【11】嫁と恋話とときめく心。
「何度も言わせるな。お前を妻とは認めない。」
「申し訳…ございません…。」
目の前にいるレイリアは暗い顔をして俯いている。
今し方、廊下で鉢合わせ、久しぶりに話しかけられた。そう、よりによって結婚式の話題をふってきたんだ。
「いい加減、俺に媚を売らないでくれるか?」
「こっ、媚、など売っていません!」
「口答えをするのか。」
「あ…でも、あの…私…。」
「お前と話しているとイライラする。はっきり物を言ったらどうだ?」
「申し訳ございません…。」
「つまらん女だ。」
毎度毎度はっきりしない様子にイライラする。
言葉を一々区切らないと話せないのか、そもそもあれも媚びる手の内ならと考えると、より一層腹立たしい。
それに、この娘は油断ならないとファーダゲームの件で知ることが出来た。あの短時間で、とんでもない、逆転劇を生み出したんだからな。
「もう気安く話しかけるでないぞ。」
いよいよ顔色も悪くなってきたレイリアに溜息をついて、吐き捨てるようにそう言ってその場を離れた。
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自分の部屋に入った途端、後ろに控えていたエリーが走って行った。途中でソファーに置いてあるクッションを手に取り、すごい勢いで壁に投げつける。
「あんの!クソ王子ぃぃいい!!!!」
分かっていたから、エリーがクッションを持った瞬間に、この部屋全体に防音性のある魔法を使った。
さっきのことが相当頭に来ているらしいエリー…クッションを拾い上げて、とんでもないスピードでクッションを殴りつけた。
クッションが空中にとどまっています。…こんな侍女さんがいたら怖いかも…。
「ま、まあまあ。落ち着いて下さい。」
「これが!おち!ついて!られますか!!!」
言葉を力強く切るのと同時にクッションを殴っています…クッションが可哀想でなりません…。
「大丈夫ですから、ね?!ほら、私がいれるのでお茶でも飲みましょう!」
この言葉でようやく落ち着いたのか、エリーはブツブツと文句を言いながらソファーに座る。良かった…何とかクッションは助けられました。
実を言うとあのクッションが逝ってしまったら、エリーの犠牲となったクッションが4つになるんですよねえ…それは流石に防がないと。
お茶をいれ、エリーの元に向かい、すぐ前のテーブルにお茶を置いてから私も1人掛けのソファーに座る。
すると、お茶を飲んで胸の内の嫌なものを吐き出すように、エリーは長く深い息をはいた。
「落ち着きましたか?」
「はい…。すみません、お頭。」
「構いませんよー。私の代わりに怒ってくれたんでしょう?」
「……だって…お頭は任務のせいであの人に何も言えないでしょう…。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
エリーは私のことを相当気にしてくれているみたいです。本当に優しい人ですよね。
「私は慣れっ子ですから大丈夫なのですよ。これくらいではへこたれません!」
「どうしてなんです?」
「何がですか?」
「お頭は私より2つ年下です。16歳なんて子供で…その…。なんでそんなに、ダン副長より落ち着いてるんですか!?」
「エリー…。」
真剣な雰囲気なのは分かります。分かりますよ、けれどね?
「その言い方では、ダンが落ち着いていないように聞こえちゃいますよ?」
「へ?あ、いや!そんなんじゃないです、ダン副長も落ち着いてます!すごく!」
「ふふふっ。」
さて、少しは空気が和らいだみたいですね。
「私は落ち着いてなんかいないですよ。」
「でも、私なんかより冷静だし、判断とかも正確で。大人の隊員もそうだし、ダン副長やレナート副長が認めるくらい凄いじゃないですか、お頭。」
「そんなことないです。」
紅茶を一口飲んでから目の前のテーブルに置いて、改めてエリーを見る。とても不安そうなエリー。
「私は天涯孤独の身だと言うことは知っていますね?」
「はい…。」
「ダンの一族でお世話になっていて、皆さんとても良くしてくれました。でもね、中身は空っぽだったんです。それですごーーく荒みました。」
「お頭が荒んだ!?」
「ええ、何度ダンやダンのお父さんに叱られたことか。」
「お頭が叱られた…!?」
懐かしい…。まあ、ほんの数年前の話なんですがね。とても懐かしいんです。
「自分の生まれを嘆きもしました。何故私が"祖龍の愛姫"なのか、何故望んでもいないのに全てを背負わされるのか。中身は空っぽなのにそれあまりに大きくて、重くて、辛くて、でも逃げられなくて…それで、もがいてもがいて…でも、悲しいことに現実は変わりませんでした。」
「お頭…。」
「それでもそばにいてくれたのは、ダンやダンの一族…今はレナート、リリーやルディー…それにエリーやDのみんな。みんなの為に頑張ろうって思ったんですよ、このままじゃダメだって。」
確かに、今も背負わされたモノの大きさに嫌気がさす時があります。でも、それは変えられないものだと、幼いながら私自身が気付いていた。ずっと前から、本能のように。
だから、私は私を支えてくれた人達の為に生きて行くんです。
「私を強くしているのは、私の大切な人達なんですよ。大切な人達がいてくれるから、私は強く立っていられるんです。大怪我をしても、罵られても、平気でいられるんです。」
本当にそう思う。彼らと一緒にいられるなら、なんだってする。
生意気だとか大人ぶっていると言われることも多々あります。その言葉に傷付く時もあります。そう、私は決して強くない。けれど、平気でいられるのは、私を支えてくれる人達のお陰。
強くいれるのは、そんな人達のお陰なんです。だから私は彼らの為に、背負いたくないモノを喜んで背負うことが出来るんです。
「だから、グレイズ殿下に冷たい態度をとられても…例え殴られたとしても平気なんです。と言うか、逆にエリーに冷たい態度をとられる方が、ショックで寝込んじゃうかも…?!」
「えっ、寝込んじゃうんですか?」
「ええ、任務がたまっちゃって大変になってしまいますねえ。うーん…困りました。」
「あははっ、じゃあ冷たい態度はとらないようにします!任せてください!」
冗談めかしくそう言うと、エリーの雰囲気が一気に和らいだ。良かった、怒りを忘れてくれたみたいですね。
ねえ、ダン。貴方があの時教えてくれたよね、怒ると幸せの妖精が離れて行ってしまう、逆に笑っていると幸せの妖精が寄ってくるって。これで、エリーに幸せの妖精が寄ってきてくれますよね?
