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私の心は金の波  作者: 日野真春
番外編2-昔話と後日談ー
21/34

1



  ☆



 庭は、春を告げて美しく彩られていた。

 早咲きのバラ、野辺の姿をそのまま移し替えたスミレ、新緑に輝く低木。

 かすかに吹いた風が、オリヴィアの金の髪をふわりと揺らす。


 懐かしい、風景だった。

 目が離せなかったオリヴィアに気を利かせて、迎えの侍従は一足先に主へ来客の知らせを持って行った。構いません、という言葉に甘えて、散策しながら、若木に手を伸ばす。

 ウィルコットの屋敷は、一度国に接収され、庭も建物もすべて改められた。当然、かつての草木が残っているわけではない。屋敷内も、構造こそ一緒だが、調度品はすべて変わっていたのを、以前訪れて知っていた。あの時は、庭にまで目を配る余裕はなかった。

 けれど、いくつか見覚えのある花が咲いていた。それも、以前と同じ場所だ。


 オリヴィア、と呼ばれて振り返った。


「サイラス様」


 礼儀正しく一礼しようとするオリヴィアに苦笑しながら、サイラスがそっと手を取る。そのまま、自然とエスコートされる形になった。


「君はいつまで、私をどこかの紳士と同じにするのかな? おかげで今日も、君に挨拶のキスが出来なかった」

「……」


 囁きが聞こえるのは、耳元でサイラスが話すから。オリヴィアはどう返答すればよいのか、困惑するままにサイラスを見上げた。

 ここで申し訳ありません、と言ってはさらに他人行儀だ。だが出会いがしらの言葉や作法を他に知らない。シシリーのように、明るく笑顔でおはよう、と挨拶するには、オリヴィアの口が重すぎた。


「……うん、私が悪かったよ、オリヴィア」

「いえ、そんな」


 私こそ、と続ける前に、唇にふわりと口づけられた。いたずらに成功した笑みが、目の前にある。


「君の挨拶は綺麗だよ。だからいつも見惚れて、私の方が忘れてしまうのさ」

「ご冗談を……」


 つぼみのように薄く頬を染めながら、オリヴィアが目線を逸らす。あいにくと、その挨拶に一目ぼれをしたサイラスとしては、嘘は一言も言っていなかった。


 ふと、黄色い花をこぼれるほど付けた一株に、オリヴィアが目を止めた。視線を追ったサイラスが、花に手を伸ばすと、オリヴィアがそっと押さえた。


「サイラス様、そちら、棘がありますから」

「そう?」

「はい。バラの一種なので」


 サイラスが意外そうに、黄色い花を見つめる。少し前に通り過ぎた大輪のバラとは、まったく趣が異なっていた。


「さすがによく知っているね。じゃあ後で、庭師に飾らせよう。気に入ったかい」


 問いかけに、オリヴィアがゆっくりと頷く。この花もまた、思い出を呼び起こす。

 広い庭は、今ちょうど半分を回ったところだ。けれど、十分だった。


「サイラス様」

「なんだい?」

「懐かしい庭師を、お迎えになりましたのね」


 足を止めて棒立ちになったサイラスの様子が、答えだった。




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