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白き町、束の間の休息 - 1

城を発つ事二十日あまり、開け放たれた巨大な門扉を潜って、王子たち一行はこの旅における最後の町に入った。

これまでと違っていたのは、門の前に多くの人が並んで列を作っていた事だ。

この国二番目のという評価は大袈裟ではなく、白い大理石の門と町を囲む外壁は、王都にも決して引けを取らない立派なものである。

計画的に築かれたこれまた白い町並みは、街道の遥か遠くからでもその光景を目にする事ができ、旅人に力を与えてくれる。

完璧に舗装された道は歩きやすく、馬車の揺れも驚くほど少ない。

門から少し進んだだけで、早くも通りの左右には商店が立ち並び始める。賑わいという点でも今までの村とは段違いだった。

第四王子は早くも道行く景色に目移りしている。

放っておくと駆け出していきそうな弟の肩をどうどうと抑えながら、第三王子もいつもより楽しそうだ。第一王子は普段と変わらない調子で冷静に手綱を取り、第二王子は黙々と町の様子を記録に取っている。


「すごいね! お城に帰ってきたみたい!」

「久々に来たけどやっぱ賑わってるなぁ、王都ともちょっと違うんだよなここ」

「商業の交流面ではこちらの方が上回るでしょう。私も新しいペンを数本買っておきたいところです。ここのは質が良いので」

「言われてみれば、さっきからずっと声をかけられっぱなしですね……」


長旅でくすんできているとはいえ、王子たち一行の馬車はこの町でも目立つ。売り子たちが見逃す筈がなかった。

パンの焼けるいい匂いが漂ってきて、思わず第四王子がお腹を押さえる。

町手前の休憩所でも自慢気に出された品だったが、やはり焼き立てに勝るものはない。


「ねえ兄様! 今日泊まる場所はどこ? 早く行こう!」

「おやおや、いつもは宿に入るより走り回っていたがるというのに」

「だってー……」

「焦るな。この町には今日を含めて三日間滞在する。質の良い食事を取る機会は充分にある」


あくまで厳粛に第一王子が告げた。

同じ場所には長くても二日間の滞在、それも事情がある時だけという旅程を続けてきただけに、あとは魔女の森を目指すのみという段階になって、三日間の足踏みというのは長いように感じられた。

ブラックローズが、馬車の中から第一王子の背中に聞く。


「三日間も滞在して大丈夫なのですか? 橋の一件のせいで遅れが出てますけど……」

「睡眠と食事は毎日確保できているとはいえ、ここまで我々はほぼ止まらずに移動を続けている。たとえ目に見えずとも、疲労は確実に蓄積しているものだ。

よって無理に遅れを取り戻すよりも、数日間の休息を取り肉体及び精神の疲労を完全に抜き去る。この先には街道も休憩所もない故、馬車の整備や食料及び水の入れ替えも必要だ」


その為の見積もりが三日間なのだと、第一王子が振り向かずに事情を説明する。馬車が右に向きを変えた。

これまでの安全な旅を約束してくれた国管理下の街道とは、ここでお別れ。魔女の森へは遠く北東の地を目指さなければならない。準備を万全にして時間さえかければ行く事自体は可能だから、前人未到の大冒険という程ではないものの、一応は屋根の下での寝食が保証されていた今日までとはだいぶ事情が違ってくる。

剥き出しの地面に馬車はガタガタと揺られ続け、星明りの下での野宿を何日も何日も繰り返す。無論、雨の日もあるだろう。

だからこそ、あえて一旦立ち止まって万全の準備をという判断が下された。

遅れを取り戻そうとして体調を崩したり、馬車が故障して町まで引き返す羽目になったのでは本末転倒である。

この規模の町なら、何を調達するにしても不足はない。


「おっし、この三日間は好きに気晴らししてろって事でいいんだよな!」

「精神面の疲労を抜くのは目的のひとつだが、節度は守らねばならぬぞ」

「そこはどうぞご心配なく。やーれやれ、久々に町でのんびり出来るな。

……っと、悪い。ブラックローズ、あんたにしてみれば一刻も早く先に進みたいのを忘れてたぜ」

「お気になさらないでください、第三王子様。私も忘れていましたから」

「ちゃんと憶えてようよブラックローズ」


通りの右手に今日泊まる宿が見えてきた。庭が広く、実に五階建ての建物も貴族の館と見紛うばかりに立派である。宿の敷地内に個人用の馬車を停める場所と、馬の世話をしてくれる厩舎まで設けられているのだ。

それだけで、ここまでの宿とは一線を画している。どうやらこの三日間は、最高の環境で日々を過ごせそうだった。


「おー来た来た、近付いてきたぞーふっかふかのベッドが!」

「この町を代表する由緒ある宿だ。古いだけではなく設備も充実している。各自、今日は宿から出ずに体を休める事に専念せよ。所用を済ませるのは明日以降に回せ」

「私はどこにいてもやる事は同じなのですが、まあ当面動かなくて良いのは助かりますね」


第二王子がぱたんと記録帳を閉じ、ペンを拭って片付けながら言った。

かくして、魔女の住む地を目指す花妖精と王子一行に暫しの休息が訪れる。






町に着いて二日目。

翌朝は旅立ちの日を思わせる快晴だった。

早くに到着したのと、噂に違わぬ宿の質の高さのおかげで、昨日一日で王子たちは充分に体を休める事ができていた。

食事と入浴と軽い午睡を済ませた第三王子と第四王子などは早々に暇を持て余し、一階の酒場にいた吟遊詩人と一緒に歌ったり球技台で遊んだりしながら頻りに宿から抜け出す機会を伺っては、そのたびにどこからともなく現れた第一王子に阻まれていた程だ。

今すぐにでも発てそうな天候は、何をするにも向いているという事でもある。

宿も朝から出入りが激しく、耳を澄ませば外の通りの活気が伝わってくる。

王子たちも、束の間の自由時間をどう過ごそうかと各々考えている頃だろう。


「私は……どうしようかな?」


ブラックローズには、これといってしなければならない事はない。

花の妖精である彼女には王子たちのような休息は要らず、旅に必要な品の補充もこれまた実際に使う王子たちに任せた方が良い。

とはいえせっかくの空き時間なのだから、ずっと部屋にいるというのも勿体無いと思い、少し考えてからブラックローズは――


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