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嫁が最強スペックすぎて戸惑うんだが。  作者: tetoc
■ 嫁暗躍 編 ■
20/25

【18】俺と嫁と最強の鱗片。


「テルマからか…。」


レイリアが実家へ帰り3日。

愛人の1人から手紙が届いた。俺が謹慎となり、愛人達から身を案じる手紙が届く。謹慎中の身である俺は、返事を書くことは許されていない。


「"親愛なるグレイズ殿下。殿下が謹慎の身となって、私は夜も眠れません。"か…。」



一応目を通してはいるんだが、今はそういう気にはなれない。

レイリアが城を出て行ったと聞いて、すぐに親父のところに向かうや否や、これでもかと言うほど叱られた。


俺の態度などに心労をためたレイリアは、日に日に食事の量が減り、元気をなくしていったそうだ。そして、心苦しそうに城を出たいと、親父とオフクロに嘆願したらしい。

親父もオフクロもそんなレイリアの様子に言葉をなくして、実家に帰ることを良しとした。レイリアを見送り、俺に話をしようか相談しているところに、俺が来たってわけだ。


そして、極めつけは…レイリアの両親から婚姻関係を解消したいとの申し出が、今朝方届いたそうだ。

なんなんだ、これは。レイリアと婚姻を結んだ日から、全部が裏目に出ている。


「……はあ…。」


もちろん、俺はまた親父とオフクロからこっ酷く叱られたわけで…噂も相まって疲れきっていた。

なんの噂かって?俺達の不仲についての噂だ。どこからが漏れたかは知らんが、レイリアが実家に帰ったと話が広まっている。レイリアが男を作って出て行っただの、金と地位が目当ての結婚だの…よくもまあ、飽きないものだ。


ほら、この手紙にも"妃殿下がご実家に帰ったと聞きました。"って書いてる。もう、そこまで話が広まってるのか。なんだか…自分が悪いのは分かっているが、疲れた。


考えすぎなのか、頭が痛い。少し休もう…。


俺は手紙を置き、ベッドに横になった。

その時だ。いきなり部屋が揺れた。


「!!?」


一瞬判断が鈍るが、その揺れはすぐにおさまる。大きな揺れではない。立って移動出来る程度の揺れだが、流石に驚いたぞ。地震か何かか?いや、これは…違う。


「この感じ…。」


大きな生き物が倒れた時のものによく似てる。証拠として、王都からかなり離れた距離で強い生命力を感じるからだ。

距離があるにも関わらず、俺が察知できるほどの生物と言えば、神獣か聖獣…あとは名前持ち(ネームド)クラスの魔法生物…。


「グレイズ殿下!グレイズ殿下、大丈夫ですか!?」


俺がそう考えていると、すぐに部屋がけたたましくノックされる。この声は、今夜立哨している近衛兵のものだ。


「ああ、大丈夫だ。…グラスが倒れて割れたくらいだから。」


声を掛けながらドアに近付き、無事な姿を見せる為ドアを開いてみると、案の定心配してくれている様子の近衛兵。

彼らは、怪我の有無を目視で全身確認した後、安堵のため息をついた。


「良かった…良かったです。」

「心配してくれてありがとう。そなたらも怪我などはしていないか?」

「はい、転んだとしても甲冑がございますので。」

「ありがとうございます。殿下。」


それからすぐ、情報が入って来た。

王都から北西に200kgほど離れた"聖なる山麓"に住む、魔法生物が何らかの理由で動いたと伝達に来てくれた者が教えてくれた。


「殿下、あの付近に住む名前持ちは…。」

「大山陸亀のドヌルタス。聖獣・アヌルビスの子だ。」

「ドヌルタスと言うのは…。」


近衛兵達が割れたグラスを片付けてくれ、礼に茶を振舞っていると、当然ながら地震をおこした魔法生物の会話になる。

どうやら、もう1人の近衛兵はドヌルタスを知らないようだ。末子の妹エレシアくらいの年齢だな、無理もない。


「聖獣・アヌルビスのことは知っているか?」

「はい、確か神獣・バステナ様がお創りになったのがアヌルビスだと…。」

「左様。神獣様達は、自らの神力を用いて生み出した2体の聖獣を従えている。その聖獣達の子が、各地で名前持ちになっていたりするんだ。ただ、聖獣の子となると知性や理性が著しく低下してな、こうして"災害"を起こしてしまう時がある。」


そう、実は2年ほど前にもソレがおきた。

事が起きたのはフローリアではなく、ギルメキア。聖獣の子である魔法生物に、要らぬちょっかいをかけた輩がいて、それが引き金となり、山2つ分が燃えてしまった。

もちろん、そこに存在していた街や村、作物、家畜にも甚大な被害が出てしまい、約12万人が住む所を失ってしまった。これを解決したのが当時皇子だったゾディアスで、この功績が讃えられ、皇帝になったんだ。


ともかく、ただの魔法生物と言えば簡単だが、聖獣の子である名持ちの魔法生物は、脅威そのもの。普段は大人しいものが多いが、一度怒らせて暴れ出してしまうと本当に手が付けられない。


「ドヌルタスはその名の通り、山のように大きく、亀の姿をした魔法生物だ。普段はとても大人しく、温厚だと言う。継続的な揺れがないと言うことは…身をよじっただけなんだろう。」

