【17】俺と嫁と完全別居。
灰色の霧が、迫ってくる…。
血で描かれたような刻印がチラつく…。
やめろ、来るな…!
逃げないと、逃げないと…!
呑まれてしまう。
何故だ、こんなに走っている!
…追いつかれる……やめ…っ!!!
視界が開けた。見慣れた天井…俺の部屋。なんだ?何がどうなって…?息があがってる、それに全身汗をかいていて、とても不快だ。
ここでようやく、悪夢にうなされていたことに気付いた。
「…さっきの…夢は…。」
時間は深夜1時をまわったところ。とても嫌な時間…魔族の時間だ。
夢のことを考えてもしょうがないか。とりあえず、軽く湯浴みでもしよう。汗で濡れた寝間着が肌に張り付いて気持ち悪い。
侍女達を起こすことは申し訳ないので、自分で湯浴みの着替えなどの準備をする。廊下に続く扉には、2つの気配…近衛兵達が立哨しているな。
「グレイズ殿下…?!如何なされました?」
「…深夜の立哨、ご苦労である。悪夢にうなされ、寝汗をかいて不快ゆえ、軽く湯浴みをしたいのだ。構わぬか?」
準備を終え扉を開くと、驚く2人の近衛兵。
訳と要望を話すと快く了承してくれた。謹慎期間中なものだから、自室以外での自由はきかないので、彼らについてきて貰わなければならない。良かった、2人の内、1人は知っている顔だ。
近衛兵達に付き添ってもらいながら、消灯されている湯殿に続く長い廊下を歩いていた。
「ん?…あれは…。」
窓から中庭が見渡せる場所を通りかかり、何気なしに中庭を見てみると、知っている後ろ姿が見え、立ち止まった。必然的に近衛兵達も足を止める。
「レイリア妃殿下ですね。」
顔見知りの近衛兵が答えた。
こんな時間に何をしているんだ?しかも、中庭なんかに出て。
「…こんな時間にどうしたのだろう。」
「妃殿下も眠れないやもしれませんね。最近夜によくお見かけします。」
「…で、あるか…。」
庭の真ん中には人工の池がある。その際に立ち、水面を見ているのか?レイリアは動くことなく、静かにたたずんでいる。
"最近夜によく見かける"か…俺が与えている心労のせいだろうか?
「殿下、お早く。体が冷えて風邪を召されます。」
「ああ、分かった。」
何故だか後ろ髪を引かれながら、俺はまた歩き始めた。
湯殿につき、衣服を脱いで汗を洗い流した後、広い湯船に浸かる。流石に近衛兵達はここまで入っては来ないし、彼らは今湯殿の出入口で待っていてくれている。
彼らをあまり長く待たせてはいけないと分かっているが、悪夢を見たあとの湯浴みはとても気持ちが落ち着くあと少しだけ浸かってから出よう。
ふと、先程のことを思い出す。
「レイリア…。」
俺の謹慎が始まって、もうすぐ1週間。
レイリアは、謹慎が始まってすぐに俺に会いに来たが、その時本当に具合がよくなくて彼女とは会わなかった。恐らく、変な気遣いをさせてしまったんだろう、それ以来彼女が部屋に訪れることはなく、毎朝見舞いの品が届く。
本当に、一度きちんと話し合った方がいいのかもしれない…。彼女はあの妃候補達をおさえて、妃に抜擢されたわけだ。…身なりはあのようだが、心根は優しく、穏やかなのかも。だが、今更なんの前触れもなく、話そうとしても彼女は怖気付いてしまうだろう。
冷たく突き放し、別邸で愛人達を呼び枕を共にし、更には結婚式に出なかった。
そんな俺に、彼女が普通に接してくれるとは思わない。普通に考えてな。
それに、それにだ。やはり、彼女を疑わしく思ってしまう。ヒョルリーナで見つかったローズブレイド家の家紋が刺繍されたハンカチ。ローズブレイド家とゼノブレイド家の関係性…まだ、詳しくは分かっていないが…どう考えても疑わしい。
「……はあ…。」
なんなんだ、この複雑な状況は…彼女の存在は、疑わしいものばかり。だが、あの娘に何が出来る?俺を組み伏せて、殺せるだけの力があるのか?俺よりも小さな体で?
武術の達人ならば出来るだろう。だが、俺の気迫に言葉をつまらせ、怯えているようにも見える彼女が?いや、俺を油断させる為の演技?……分からない、不審な点が多すぎる。
「…のぼせそうだ…。」
ひとまず風呂からあがろう、このままのぼせて倒れたら近衛兵達に迷惑をかける。
とりあえず、あれだ。俺が出来ることは1つだな。
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『あっらー!ハニーじゃない!久しぶりー!』
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです。」
『んもう、そんなコトないわよぅ!ハニーに会えなくてアタシったら寂しいんだからぁ!』
「ふふふっ、今の仕事が落ち着いたらお茶でも頂きに参ります。」
『あら嬉しい!その時は色々お話を聞かせてちょーだいね!』
「もちろんですとも。」
久しぶりに話すと本当にいい人ですよね、この方。
「姉さん…お頭は誰と話して…?」
「ザヴィドロス神魔王陛下よ。」
「はん!?」
そうですよ、エリー。
今私が"対話の水晶"で話している方は、あのザヴィドロス陛下ですよ。そう、ザヴィドロス陛下は筋肉隆々のいかつい系オカマさんなんです!こんな面白いキャラなかなかいませんよ。
『あ、そーそー!この間送って来た子。レナートちゃんかしら?』
「ええ、その節はどうもありがとうございました。」
『いいのよー!アタシ好みのイケメンだったから、つまみ食いしようとしたんだけど、逃げられちゃったの!』
「レナートは速さだけは超一級品ですからね。」
『残念だったわー。』
みんなが思っているより面白い人なんですけどね。どこが怖いんでしょう?
