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序章
まだ、世界でドラゴンが息をしていた時の話だ。
ドラゴンは生物の頂点にして生命の根源として君臨していた。数多の村が焼き払われ、数々の街が壊滅的被害を受け、幾つもの都市が滅ぼされた。
領民曰く、天命の権化だと。
君主曰く、破滅の象徴だと。
神に等しきドラゴンに挑む愚か者など存在しない。人々はそう信じていた。
だが、一人だけは信じなかった。
英雄曰く、乗り越えられるべきなにかだと。
身の丈ほどある魔剣を片手に持ち、臆することなき勇気と自らの正義を掲げて英雄は挑んだ。
空に浮かぶ雲を超えた霊峰の頂上で、ドラゴンと英雄は己の爪と牙を交えた。
二度の夜を超えて、三度の朝を迎えたとき、遂に英雄の爪がドラゴンの心臓を貫いた。
英雄は乾いた喉を潤すようにドラゴンの血を浴びるように飲み続けた。
そのとき、世界中の生命全てが無意識的に聞き取った。
――世界の均衡が崩れる音を。