表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫁が最強スペックすぎて戸惑うんだが。  作者: tetoc
■ 嫁暗躍 編 ■
23/25

【21】事件と俺と嫁。後編

 

 固唾を飲む。腹をきめたとは言え、自分の言動や行いを思えばこの上なく気まずく、そして調子のいいように思える。


 彼女にしてきた事を棚に上げ、今から頼み事をするのだから。



『どうしたのです、殿下。…私に何かご用でしたのでしょう?』



 思っていたよりも黙ってしまっていたらしく、レイリアから声をかけられてしまった。



「その…レイノルが何者かに襲われ、毒をその身に撃たれたようなのだ。その毒は…確認されているどの毒とも違うらしく、全くの新種だと言う。故に治す術がない。レイノルも見た様子だと、瀕死の状態…。」



 彼女の顔が見れない。



「そなたに…様々な事を言ってきたし、やって来た。ひどくひどく傷付けただろう、そんな私が頼める立場ではないのは重々承知だ。だが、だが!父上はそなたならレイノルを治すことができると…!」



 思い切って顔をあげ、メガネで見えない彼女の目を見る。



「都合がいいのは分かっている!レイノルは私の兄弟、大切な弟なのだ。だからどうか、どうか…弟を、レイノルを助けて欲しい。この通りだ…!」



 俺は深く深く頭を下げた、弟を助ける為ならプライドなんか捨て去ってやる。

 分かっている、分かっているんだ…これは、笑ってしまうくらい都合がいい。きっと断られてしまう、妻と認めないと、触れるなと言ってしまっているんだ。そんな、俺を…許すわけ…。



『承知しました。』



 間髪入れずに返って来た言葉に勢いよく頭を上げる。



「なん、と…?」

『"承知しました"と。』



 予想外すぎた返事に固まっている俺に、彼女は優しく笑ってみせた。



「どうして…私はそなたに…。」

『殿下は残念ながら私を認めて下さらないですが、私は貴方様を夫だと思っております。夫の頼み事なれば、きくのが妻の役目…。』



 俺はバカだ。バカだった。



『何よりレイノル様が瀕死の状態なのでしょう?断る理由など微塵もありません。喜んで助力致します。』



 やっぱり、俺は…これ以上ないってくらいのバカだ。

 よく知りもしないで見た目や印象だけで決めつけて、確証も何もないのに…彼女は俺の命を狙っているだなんて考え、冷たく冷たく突き放して。


 そんな俺の頼みを彼女は、迷うことすらなく、快く受けてくれている。俺が思っていたよりも、ずっとずっと大きな心の持ち主で、純心で優しい人なのかもしれない。



「…なんと…なんと礼を言えばいいか…!」

『私が愛する皆様の為です。気になさらないで。すぐに御許へ参ります。』

「では、飛竜か何かを手配しよう。」

『必要ありません。』

「し、しかし…今そなたは緋褪の森にいるのだろう?そこから王都まで陸路で最短半日はかかる。レイノルは半日もつかどうかも分からぬのだ。」

『ご安心を、レイノル殿下の命がかかっているのです。1時間程度でそちらに戻ります。』



 半日を1時間だって…!?不可能だ、そんなこと!



『私を信じて下さい。どうかお願いします。』



 今まで信じなかった分、その言葉は重くのしかかって来た。強い口調で言い切っている…信じるしかない、のか…?



「分かった。そなたを信じよう。」

『ありがとうございます。私がそちらに着くまでの間、リリーが代わりにレイノル殿下を診ます。リリーには私から伝えるので、殿下は両陛下にお伝え下さい。』

「分かった。」

『それでは、時間が惜しいので失礼致します。』



 そう言ってレイリアの姿はプツンと消えた。

 リリーは、瞳を閉じて祈るような姿のまま動かない。恐らく、レイリアが彼女に話をしているのだろう。


 それを確認した後、不安気な両親を見て微笑む。



「力を貸してくれるそうです。」

「おお!そうか、そうか!」

「良かった、良かったですわ…あなた!」



 それだけで全てが伝わり、一段落だ。

 レイノルが治ったら…レイリアに謝ろう…許して貰えないかもしれないが、今回のことで彼女の良い部分を知れたのだから。


 そうだ、容姿なんて関係ない。なんなら俺が手を加えてやればいい。まず、彼女にもっと似合うメガネを探そう、それから侍女に頼んで眉を整えたり、ムダ毛の処理などをすれば…きっと美しい。