「そう言えば、前からお頭に聞きたいなって思ってることがあったんですよね。」
「?なんですか?」
一段落してテーブルに置いたティーカップを手に取り、紅茶を飲みながらエリーの言葉を待つことにします。本当に王室御用達の紅茶は美味しいのです。
「お頭ってダン副長のことが好きなんですか?」
「っ、げほっげほ!!」
「お頭!?」
「だ、大丈夫、けほっ…です!」
むせてしまった…。どんなタイミング…!
「その反応…やっぱり、お頭はダン副長を…。」
「や、いや!昔っ、昔の話ですよ!?」
あ…しまった、つい口が滑った!
時すでに遅し、エリーは目をキラキラとしていて、漂う雰囲気は嬉々としています。
「今は?お頭、今はどうなんです!?」
「い、今はダンは結婚していますし。アヴィくんやラヴィちゃんもいるじゃないですか!なんとも思っていませんよ…!」
「焦ってるところが怪しいですよ?年上でちょっといかついけど、兄貴肌で頼りがいがあって…ダン副長素敵ですものね!」
「だから!昔の話なんですってば…!」
「うふふー!お頭ってば可愛いです!」
聞く耳を持って下さい…!
ああ、どうしよう…。久しぶりに顔が熱い…。
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緋褪の森。
乱れた心を戻す為に、みんなが寝静まった頃にやって来た。ダメですね、不意をうたれると。
でもいいんです。緋褪の森は私にとって癒しの空間なので、ここでリラックス&リフレッシュです!
「おー?頭じゃねえか!」
「うわ…。」
前言撤回、ここはダメ。今から王都まで帰ります。
「あん?どうし…。っておいおいおい!どこ行くんだ?!」
よりによって先客がダンとか。どこの誰のイタズラなんですか。これ。ありったけの力でぶん殴るので出てきて下さい。
即行で帰ろうとすると、ダンは慌てた様子で走って来て、私の腕を掴んだ。
「や、ちょっと所用を思い出して。」
「俺を見て、うわって言ったよな?」
「気のせいです。」
「大きな声で言ってたぞ。」
「幻聴じゃないんですか?」
「残念だな、健康だ。」
「……あれです。ダンに会えたのが嬉しくて。」
「嬉しそうな声じゃなかったぞ。それに俺の方をちっとも見ねえじゃないか。」
「分かりました。降参します。」
背を向けたままでいたけれど、両手を挙げて降参のポーズをしたまま振り返る。
大丈夫、あれから随分落ち着いたら大丈夫。手を下ろし、ダンを見ると早く訳を話せと言わんばかりです。
「ダンがいるとは思わなかったんです。それに、本日ちょっとありまして。こんな日に貴方に会いたくないなーと思っていたので、心のままの声が出ました。」
「なんだそりゃあ?」
「本当なんなんでしょうね、このタイミング。仕組まれていたとしたら、仕組んだ者を全力をもって殺したい気分です。」
「そうか、そこまでの何かがあるんなら、理由は聞かんが、とりあえずここに癒されに来たんだろう?」
「ええ、まあ…。」
来るんじゃなかった…。
それから渋々、ダンに促されるまま彼の隣に座り、世間話をして時間を潰します。
「リザの肝っ玉には本当に恐れ入るぜ。」
「ふふっ、リザさんは相変わらずですね。」
リザさんと言うのは、ダンの奥さんの名前なんです。ここのご夫婦は仲良しなんですよね。聞いていて微笑ましいくらい。
「そう言えば、リザさんの腰痛は大丈夫なんですか?」
「ん?おう、頭が自分の力を練り合わせたりして作ってくれた塗り薬あるだろ?あれが本当によく効くみたいでよ。腰が痛い時はよく使ってる。」
「良かった!あ、でもそろそろ薬が無くなるんじゃないんですか?また作ってリザさんに送りますね。」
「助かる。あの薬俺もたまに使ってるんだよ。」
「……リザさんの為に作ったんですけど。」
「固いこと言うなって。」
全く…この人は…。
私は自分のウエストポーチから小さな容器出して、ダンに差し出した。すると、彼はすぐに受け取り、不思議そうにそれを眺める。
「これは?」
「例の塗り薬です。それダンにあげるので、リザさんのは使っちゃダメですよ。成分が違うんですから。」
「おおー!こいつは有り難い!よく効くんだよなー。」
ダンとリザさんの役に立てたなら良かったかな。そう、のんびり思っていると頭にふと何か乗った感覚が。
この、久しぶりなこの感覚…。咄嗟にダンの方を見ると、彼の嬉しそうに笑う顔が目の前にあった。
「ありがとな、レイリア!」
な、まえ…!しかも、頭撫で…!!爆発する!!
もう初恋は終わったんです。本当に、綺麗に。
けれど、この日はエリーにしてやられてしまったせいで、あの時の感覚が…。
久々に高鳴った胸。……明日からまた頑張ろう。
【11】嫁と恋話とときめく心。END.