「身をよじっただけ、ですか…。」

「ああ。山と言っても小山じゃないぞ。その大きさは2000mの山にも匹敵する。」

「2000mですか…!」


そう、彼にとって身をよじっただけで。我々に対して悪意も何もない。ただ単純な生理現象のようなものだ。だが、周辺の村や街…生き物達は大丈夫なんだろうか。



────────

──────

────




「すっ…すごい…。」


ユニフォーム姿のエリーが地面に腰を抜かしたように座り込み、小さく呟いた。口を開いたはいいが、閉じられる気配はない。


「エリー!」


そんな中、エリーの背後の茂みから姉のリリーが飛び出して来て、座り込んでいるエリーの横で足を止めた。立ち上がれない妹を見て、姉はその場にしゃがみ込む。


「エリー、あんた大丈夫?」

「ね、姉さん…腰が…。」

「…抜けたの?」


首が取れる勢いで何度も頷く妹に、姉はため息を静かに漏らした。


「立てる?」


今度は左右に小さく振る。そんな妹に、姉は妹の肩に手を置いて、妹が先程まで見ていた方へ視線を向けた。


「あんた、入隊してどれくらいだっけ?」

「も、すぐ7ヶ月…。」

「なら、お頭のアレ。見るの初めてよね。」


2人の視線の先には、巨大な亀の下顎付近を優しく撫でるレイリアの後ろ姿と、強風によってしなったまま形をとどめている木々があった。しかも、至る所で地面には小さく亀裂が入っている。


「うん。強いとは思ってたけど…デコピンでこれだけの威力だなんて…。」

「副長達だって言ってるでしょ。お頭は()()だって。」

「けど、けど…ここまでだなんて。だって、あのドヌルタスだよ?」

「まあ、ドヌルタスは名前持ちの中でもトップクラスの力だからね。」


姉は平然とそう言い放つと、妹に肩を貸して立ち上がらせた。


「でも良かったわ。ドヌルタスの寝直しによる被害がおさえることが出来て。」


深い深い眠りに落ちている、その巨大な亀は数百年に一度、寝直しと呼ばれるものをする。

数日間だけ目を覚まし、その間も身動きはしないのだが、長い眠りにつく為に、周辺の魔力の素を一気に取り込むのだ。

今回はその数百年に一度の寝直しの時であった。


「でも…周りが…。」

「いいのよ。ドヌルタスの寝直しの時に吸収される魔素は、ここら一帯をたった一夜で不毛の大地にしちゃうくらいなんだから。」

「だから数百年寝て、周りの森が再生した頃に目を覚ます…知ってるけど姉さん。お頭はどうやって?」


もう自力で立てるようになった妹は、姉から離れて姉から視線をレイリアの後ろ姿へと移した。


「デコピンよ。」

「それは分かるけど…。」

「お頭が数日かけて練り上げた膨大な魔素をデコピンにのせて撃ち込んだの。どうやら威力が強すぎて、ドヌルタスがいた本来の位置より、数m動いちゃったみたいだけど。」

「1デコピン=森が有する魔素!?」

「違うわ。1デコピン=森が有する魔素×2くらいかしら。」


妹の口がまた開いたままになったのを見たあと、姉は地面を蹴り、軽く跳躍してレイリアの後に移動した。


「リリーですか。」

「ええ、お頭。お疲れ様です。」


リリーの気配を察知して、レイリアが振り返った。


「初めての試みだったのですが…この子は食いしん坊なのですね。」

「え?」

「もっと食べたいとせがまれ、予定より多くの魔素を持って行かれました。」

「魔素を…って、お頭大丈夫なんですか?!」

「ええ、ちょっと疲れてお腹が空いたくらいですかね。」

「なら帰ってお食事を。」

「そうですね!でもその前に。」


レイリアが辺りを見渡し、手をかざした。

レイリアの足元に七色に光る複雑な魔法陣が浮かび、魔法陣を中心に虹色の波動が波紋のように広がっていった。すると、その波紋を受けたもの全てが元通りになる。


「疲れがとれる…。」


疲れが自分の体からすーっと抜き取られて行くような感覚に、リリーは心地よさそうに瞳を閉じた。

レイリアが発動させたのは、神をも癒し、死の淵にいる者すら呼び戻すことの出来る、魔法の最高位である"究極"を冠する治癒魔法。

この世界でなんの対価も条件もなく、発動出来るのはただ1人。レイリアだけだ。


光がおさまり、レイリアの足元の魔法陣が消えたと同時に、レイリアは瞳を開けた。



「お腹が痛いのと体のダルさはおさまりましたか?リリー。」

「!あ、ああ、はい…!」

「ふふっ、良かったです!」


リリーの不調をレイリアは気付いていたらしく、慌てて答えたリリーにレイリアは柔らかく微笑んだ。


「さあ!エリー。帰ってご飯ですよー!たーっくさん食べましょー!」


そう言って、また驚いているエリーに向かってレイリアは意気揚々と歩き始めた。

それに着いていく為にリリーも歩き始める。


この日、この究極魔法の範囲内にいた全ての生き物が癒された。枯れかけていた草花、怪我をした動物達、ひび割れた大地、弱っていた精霊。そして、レイリアに軽い一撃を加えられた巨大な亀。



彼女がこの一帯を離れる頃には陽が昇り始めるのだった。





【18】俺と嫁と最強の鱗片。END.

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