ガーベラの花々
「ここが【ガーベラ】の拠点だ」
ルークは扉を開けようとドアノブを回しかけたが
騒々しい声に思わず手を引っ込める。
「ちょっとカイル!何私のお菓子とってんのよ!」
「たくさんある」
「これはこれから来る好みの方にあげるものなの!
あんたが食べていいはずないでしょ!」
「ケチだな。」
「うっさいわね!
んじゃあんたがいい男になりなさいよ」
「シャラの好みになってもな。」
「……。」
二人は扉の向こうで起こっているであろう騒動に唖然とした。
しかも、どこか聞き覚えのあるトラブルメーカーの声がする……
「とても不安しかないのだけれど」
「俺もだ」
エレノアがため息まじりに出す言葉にルークも同意した。
「とりあえず開けようかーって! 」
ルークがそういってドアノブを回すと
勢いよく扉が開きルークの顔面に盛大にドアが直撃した。
「あら? いたの?? ごめんなさい」
全く反省の色もなくあっけらかんと
先ほどまで怒鳴り散らしていた声が聞こえた。
ルークの背中で見えなかったエレノアはひょこっと
ルークを押しのけると
そこには鎖骨くらいまでの真っ赤な
ウェーブかかった髪の美人がいたのだ。
彼女の大きな瞳は好奇心旺盛に輝き
ぷっくりとした赤い唇は楽し気に弧を描いている。
「きゃー!! エレノア! 久振り!! 」
エレノアは押し寄せるようにグイッと顔を近づけるシャラに少し引き気味にかわす。
彼女の名はシャラ。
騎士学校には、高い魔力とそれを扱う力量があるものには学費免除と特別講師がつく特待生というものがあった。
同じ特待生として騎士学校時代の唯一の友達であり、どうしようもない事件に巻き込んでくれたトラブルメーカーだ。
シャラは異国の出身でエレノアの髪と瞳が他と違うのは珍しいものではないと笑いとばし、
エレノアの悪口を言う人達をいつも一蹴していた。
シャラは規律が厳しい騎士学校が合わず、
騎士団に入団する代わりに、
たまたま王都に出入りしていた一座にスカウトされて入ったのだ。
シャラは気にした様子もなく
先ほどのように少し早口で喋りだした。
「久しぶりに見たわー
この艶やかな銀色の髪に陶磁器のような白い肌!
し、か、も私の髪と同じ赤い瞳!!
素晴らしいわ!
本当うっとりするくらい可愛い!! 」
「お前な〜」
絶賛されて戸惑うエレノアにようやく顔面強打から立ち直ったルークが苛立った声を上げる。
シャラは少しも気にすることなく、
ルークの顔を一目見ると
よく言えば素直に
悪く言えば失礼極まりなく
ペラペラと喋る。
「あら残念、王子っていうから金髪碧眼のベビーフェイスだと思ったのに! 」
「悪かったなっ! 」
声をあげたルークに
反撃しようとするシャラに
カイルが部屋から声をかける
「シャラ」
「あらカイル? どうしたの? 」
「部屋に入って落ち着こう」
「それもそうね」
カイルにいわれあっさりと引いたシャラは二人を手招きして中に入れた。
4人はとりあえず席に着いた。
エレノアの目の前に座ったカイルは
茶色い髪は短めに揃えていて優しめな顔をした青年だった。
シャラと並ぶと二人の雰囲気が調和されて美男美女でお似合いだったが
シャラに言うと好みじゃないわと心底嫌な顔をしそうだ。
少し静まったところでルークが切り出した。
「まずは自己紹介からいくか。
俺はこの国の第二王子兼【ガーベラ】の隊長ルークだ。」
「歳はー?」
シャラが横槍を入れる。
「18だ。」
「『ガーベラ』の副隊長になったエレノアよ。
歳は16歳」
「シャラよ。
エレノアとは騎士学校以来の大の親友。
踊り子をしていてローレン様にスカウトされたの!
はい!次はカイルの番」
大をシャラは強調する。
振り回され続けた記憶しかたいのだけれど?
ちなみにローレン様は副団長のことだ。
彼女は絶世の美女だが、女たらし。
おそらくシャラが副団長と呼ばずにローレン様と呼ぶのも彼女の色気に当てられたのだろう。
「カイル。北の地方出身で狩人をしていた。歳は19」
「みんな年は大して変わらないのねー
そういえばあと二人メンバーいるって聞いたけど? 」
シャラの言葉にルークはぽりぽり頭をかく
「そいつらは今任務に出てる。」
「【ガーベラ】って今日作ったんじゃなかったけ? 」
「あいつらは別。任務が隠密だからな。」
「そうなんだ。ねぇ、私たちは何やるの? 」
シャラの問いにルークは説明を始めた。
「知っての通り【ガーベラ】は特別魔法部隊だ。
高い魔力だけではなく戦闘が得意なものが揃っている。
魔法を使いこなせない騎士では歯が立たない魔物が最近増えている。
俺らは魔法師も相手が出来ないような
魔法系のしかも物理攻撃が必要な魔物を討伐するのが主な任務だ。」
魔族とは伝説に登場する魔王の意志を継ぐもので、
アマリスの乙女から与えられた魔法は火、水、風、雷、土と5つの属性があるのに対し魔族が使う力には属性は存在しない。
そして魔族には高い知性と魔力を持つ人型の魔族を魔人、知性も魔力も魔人に劣る獣型の魔族を魔獣と呼ぶ。
ちなみに魔法師とは高度な魔法を扱うことを生業とするものである。
騎士団では得意とする魔法によって物理攻撃を必要としない魔族を討伐する魔法部隊や医療費部隊に回される。
「任務はいつからはじまるの? 」
「今日から」
シャラはルークの返答にえーと不満気に声をあげた。
「行くぞ」
ルークはそれだけ言うとシャラを無視して
部屋をあとにした。