そう言えば、さっきから水晶の向こう側からすごい音が聞こえてくるんですが、なんなんでしょうか。
『あのね、ウチの息子達がアナタに会いたいって言ってるの。ウチの子達ったらアナタに首ったけなのよねぇ、もちろんアタシもだけど。』
「陛下や王子様達にもそう思っていただけるとは光栄ですわ。」
『あらやだ。ならアタシのお妃様になっちゃう?』
「いえ、どうせ誰かと結婚するなら"唯一"がいいので。」
『あん、ワガママさんなんだからー。でも今度来たら息子達に会ってやって、あの子達ったらアナタを巡って今も戦ってるのよ。』
…聞こえてくる音の原因はソレですか。
あ、因みにコレ。軽いノリなので気にしないで下さいね。近所に住むおばさんに、大きくなったわねー!って言われてる程度ですから。
「まあ…それはそれは…。では、こうしましょう。」
『なにかしら?』
「最凶最悪と恐れられているザヴィドロス陛下を見事倒すことが出来て、更に私を倒すことが出来た王子様のところに嫁ぎましょう。」
『まあ!とーーっても面白そうね、それ。』
「手加減はしてはいけませんよ?陛下も本気でお願いします。」
『分かったわ、ちょっと行ってくるわね。』
そう言って水晶に何も映らなくなってしまった。
王子様達が闘ってる中に、あの災厄の化身とも呼ばれる巨体が参戦したとなると…ある意味見たいかもしれません。
「お、お頭…。」
「なんですか?エリー。」
「良かったんですか。その、お嫁に行くって…魔族に嘘は通じませんよ。」
「構いませんよ。王子様達が陛下に勝てるって数百年とか数千年のレベルでこの先ありませんから。その頃には私も死んでいます。」
「"祖龍の愛姫"も大変なんですね…。」
「おとぎ話のように清廉潔白ではないことは確かですね。」
「お頭。」
エリーと話していると不意にリリーに呼ばれ、そちらを見ると微笑む姿が。
「なんでしょう?」
「実家に着きましたよ。」
「そうですか、お父様とお母様にご挨拶しないと。」
私達はお城から離れた馬車の中。
リリーがまくったレースのカーテンから覗く窓の向こうには、この為に用意した洋館。
さあさあ、まだまだお仕事を続けますよ。
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「…………。」
ある部屋の前。俺はノックを躊躇っていた。
俺自身が持つのは、近衛兵達に頼んで用意してもらった、チアピスと言う茶葉。この茶葉は、リラックス効果を与え、ストレスを緩和させる役割を持つ。それと、小さな花束…女性に花は贈ってきたが…こんなに複雑な心境は初めてだ。
「グレイズ殿下、ノックをなされないので?」
「あ、ああ…いや、する。」
背後に控える近衛兵の1人から心配しているかのような声色で話しかけられる。俺は、躊躇いを残しながらドアをノックした。
「………………。」
数秒待つが反応がない。今は昼の2時…皆が言うにはこの時間帯は部屋にいるはずなんだが…気を取り直して、もう一度ノックする。が、反応はない。
出掛けてるのか?念の為、もう一度ノックしようとした時。
「グレイズ殿下。」
この部屋の主ではない女性の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、侍女がお辞儀をする姿が視界に入った。
「恐れながら、レイリア様は今おいでになりません。」
そう、俺はレイリアの部屋を訪れている。
「どこかに出かけているのか?渡したい物があるのだが。」
「はい…その…。」
侍女の方へ体ごと向くと、とてつもなく気まずそうにする侍女。…なんだ?
「その、レイリア様は城を出て行かれたそうです。」
「なんだと?」
「その、ご実家の方に戻られたと…。」
「お父上かお母上がご病気でも?」
「いいえ…健やかでいらっしゃいます。」
「では、何故?」
聞いておきながら後悔する。
「…その、心労ゆえ城を出て行かれました…。」
ああ、やはり…そうか…。
【17】俺と嫁と完全別居。END.
■神魔王 ザヴィロドス ??歳
男も女もイケる筋骨隆々ナイスガイ。オネエ口調は素の時のみ。39人の息子と33人の娘パパ。魔神族と魔人族の祖。間違いなく、最強(祖龍&レイリアを除く)。
※私的メモ。
■神族と魔神族。
ファンタジーによくある対立関係ではありません。
原初の神々の中にも魔神と呼ばれる者がいて、その原初の魔人達も姿を何かに化しています。
それ以外の種族にとって、神と一括りにしていますが、魔神・魔族はとても好戦的でかなり活発に動く為、たまーに厄介者扱いを受けています。
■魔神族の魔神と魔人。
聖獣とその子共のような関係。
魔神族と呼ばれるのは、ザヴィロドスから子供まで。なので、現在魔神はザヴィロドス含めて73人。
因みに、孫の代からは魔人と呼ばれますが、一般的に一括りにする時は、魔神だろうと魔人であろうと魔神族と呼ばれます。
他種族からすると、危険度は魔神に比べるとまだまだ若い魔人の方が高いです。
■闇の女神とザヴィロドス。
ザヴィロドスは闇の女神の子の一人です。ややこしいかも知れませんが、ザヴィロドス自体、原初の神々の内の一人。祖龍の命令を受け、この世に残る原初の神です。
現在、魔神族や魔族が生まれたのは、闇の女神の子であるザヴィロドスが彼らを生み出したから。これは、この世界ではごくごく一部のみが知る事実。
闇の女神が生み出したとして、広く知れ渡っています。ですが、大元を辿れば闇の女神が生み出したも言ってもいいかもしれません。




