初任務 1
不意にぞわぞわと背中に悪寒が走った。
同時に空気が透き通ったものから、
鈍い濁った水のようなものに変わった。
エレノアははっと周りを見回す。
他の3人も同じだったようで
みんな眉を顰めて周りを観察していた。
周りには何もない。
でも、確かにおかしかった。
鳥の声も虫の声も木々が風で揺れ擦れ合う音すらしないのだ。
完全な不気味な静寂が森の中では広がっていた。
「もうやつの領域だ。
気を張ってろ。
幻覚には気をつけろ! 」
ルークが叫んだ。
エレノアとシャラとカイルは息を飲んで無言で頷く。
不意に濁った空気の中からザッと空気を切るような感覚が走った。
「伏せて!!」
エレノアが叫び声をあげたのを合図に4人はしゃがんだ。
そして同時にザクッと地面に何かが刺さった音がした。
音の方を向くと成人男性の足の長さほどはある黒い棒のようなものが深く地面に刺さり、
そこから草木を枯らしていた。
「危なかったな。」
カイルが呟く。
ふたたびまたあの感覚が2本分走った。
「来たわ!! 」
エレノアが叫ぶとルークが3人の前にかばうようにして立ちふさがり呪文を唱えた。
4人は雷の中に包まれた。
飛んできた黒い棒はルークの雷に散り散りになって燃え尽きた
「相手の姿が見えねぇ!
俺はこのまま結界を張る!
エレノアは気配を探れ!! 」
「了解!! 」
エレノアの属性は風。
遠くまでの気配を読むのが得意だ
エレノアはルークの指令に従い自身の周りに巡る空気に感覚を研ぎ澄ました。
汚染された水のように淀んだ空気。
幾つかのザッと見鋭いものがこちらに近づく気配。
その方向には…何か大きなものがどよめいていた。
「いたわ!! 」
「どこらへんだ!? 」
「ここから南東にに100メート進んだ先!」
「一匹か?」
「わからない。とにかく大きくどよめいているのよ。」
エレノアが告げるとルークはカイルに尋ねる。
「わかった。カイルは何か見る術はあるか? 」
「俺は大地の魔法専門だ。
方向が分かったから森の力を借りればなんとか」
「頼んだ! 」
「おう! 」
何本か棒が飛んできた後カイルは声をあげた。
「ルーク! いたぞ!
蜘蛛のようなやつが8匹固まってる。」
「げぇ蜘蛛ー」
カイルの言葉を聞いたシャラはあからさまにやな顔をした。
「あの黒い棒は蜘蛛の足のようだ」
カイルが告げるとエレノアは残念そうに声を漏らした。
「じゃあ物理攻撃はダメね。剣は使えなのね……」
「そうだな。でも、シャラの炎だと山火事になりそうだな」
ルークが言うとエレノアは首を振った。
「その心配はないわ。空気を操って火事にならないようにするわ
まぁ、蜘蛛がいる場所はダメになるけど。」
「それでいこう。飛んでくる針の援護は俺。
カイルは緊急時に備えて待機!」
ルークの言葉に頷き4人は南の方向へ向かった。