 あれだけの大らかなで優しい心を持っているんだ。美しい内面が、滲み出ているに違いない。彼女は、俺を許してくれるだろうか…。



 そんなことを思っていると、リリーがレイリアと話し終えたのか、体勢を変えて、額に流れる汗を拭った。



「レイリア様より命令を賜りました。レイリア様か到着するまで、私がレイノル殿下のお命を繋ぎとめます。」



 そうして、リリーはレイノルに近付き、もはや無意味状態の魔法陣を解除し、魔法陣の構築に入った。



 ────────

 ──────

 ────



「父上、少し聞きたいことが。」

「ん?口調は戻せ、家族しかいないのだから。」



 あれからすぐ、部屋全てを魔法陣で埋め尽くすと言うリリーに部屋を出るように促され、隣室で待機していた。

 部屋にいるのは俺と両親の3人だけで、オフクロはよほど心労がたまっていたのか、うつらうつらしている。


 どうしても気になることが浮上する。それは、両親の()()()()()だ。



「分かった。レイリアやリリーに全幅の信頼を寄せてるように見えたんだけど…それはなんでなんだ?」



 そう、レイリアがレイノルを助けてくれると知った瞬間からの両親の反応が、あたかもレイノルが全快したかのような感じに喜び、安心したことだ。しかも、オフクロに至っては眠っている。

 更に、侍女であるリリーが退室を願って来た時、なんの疑いも持たない感じだったし…。


 つまり、聞きたいことはたくさんあるってわけだ。



「レイリアは…彼女は、我が国の懐刀。いや、守護者なんだ。」



 懐刀?どこかで聞いたような…。アル…アルだ!アイツがそう言っていた。

 しかも、守護者だって?レイリアが?



「守護者…?レイリアが、ですか?」

「その通り。あの子は若い、だがワシが知る誰よりも賢く、強い。もちろん、このワシも含めてな。」

「なんだって?」



 "偉大な達人達(グランドマスター)"の1人に数えられている親父より?あのレイリアが親父よりも強いだって?



「ごめん、親父。流石に信じられねえ…。」

「まあ、見ていろ。あの子は緋褪の森にから王都まで、本当に1時間で来るから。」

「流石に無理だろ。飛竜に乗って、少しも休まず、風向きとか天候とか条件が良くて、最短半日なんだぜ?それを1時間だなんて…今思えば不可能だ。」

「そうか、なら本当に1時間で来たら、お前もあの子に全幅の信頼を寄せるだろうな。」



 別段ふざけている様子もない。じゃあ、本当に?



「しかし、あの子がいてくれて本当に良かった。今まで何度も救われて来たからなぁ。」

「何度もって…。」

「2年前のクィナリスとの国境戦だってあの子が裏で動き、勝利へと導いたんだぞ。」

「ってことは、アイツがクィナリス領の半分以上をフローリア領にしたのか!?」

「そうだ。」



 2年前のクィナリス国境戦。俺は海を渡って、オフキュフフィア大陸の自領での戦いを指揮していたから詳しくは分からんが、短期間で押して押されてを繰り返していた苦しい戦い。

 それをアイツがおさめただって!?にわかに信じられん。だって、2年前って言ったらレイリアは14歳だぞ?



