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魔女の子育て  作者: ベルヴェラ
2/2

中編

手紙が来てからまた幾日と日が過ぎ去り、ある日外に妙なものを感じたラクシレアは外に出て森の中を探索します。

 すると、とんでもないものが彼女の目の前に飛び込んできました。

 なんと国王になっていたはずのルシウスが血塗れになり、近くの木にもたれ掛かるように倒れていたのです。

 その傍らにはラクシレアが以前会ったことのあるリシア姫も血塗れになっています。

 

 「ルシウス!?」


 ラクレシアは慌ててルシウスの元に駆け寄り、ルシウスの体を揺さぶります。

 ルシウスの懐をみると、そこには小さな赤ん坊が眠っていました。


 「か、母……様?」


 「ルシウス!?待ってなさい!すぐに治してあげるから!」


 ラクシレアはルシウスの傷を治そうと魔力を込めるとルシウスはそれを止めます。


 「ルシウス!?」


 「母様……無駄です。いくら母様でも……これほどの傷は治せません。……母様が……治癒系の魔法が苦手なのは……昔からよく知ってますから。今はなんとか魔力で無理矢理延命……してますが……あまり長くもたないようです……コハッ」


 ルシウスは大量の血を吐き出します。


 「ルシウス!?」


 「母様……聞いてください。ガイウスが……以前排除した悪徳貴族を……引き連れてクーデター……を起こしました」


 なんと伝えられたのは、ルシウスを排さんが為のクーデター。

 ルシウスは以前国を正しく立て直す為に脱税や犯罪行為に関与していた沢山の悪徳貴族を裁き、貴族の爵位を奪い、追放していました。

 その結果、ノディリス王国の犯罪は減っていき、治安がよくなっていました。

 しかし、全ての貴族がそれをこころよく思っていた訳ではありません。

 自分が得ていた利益を生む裏の仕事をなくされた悪徳貴族はむしろルシウスに対し嫌悪の視線を向けていました。

 それに気づいたガイウスと公爵家は裏でその悪徳貴族やその私兵を保護し、買い付けることでクーデターを行うことができるほどの兵力を集めることができたのです。


 「私は……リシアとこの子……我が娘レティシアを……連れ、ベラナス達近衛兵と……脱出を試みたのですが……のですが、ガイウス達に……読まれていたようで……待ち伏せに襲われました」


 「近衛兵達はあなた達を守るために囮に?そのあと追っ手に追われたのね」


 「……はい」


 ラクレシアは察します。

 近衛兵の人数は限られている為、ガイウス達が軍や騎士団を掌握すれば近衛兵達がいくら強かろうと物理的にルシウス達を守りきることは不可能であり、ベラナス達は囮となる他にルシウス達を生かす方法がなかったのです。


