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 Case3:第三王子の場合

ブラックローズが宿の廊下を歩いていくと、向かいから歩いてきた第三王子とばったり出会った。

お互いほぼ同時に、おや、というような顔になる。


「ブラックローズ、ちょうど良かった。……どっか行こうとしてた?」

「はい、第三王子様のお部屋へ。今日はどうされているのかなと」

「なら更にちょうど良かった。これから町を見に行くんだけど、よかったら一緒に来る? 俺も案内役になれる程、この町知ってる訳じゃないんだけどさ」


そういうのは兄上だな、と第三王子が呟く。

どうやら訪ねていく側と誘いに来た側とで、かち合ってしまったようだ。

当然、ブラックローズに断る理由はない。


「はい、ご一緒させてください!」

「よし、じゃあ行こうぜ。何ていうか、あんた一人にしておくと町のどっかで火の手が上がるんじゃないかと心配でさ……」

「まあ、第三王子様ったら。私は無意味に町を焼いたりしませんよ」

「そうかな、無意味に山と森を焼こうとしてたの二回見てる気がしたんだけど俺」


二人は話しながら宿を出て、大通りに向かった。

といっても、この町では路地を除けばどこも大通りのようなものだ。

外門から繋がり、そのまま町を横一直線に貫く道路を基軸にして、格子状あるいは放射状に道が敷設されている。いずれの道も、馬車の往来に困難が生じないよう最初からすれ違えるだけの幅を取って設計されていた。

この辺りは、王都よりも後の時代に築かれた町の強みだ。もっとも、便利だが町並み自体に面白みがないという評価もある。

計画性が過ぎるというのも難しい。


「今日はどこに連れて行ってくださるんですか?」

「俺の行きたい所でいいの?

若駒の調教やってる場所に顔出す予定だったんだけど、なんか見たいもんあるなら言ってくれよ」

「私は特には。しいて言うなら何でも、でしょうか」

「ないのか。って、きみはこの町初めてだもんな、そりゃそうだ」


馬は好きですとブラックローズがにこにこしていた為、予定通りに調教施設へ向かって、途中で見たい場所ができたら寄り道する事に決める。

だが多くの動物を管理する場所となると、敷地を始めとする諸問題のせいでどうしても町の中心からは外れてしまい、集客を目当てとした店の数は減っていく。

結局、めぼしい施設に行き当たらないまま最初の目的地に着いてしまった。

そりゃそうだよなあ、と第三王子がしまったというように頭を掻いている。

ブラックロ-ズにしてみれば何の問題もないのだが、結果的に選択の幅を狭めてしまった心境に陥っているようだった。

途中から少しずつ減っていった人家は、既に一軒も見当たらない。本来なら町の外にあっても不思議のない大規模な施設だけに、ここだけがまるでちょっとした牧場のようだ。青々と茂った草原の向こう側には、人を背に乗せて弾むように駆けていく年若い馬の姿がある。


「お待たせ、ブラックローズ」


顔見知りらしい職員に挨拶をしに行っていた第三王子が、鞍をつけた一頭の馬を引いて戻ってきた。

鹿毛で額に白い星があり、利発そうな目をしている。

訓練を行う施設で借り物であり商品である馬を預けてもらえるとは、どうやら第三王子はここではかなり信頼されているらしい。

まさか王族としての権限を振りかざすような真似はしないだろうし。

また馬の方も、訓練を受けている事を抜きにしても第三王子に良く従っていた。

これは馬の素養もあるが、第三王子の技術でもあるのだろう。子供の頃から乗馬に親しんでいた彼にとって、馬は友だ。


「きれいな子ですね。それに、とても賢そう」

「この町から南に行くと専門の牧場があって、すごくいい馬を生産するんだ。

そこで産まれた馬たちは、ある程度育ったらこの町で訓練を受けて、各地に売られていく。城の馬もそこ産のここ出身なんだぜ。俺たちが乗ってきた馬車を引いてた奴もな」

「牧場……きっとここよりもっと、ずっと広くて気持ちのいい場所なんでしょうね」

「ああ、そっちも何度か見に行ってるけどいいとこだよ。

今回は逆方向だから見に行けないけど、呪いの件が片付いたら……ってそれはそれでやたら遠出できなくなるか。うまくすりゃ帰り道にでも覗いていけるかもしれないから、兄上に頼んでみるよ」


掌全体で馬の首を撫でながら、第一王子が言う。

真似をしてブラックローズが手を差し出すと、馬は嫌がるでもなくおとなしく鼻先を撫でさせるままにしていた。

長い睫毛に彩られた、黒い眼がブラックローズと第三王子の姿を映す。


「おとなしい子ね。いい子ね」

「あんたって馬には怖がられないよなあ」

「ふふ、餌を怖がる理由なんか無いって思われてるのかしら」

「その前触れなしに植物の感覚で話すのやめてくれよビクッとするから」


そもそも馬は花を食べるんだっけと、第三王子はつい考える。

おかしな毒草を食べて腹痛を起こしひっくり返った馬の話は見聞きしていたから、まあ食べるのかもしれないが。


「さてと、ブラックローズ!

見ての通りこいつは特別気性がおとなしい。体の方もほとんど仕上がってて、いつでも注文先に届けられるくらいだ。もちろん訓練もバッチリ入った優等生。乗り手の気持ちを汲んでくれるから、間違っても振り落とされたり暴走したりしない」

「という事は……」

「そういう事。馴致コースの端っこ歩かせてもらう許可取ってきたからさ、乗りなよブラックローズ。せっかく来たんだし、ぐるりと一周のんびり見て回ろうぜ。で、その後で俺の華麗な馬術を披露してやろーう!」

「わあ、楽しみです! 柵をひらりと飛び越えたりするんですよね!」

「おっ、ホントに見てくれるのか!

馬車はいつも兄上が御者役務めてるからな、一回きっちり乗り回せるところを見せてやりたいって思ってたんだ」


自分の本当に自慢できる箇所を見せる時の、得意気な表情を隠さずに第三王子は笑った。

ブラックローズの乗った馬を引いて歩いてくれるというが、今すぐにでもその馬に乗って駆け出していきそうな屈託のない笑顔だ。

日頃他の兄弟に目を配っているしっかりした性格に思えて、意外と、いや見た目通りにまだまだ少年としての心を残しているのだ。

だからこそ彼は、広く民に慕われているのだろう。


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