「やっぱり信じられない…。」

「だろうな。まあ、よい…きっとその内お前も分かるだろう。」

「う、うん…。」



 さっきからどんでん返しすぎて有り得…いや、流石にそれは…。



「未だ信じられないのは確かだけど…それよりも明確に思うことはありる。」

「ん?なんだ…?」

「…もしかしたら、彼女は俺が思うよりもずっと優しい人なのかもって。」

「そうだぞ、お前にはもったいないくらいの妃なのだぞ。」

「そうかもしれません。」



 俺の態度に親父が面食らった様子だった。冗談だと思われたみたいだな。



「彼女と向き合い、きちんと知ろうと思います。もしかしたら良き夫婦になれるかもしれませんから。」

「グレイズ、そな…。」



 部屋のドアが5回ノックされ、親父の言葉は半ばで止まった。



「何者か?」

「レイリアでございます。緊急事態なので失礼します。」



 俺の問い掛けに返ってきた言葉と同時に開かれたドア、姿を見せたのは紛れもなくレイリアだ。咄嗟に時計を見た。あれからきっかり1時間。



「お待たせしました。すぐにレイノル様のところへ参りましょう。」



 おい、ウソだろ…。




 ────────

 ──────

 ────



 部屋に戻って驚く。

 リリーによって、緻密な魔法陣が複数施され、全てが完璧に動作していた。しかもだ、難しいはずの魔法陣同士の連動も行っている。これだけ緻密で高度な魔法陣を展開し、維持し続けているなんて…。


 リリーはレイリアの姿を認めると、驚くことに全ての魔法陣を解き、脇へと身を退かした。

 レイリアは別段気にしていないのか、ベッドで苦しそうに横たわるレイノルに近付き、その容態を確認する。



「リリー、お願いします。」

「はっ。調べた結果、"トロスの毒血(どくけつ)"かと。」



 トロスの毒血?そんなもの聞いたことがない。



「トロス…。なるほど。」

「レイノル殿下には、3ヵ所の矢傷が見受けられます。毒血を塗り込ませた鏃を使ったのでしょう。」

「姑息なことこの上ないですね。ルディーの血清は?」

「ストックしていた分を投与しました。ですが、レイノル殿下ご自身が毒に対して弱い体質の方のようで、毒の量も相まってか、効きが悪く…。」

「分かりました。ご苦労さまです。」



 レイリアは、リリーの話に耳を傾けながら、さっきよりも腫れ上がり、斑点がある場所に触れた。それから掛け布団をまくり、服を捲り上げる。

 レイノルの腹部には包帯が巻かれていて、本来赤いはずの血が緑っぽく変色し、滲んでいるのが見える。



「…この鼻につく硫黄のような臭い…なるほど、確かにトロスの毒血で間違いないでしょう。」

「どうしますか?」

「簡単です。私が全て引き受けます。」

「待ってくれ。」



 一瞬だが、リリーの顔に不安の色が滲むのを俺は見逃さなかった。全て引き受けるって言葉も妙に引っかかり、一歩前へ出てレイリアに声をかける。

 彼女はこちらを向いて首を傾げた。



「どうしましたか?殿下。」

「全て引き受けるってどう言う意味なんだ?」

「そのままの意味ですよ。私は特殊な体質でして、あらゆる毒を受け付けません。私の血液を投与する方法もありますが、それでは間に合わず命を落としてしまいます。そこで、魔法で弟君の体を蝕む毒を、そっくりそのまま私に移し、私の体内によって無効化させます。」

「…そなたが身代わりに…?」

「ええ、3日4日で善くなるので気にすることはありませんよ。」



 レイノルはとんでもなく辛そうだ。そんな状態を自ら被りに行くと、さも当然だと言う風なレイリア。

 そこまで、してくれるって言うのか…?苦しみを代わりに身に宿すと言うのに、躊躇わずに言えるのか。



「しかし、そなたが苦しむのは…。」

「申し上げたではありませんか。助力致しますって。」



 レイリアは、屈託なく笑って見せた。

 そして、レイノルの方へ向き、手をかざした。



「リリー、あとは任せましたよ。事が明るみになってしまっても、私が言っていた通りに。」

「……御意。」





【21】事件と俺と嫁。END.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