 「その追っ手から……レティシアを守る……ためにリシアは背を斬られ、私も応戦しましたが……連戦に次ぐ連戦で魔力と体力が……尽きてしまい……ました」


 ルシウスの顔は最早蒼白を越えて土色に染まり、声も段々と細々としたものになっていきます。


 「ルシウス!」


 「かぁ……様。レティ……シアをお願い……しま……す」


 抱いていたレティシアを最後の力を振り絞り、ラクシレアに渡したはそのまま息を引き取りました。


 「ルシウス!?ルシウス!ルシウス!起きて!この子には貴方が必要なのよ!ルシウス!」


 レティシアを抱えながらラクシレアは叫び、もう動かないルシウスの体を何度も何度も揺すります。

 しかし、いくらしてもルシウスは目を覚ますことはありません。

 失われた命が甦らせることはラクシレアですら使うことができない秘術、禁術なのです。

 そんなラクシレア達の事をよそに遠くから声が聞こえます。


 「おーい!見つかったか!?早く先王達の死体を持ってかねぇと俺達まで新王様に殺されちまうぞ!」


 「わかってる!ちくしょうめ、あれだけ俺達が深手を負わせたのにどこまで逃げやがるんだよ」


 近くに行って耳をすませると、胸に国の印である獅子の紋様が描かれた鎧を着る騎士が三人集まり、ルシウス達を探していました。

 『俺達が深手を負わせた』……その言葉を聞き、ラクシレアのなかで何かが壊れるような音がしました。


 「ねぇ、そこの貴方達……今の話は?王族に手をあげるとはどういうこと?貴方達はこの王に使える騎士じゃないの?」


 隠れていた茂みからラクシレアが現れてゆっくり進み、騎士達のもとに向かいます。

 騎士達はいきなり現れたラクシレアに驚きますが、ラクシレアが抱いていたレティシアを見ると剣を抜きラクシレアに向けます。


 「おい、そこの女。大人しくその赤ん坊を渡せ。そうすれば命だけは見逃してやる」


 騎士の一人が剣を突き付けたまま脅します。

 しかし、ラクシレアはそれに臆しません。

 何故なら彼女にとってこんな状況などなんの危機でもないのです。


 「何故?この子を貴方達に渡す理由もないし、この子がどんな存在か知っているのね?」


 「黙れ。お前のような奴に知る必要はない」


 「いいえ、関係あるわ。私はルシウスの……アルザードの育ての親だから」


 「なっ!?なら貴様が噂の魔女か!お前達、魔法を撃たれる前に首を落とせ!」


 男の指示に残った二人の騎士は抜刀し、ラクシレアに向かい走り出します。

 その剣がラクシレア突き立てられるその瞬間、巨大な二つの影が騎士達を飲み込みました。


 「ウルフェン、レイヴ……そう、貴方達もルシウスの事を見てきたのね」


 ラクシレアが小さな声でその影の名を呼びます。

 ウルフェンとレイヴ。

 人間の数倍の体躯を持つ狼と鴉がラクシレアを守るように指示した騎士の目の前に立ちはだかります。

 ウルフェンの口には鎧ごと噛み砕かれ絶命した騎士を咥えられ、レイヴの足にはそのまま兜ごと頭部を握りつぶされた騎士を持ち上げられていました。


 「ひ、ひぃいいぃ」


 一瞬で起きた惨状に残った騎士は情けない声をあげながら腰を抜かして地面に座り込んでしまいます。


 「ウルフェン、レイヴ。そんなもの放り捨てなさい。お腹を壊すわよ」


 ラクシレアがそう告げると二匹は持っていた死体を雑に投げ捨てます。

 そして二匹の視線は残った最後の騎士に向けられます。

 怒りと憎しみの込められたその視線に当てられた騎士は死を覚悟します。

 この騎士は決して弱かった訳ではありません。

 むしろ王国の中では選りすぐりの騎士につぐ存在であり、本人もそれを自覚していました。

 しかし、目の前にいる二匹の獣と魔女にその程度の存在が通用する筈はありません。

 ラクシレアの悠久の時を生きる魔女であり、その魔女のもとにいる二匹もただの獣ではありません。

 ウルフェンはその凶暴さゆえに国一つを滅ぼしたといわれる破滅の狼と恐れられたフェンリルであり、またレイヴは一度ひとたび戦場に現れてはその場にいる人間を恐怖の底に貶めたバズウという怪鳥でした。


 「ねぇ、貴方……答えてくれないかしら?貴方は……いえ、ガイウスはこの子をどうするつもりなの?」


 周囲の木々がざわめくほど濃い魔力を体から発しながらラクシレアは語りかけます。

 

 「し、知らない!俺達はただ先王、王妃を殺して娘を手に入れろとしか命令されていないんだ!王女を使って何をするかは俺達は知らないんだ」


 命の危機に騎士はあっさりとルシウス、リシアを狙ったこと認めます。


 「……そう。ならもういいわ。死になさい」


 ラクシレアは指をパチンッと鳴らすと突然地面が揺れると直径三メートルはあろう巨大な茨が現れて騎士をぐるりと締め付けて数メートルの高さまで持ち上げます。


 「か、はっ……た、助けてくれ!もう俺はその子を追わないし、あんたに関わらない!だから命だけは!」


 騎士の必死の命乞いにラクシレアはただ一言だけ言います。


 「いやよ。貴方達は私の大切なルシウスを手に掛けたのよ。助けるなんて絶対に嫌よ」


 ラクシレアくるりと回り茨に背を向けます。

 そして次の瞬間、騎士を締め付けていた茨は一気に力を強めて内側にいた騎士の体を鋼の鎧ごと潰してしまいました。


 「痛みをなく一瞬で殺してあげたんだから感謝なさい」


 ルシウスに向けていた暖かな目ではなく、まるで氷のような冷めた目で肩越しに騎士を見ます。

 そうしていると腕の中でも寝ていたレティシアがぐずり始めます。


 「あらあら、起こしてしまったのね。お願いだからもう少し寝てちょうだいね」


 ラクシレアはルシウスを拾った時のように魔法でレティシアを眠らせます。


 「ふふ、ルシウスを拾った時を思い出すわね。……急いでルシウス達を弔ってあげないといけないわね」


 レティシアが寝たのを確認したラクシレアはルシウス達には見せたことのない表情をしそっと呟きました。


 「ガイウス……私は貴方を絶対に許さない」



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