ通りかかったメイドさん達。
遠退いた気配にリリーは姿勢を正し、私は話の合間に飲んで空になったティーカップをティーテーブルに置く。
「今、殿下に大きく動かれると面倒です。それを防ぐ為に、ダンを呼び戻して殿下のそばに控えているよう伝えて下さい。」
「御意。ダン副長に他に伝える事は?」
「大丈夫。そちらの方は以前からダンに伝えてあります。あ、でも1日半で戻って来るように伝えて下さい。」
「い、1日半…ですか!?確かダン副長は今…。」
「1日半です。リリー。」
「ぎょ、御意…。」
今ダンがいるのは、ギルメキア軍皇国。
このフローリア王大国から、一番速い飛竜に乗ったとしても、軽く1日はかかる場所にあります。
そこから1日半で戻って来いと言っているので、自分でも鬼だと思います。
「グレイズ殿下は動き始めると間違いなく早いですよ。なんせ、ヒョルリーナに里帰りしている、愛人の1人が殺されているんですから。」
「今回は、スピード勝負ってわけですね。」
「その通り。今、私が失脚するわけにはいきませんから。」
「流石は、レイリア・アルファトロス。最強の一族最後の1人です。」
私はアルファトロスの名を聞いて、目を閉じる。
アルファトロス。全能の民と謳われた伝説の一族。
肉体的、魔力的にもずば抜けて、恐ろしく高いレベルにある者達。
この世界にいる16柱の神獣達とも渡り合えるほどの力を誇っていた。
けれども16年前に私1人を残し、彼らは滅んでしまった。その血脈を組む全ての者が…。
「リリー。私は今、レイリア・ソル・ローズブレイドですよ。」
「…これは失礼しました。お頭。」
リリーに微笑みかけ、そんな私に呼応するようにリリーは微笑み返してくれた。
アルファトロスの事は元から気にしていないけれど、なんだか雰囲気がしんみりしてしまった。
気を取り直そう。
置いていた魔法の眼鏡を手に取り、かけてみると眼鏡に施してある魔法の作用で瞬時に姿が変わるのを感じる。
最初は慣れなかったこの感覚も今ではすっかり慣れたものです。
「お頭?どこかに行かれるのですか?」
「ええ、手を休めるわけにはいきませんからね。両陛下からの命令は絶対です。おいたをする悪い人は排除しなければ。お仕事ですよ、お仕事!」
策を巡らせるのは嫌いではないんですが、どちらかと言うと自ら動いて戦う方が好きなんですよね。
でも、お仕事はお仕事。
これからの事を考えると、やることはたくさんあります。
私はレイリア・アルファトロス。
今は偽名を使い、王太子妃として振舞っていますが、世界をまたにかける秘密部隊・紅銀の月…通称"D"の首領。そして、"祖龍の愛姫"と呼ばれている。
その名に恥じぬ働きをしないと、ねえ?
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「は?ルディー、今なんて言った?」
「お頭が1日半で帰って来いと。」
「おい。」
「はい。」
「寝言は寝てから言え。」
「バッチリガッツリ起きてますよ、副長。」
「マジで言ってんのか。」
「マジで言ってます。お頭が仕事に関して、冗談を言わないの知ってるでしょう?」
深い森の川辺、黒の外套をまとった数人の部下が脇で控える中、ルディーと対峙する体格のいい男は頭を抱えた。
周りの部下達も体格のいい男を哀れんでいる様子である。
体格のいい彼の名はダン・アザジールド。
レイリアが率いる"D"のNo.2である。
「頭とは12年の付き合いだ。身に染みて分かってるけどよ…。」
「グレイズ殿下の信頼を得ているダン副長を呼び戻すのは、自分としても当然の事だと思いますよ。」
「ここの現場はどうするんだ?」
「自分がこのまま引き継ぎます。」
「そう言う指示か。」
「ええ、ここの役割は自分も十分承知していますので、すぐに引き継ぐのは可能です。」
「流石だなぁ。分からんことがありゃすぐ連絡を。」
「分かりました。」
ルディーは軽く頷いた。
その様子にダンはため息をついて、ルディーが来る直前に休憩していた為、着崩していたユニフォームを整え始める。
「さーてと、んじゃ行くか。」
「あれ?休憩していたのでは?」
「バッカお前、頭が言う1日半はな?お前が俺の目の前に来た瞬間から始まってるんだよ。時間が惜しいからすぐ行く。」
「本当に1日半で戻れそうなんですか?」
「頭はこの距離なら1日足らずで帰るぞ。それに俺やレナートなら1日半ならギリ帰れる。それを見越しての時間の算出だ。いい所突いてくるぜ、全く…。」
国境をいくつか跨いでいるせいで、各国への申告なしの飛竜の使用は好ましくない。ということは、空路以外の方法で帰らなければならないし、こういった場合、"D"は己の足で移動することが基本だ。
そんなことを改めて思い返したルディーは、今のダンの発言にため息をついた。
「本当…お頭をはじめ、ダン副長もレナート副長もバケモノですよね。」
「祖龍の愛姫と一緒にされんのは光栄だな。でも不服が1つ。」
「なんです?」
走り続けて帰る気満々なのか、軽く屈伸運動をするダンを見ながらルディーは首を傾げた。
ダンは大きく背伸びをして、フローリア王大国がある方に体を向け、視線だけルディーへ向けた。
「あの変態と一緒にされること。」
冗談めかしくニカッと笑って見せた直後、ダンの姿はそこにはなかった。
見慣れた光景らしく、ルディーはふっと笑う。
「確かに、異論ありませんね。」
【03】微笑む嫁と紅銀の月。END.
■リリー・マーヴェル 25歳
ワンレンボブのセクシーなお姉さん。踊り子に負けず劣らずのパーフェクトボディの持ち主で、それを生かして異性を利用することもしばしば。身内には、世話を焼きたがりのちょっぴり心配性。
■ダン・アザジールド 34歳
口の悪いお兄さん(オジサン)。基本的に豪快な性格であるが、繊細な交渉もお手の物。根っからの兄貴肌。12年前からレイリアを知る人物。
何かと重要な位置にいる人なのでこれ以上は後々。
■紅銀の月"D"
???




