身がわり乙女
「エレノア! 足は滑らかに動かしてください
もう一度! 」
エレノアはリリーの指摘にを気をつけながら
もう一度ステップを踏んだ。
エレノアは今リリーにアマリスの乙女の舞の指導をしてもらっていた。
なぜそうなったかというと
先日リリーが落ち着いて今後の方針を決めている時にまで遡る。
「昼はパレードの中馬車の中で
微笑むだけでいいから、
騎士がそばにつけるから問題はないだろう。
問題は夜だな。」
「なぜ? 」
ルークの言葉にカイルが尋ねた。
「まず乙女祭の会場の中はたとえ警備のものでも
剣を持ってはいけないし、正装しなくてはならないんだ。
それに俺は何かことが起こらない限りは挨拶もしなきゃいけないから警備にはつけない」
「忘れてたけど隊長一応王子だもんね。
口悪いけど」
シャラがあははと笑った。
「一言だけじゃなく二言三言余計だ。
それだけじゃなく、
乙女は祭壇の上で舞が始まるまでいなきゃいけないんだが、そばには誰もつけてはいけないんだ」
「やりにくっ!! 」
「乙女祭の時、リリー様はどんな格好を? 」
カイルの問いにリリーが丁寧に答えた。
「私は基本アマリスの乙女に則って銀色の髪にして、服は銀色のドレスで顔は銀のベールで隠します。」
そこでシャラがピンときたようだ。
シャラは乗り出してリリーに質問する。
「えっ?変 えられるの?? 」
「私の魔法は水なんです。
ですから髪を濡らし銀色のドレスの色を反射して銀色にします。」
「んじゃ、保険にエレノアを使えばいいのよ! 」
「は? 」
興奮気味に言うシャラにエレノアは目が点になった。
何故いきなり自分が出てきた
「だから、目は隠れるのでしょう?
エレノアは銀髪だから取り替えても分からないわ」
「ちょっ! それリリーが攫われる前提じゃないか? 」
ルークが突っ込むとシャラは否定した。
「違うわよ! あくまで保険よ。
カイルと私とエレノアは舞踏会に参加して
リリー様を遠目から護衛するの。
もし魔族が襲ってきたらすぐに動けるようにしてね」
「武器はどうするんだ」
「魔法があるわ。あと私は特殊兵器があるのよ」
そう言ってシャラは胸ポケットから透明な糸を取り出した。
「何それ」
「ワイヤーよ。特殊加工されたやつで殺傷力は高いし相手からは見えにくいわ。
これに私の炎の力を使えば糸の先まで私の意志で動かせるの。」
「シャラ。リリー様が万一攫われた時は? 」
「その時は魔物が出るはずでしょ?
だから演出ってことにしてエレノアが舞って私がその動きに合わせてワイヤーを使って敵を倒すわ。
そうしたら観客は乙女が聖なる力で倒したように見えるでしょ」
「でも、魔物には血が出るのよ。
流石に無理があるわ」
「そこは問題ない。俺がアマリスの花を出して血を見えなくする。」
「でも、乙女の踊りって普通のダンスと違うのよ! 」
「エレノアはあの騎士学校を最年少でしかも出席で卒業したんでしょ!大丈夫よ! 」
「それとこれは……関係ないんじゃ……」
そんなことで期待を込められても困る。
何しろ私はダンスの練習は5年前から一切やっていないのだ。
しかも、あまり上手ではなかった。
それなのにそんな特殊な舞いを踊れと言われても踊れるわけがない。
「私からもお願いしますわ! エレノア!
乙女祭を成功させたいんです! 」
乙女の必死な頼みも付け加わり
エレノアはうんとしか言わざるをえなくなった。
そんなわけで今練習中なのだが、
リリーは顔に似合わずスパルタだった。
リリーは細かいところも注意して、
間違えたら同じところを何度もやり直しさせられる。
これは剣を振るうより難しいわね。
エレノアは自分の為にも本番が来ないことを祈った。