3
☆
「私が驚かせようと思ったのに、まるで正反対になってしまったよ」
「お嬢様の鋭さを読みきれないなんて、まだまだですね、閣下」
にこりと微笑んだのは焦げ茶色の髪を丁寧に結わえ、片眼鏡をかけた女性。髪と同じ色の目と声には、どこか面白がって揶揄う節があった。飾りのない衣服だが、仕立てが良いは一目で明らかだ。
「庭を見せてはダメですよと、ご忠告差し上げましたのに」
「だから急いで迎えに行ったさ。周りを見せないように、気を引いて……」
「せっかく悪どくお考えになったのに、通じなかったんですね」
「……あなたは本当に……」
その先は紳士的に飲み込んだサイラスに、ふふふ、と女性が含み笑いを漏らす。項垂れるサイラスには悪いが、どうしても意地悪してしまうのは仕方がない。諦めてくださいな、と内心で呟いておく。
「それで、お嬢様はどちらに?」
「庭師を探しに、というより、探検か散策かな。彼女は好きだったから」
「好きだったお庭を、あえてもう一度お造りになったのでしょう?」
「……」
降参、とばかりに、サイラスは軽く両手を前にかざした。
庭の四阿には、花咲く庭園のから良い香りがもたらされていた。サイラスにとって、ここはバードと密会した場所であり、小さなオリヴィアが一人遊ぶ姿をよく見かけた場所である。
花殻、木の実、鳥の羽。小さな手にそっと包まれた宝物は、決して屋敷に持ち帰ることなく、最後は土に埋めていた。
「あの子は昔から、賢すぎるね」
思い出のままにこぼすと、沈黙の同意があった。それは彼女を救いもしたし、望みを絶ったこともあるだろう。
姿勢を正して、サイラスは真っ直ぐに相手に向き合った。
「あなたがいてくれて、良かった」
心からそう告げれば、穏やかな微笑が返ってきた。
オリヴィアは、とっさに踵を返していた。来た道を戻るうちに、ついさきほどの様子がまた蘇ってきて、混乱する。
なんのことはない、場面だった。サイラスと、女性が一人。結い上げた髪に、理知的で落ち着いた気品のある雰囲気は、華やかなサイラスに劣らなかった。穏やかに彼女を見つめるサイラスも、後姿の女性を信頼しているのが明らかだ。
会話の聞こえる距離ではなかったが、最後のサイラスのセリフだけが、耳に届いた。
ただ行き先の四阿に先客がいただけなのに、盗み見をしたようで余計に遠ざかる足が速くなる。
どうして、と問いかけるのに、誰に何を尋ねているのか、自分でもわからなくなった。
赤い花、黄色い花、緑、茶色の幹――過ぎていく光景がぐるぐると巡って、はたと気づけば、立ち位置さえ、見失ってしまった。
新しい庭だ。すべてが同じように作られたわけでない。迷路の生け垣を作ったという話は聞いていないが、周囲を見回しても、枝分かれした小道のどちらに行っていいのか見当が付かない。
とん、と軽く人差し指で口の端を叩く。
どうして、と頭の中で繰り返せば、今度はちゃんと疑問になった。
どうして、逃げてしまったのか。どうして、逃げたいと思ってしまったのか。どうして、今苦しいと感じるのか。
困ったことに、どれ一つとして、オリヴィアの中に答えがなかった。
心と思考も、迷子になっている。途方に暮れるしかない。
ふう、と息をついたところで、視線を感じて振り返って――こぼれそうなほど丸く見開かれた青い目とぶつかった。




