アマリスの乙女伝説
『闇の力を持つ魔王がこの地に降臨した。
魔王は太陽を闇で覆った。
草花は枯れていき、人々は飢え、
そして時に魔王やその臣下である魔族に食われ死んでいった。
神はこの土地を見捨てなかった。
神は魔王の隙を窺って
銀の種を蒔いた。
やがて美しい光を放つ銀色の花々がこの地を覆い
闇を照らす。
その光の中央から神に与えられし邪悪な力を浄化する力を持つ乙女は現れた。
乙女は舞う。
銀色の髪をなびかせて。
乙女が舞うと
枯れた土地から草木が、
骸からは人びとがよみがえった。
魔王は力を徐々に失う。
ついには乙女はこの地の最も低い場所に魔王を封印した。
乙女はアマリスと名乗り
人々ともに平和を築いていった。
後にこの地は乙女の血を受け継いだ聖者たちの国
アマリス王国となる。』
エレノアは[アマリスの乙女]と書かれた書物をめくった。
『アマリスの乙女は危惧した。
後に復活する魔王に。
乙女は魔族に対抗すべく
魔族の邪悪な力とは異なる
聖なる力を人々に与えた。
おもに自然の力、炎、水、雷、地、風
後にこの地からは魔法と呼ばれるようになる…
そして、1,000年後ー』
それ以降は文字がかすれて読めなかった。
エレノアは諦めて書物を閉じた。
「何かわかったか?」
突然上から注がれた低い声にエレノアはびくんと体を震わせた
「驚いたじゃないの」
エレノアが非難がましく声の主、ルークを睨んだ。
ルークは悪い悪いと反省の色もなく口先だけ謝って、
エレノアの隣に腰を下ろした。
「ただ、ここが気になるの」
エレノアはさっきの文字がかすれて読めないページを差した。
「ううん? 読めそうにないな。
しかし、1000年後って言えば今じゃないか!」
ルークが声を上げた。
「一番重要なところよね」
「なんとかして読めないか? 」
「古いし無理ね。
リリー様は何か知らないの? 」
「わかんないけど今は聞けないな」
つい30分前
再びリリーが取り乱したので
4人はシスターに追い払われた。
追い払われた4人は客間に通されたが、
少しでも手がかりが欲しかったエレノアは
書架に案内してもらい、
アマリスの乙女に関する記述を読み漁っていたのだ。
しかし、封印に関して書かれてある書物は極めて少なかった。
「後でリリーに聞きましょうか? 」
「……。」
エレノアは隣にいるルークに尋ねた
しかし、ルークの反応はない。
「ルーク……?」
「ーーっ! そうだな。」
ルークの顔を覗き込むとルークは
はっとすると同時に顔を真っ赤にして頷いた。
どうしたのだろう
熱でもあるのだろうか
「顔赤いわよ? 大丈夫? 」
心配になってルークの顔を覗き込むとますます顔を赤くしたルークは突然立ち上がった。
「ーーっだ、大丈夫だ! 」
「本当に? 」
「あぁ、心配しなくていい。
それより、シャラが呼んでた」
ルークはゆでだこのように真っ赤にして取り繕う。
様子はおかしいが本人が大丈夫だというのだから、大丈夫だろう。
それに、ここはアマリスの神殿。
優秀な医者はいる。
「分かったわ。
ルークも客間へ行く? 」
「……俺はこのまま残る
調べたいことがあるんだ」
「そう? 」
エレノアは立ち上がり書架を後にした。