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固有空間A

彩「早く起きなさい。いや、時間はほぼ無尽蔵にあるからずっと寝てるのも悪くはないのだけれど…」


新「別に今俺寝てなかったよ!?普通に突っ立ってただけだぞ」


彩「ごめんなさい、てっきり立ったまま寝てるのかと」


新「俺はキリンかよ…」


彩「知能はその程度だと予想しているわ」


新「微妙だよ!微妙過ぎて伝わらないよ!ってか、なんかお互いほぼ初対面のはずなのに会話のドッジボールが成立していることに戦慄してるぜ…」


彩「くだらない駄洒落はさておいて。ここは、そうね、固有空間とでも言っておこうかしら」


新「もしかして中二病が持病だったりする?」 


彩「そう思うならそれでもかまわないけど、それじゃああなたは一体どこに飛ばされてしまったのでしょうね」


新「 …」


彩「そこに家があるからついて来て」


新「家!?家まであるのか!」


彩「寝るだけの場所だけど、一応」




彩自宅


彩「自宅、なんて大それたものではないけれど、人が二人座れるくらいのスペースはあるわ」


新「ボロいアパートだな」


彩「寝れればそれでいいのよ。さ、入って入って」


新「おじゃまします」


彩「コーヒーしかないけどそれでいい?」


新「あ、どうぞおかまいなく」






彩「さて、何から話すべきかしら?」


新「何からって、全部聞きたいよ。何が起きてるのか全然わかってないからね」


彩「そうね…この世界が木山という人物によって創られたのは知っているわよね?」  


新「ああ、この世界に入った瞬間出会ったぞ」


彩「私たちが木山の実験の道具にされていることは?」


新「聞いた。俺たちはここから脱出する手段をみつけて元の世界に戻らなきゃいけないんだろ?」


彩「そういうことになるわね。聞いているのはそれだけ?」


新「ああ、多分こんな感じだな。詳しい説明とか無いに等しかったし」 


彩「そう…。じゃ、まず私がこの世界に来た経緯といくつか気がついたことを話していくわね」


新「おう」


彩「私がこの世界に来たきっかけはやはり、あなたと同じく木山よ。放課後突然眠気に襲われて、気づいたら夜の学校にいたわ」


新「俺と同じだな」


彩「ええ。そこでまたあなたと同じくこの世界から脱出するためには3つの鍵が必要だということを言われたわ。その時一つ目を貰ったのよ」


新「鍵を貰ったのか!?」


彩「鍵よ。この世界から出るために必要とされる鍵だから実質あと2つ集めればいいことになるわね」


新「最初に鍵を貰えるなんてすごいことじゃないか?脱出に大きく近づいたことになるもんな」


彩「そうなのだけれど、私は少なくともこの世界に3ヶ月はいるの。それなのに2つ目以降が全く見つからないのよ」


新「そんなに前から…見つからないってことは巧妙に隠されているのか」


彩「そうだろうと思って私は3ヶ月の間鍵探しに没頭していたわけなのだけれど、見つかってない。ということは別の可能性を考えるべきだと思ったのよ」


新「別の可能性というと?」


彩「何か条件を満たすこと…かと思ったのだけれど、如何せん、この世界は毎日が同じだから何をすればいいのかわからなくて途方にくれていたの。そこに新しくここに捕らわれたっていう人が現れたのね。これで何か変化が起きてくれれば良いのだけれどね」


新「なるほど。この世界は完全に閉じた世界じゃなくて一方通行とは言え、どこかに出入り口みたいなものがあるんだな。そこを一方通行でなくするために必要なのがその鍵なのか」


彩「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。私たちの記憶が改竄されていて同時に来た後出入り口が閉じられたら可能性もあるし。参考程度に聞くけどあなた、ここに来て何日目?」


新「え?ああ、昨日…いや、一昨日からだから3日目になるかな」


彩「一昨日か…。私の方で特に変わったと感じたことは無かったわね。あなたのほうで何か変わったことは?」


新「変わったと感じられるほどこの世界にいないしな。あ、でも昨日の夜女の子に会った、というかぶつかったぞ」


彩「夜に学校にいたということは私たちと同じ立場なのかしらね。その子に見覚えは?」


新「無かった…と思う。でも暗かったし一瞬だったから、残念ながらあまり顔は覚えてない」


彩「まあ、私たち以外にもこの世界に来た人がいるということがわかっただけでも大きな収穫よ」


新「そうだな。ところで彩の気づいたことって何?」


彩「気づいたというか3ヶ月の間に起こった現象や、調べてるうちに疑問を覚えた程度のことなのだけれどね」


新「参考程度に聞かせてくれよ」


彩「キリン並みの知能しか持たないあなたに参考にするという高尚な行為ができるのかしら?」


新「その話は終わっただろ!キリン並みの知能って馬鹿なのか利口なのかよくわからねぇよ!」


彩「キリンに対して馬鹿という言葉を使っている時点でお察しね」


新「それは変換ミスだ。揚げ足をとるな」


彩「参考程度に話すわ。まず1日の過ぎ方について。朝8時からスタートして、放課後意識を失い気がついたら夜の9時になる、というのがこの世界の基本的な時間の進み方ね」


新「たしかに俺もそんな感じだった」 


彩「ただしごく稀に例外が発生するのよ」


新「どんなときに?」


彩「この世界に何か変化が起きたときよ」


新「お前さっき特に変わったことは無かったって言ってなかったっけか?」

 

彩「自分が感知できない所で変化が起こってたって気づけるわけないじゃない」


新「あ…」  


彩「あなたが来たという三日前、そのときにはまだそのサイクルが機能していたからあなたが来たのは正確には2日前、ということになるわ」   


新「あくまでお前の仮説が正しかった場合は、だろ」 


彩「そうね。あともう一つ、夜に学校の敷地から出ようとすると意識が朦朧として気を失って翌朝の8時になるわ。日がでている内に出ようとすると夜の9時になるわね。」


新「あー、それは俺も体験した。でも、そのときお前はどうなるんだ?」  


彩「多分同時に意識を失って翌朝8時に跳んだわ。そのときは何が起こってるのかさっぱりだったけれど、あなたの話を聞いて納得がいったわ」


新「階段とかじゃなくてよかったな。そんなとこで意識失ったら大きな怪我をしてしまうもんな」

 

彩「怪我については心配しなくてもいいと思うわよ?どうせ翌朝になると全部リセットされるから」


新「そうなのか。便利だな、死んでもリセットされるなら実質不死身じゃねえか」  


彩「それは同時にこの世界からは死んでも逃れられないという冷たい現実をも指し示しているのだけれどね…」


新「全部って具体的に何がリセットされるんだ?その1日が丸ごと無かったことになって同じ1日が始まるってことか?」 


彩「そういうことよ」


新「全く同じ毎日を過ごすってのもなかなかきついよな…」


彩「そうね、私なんて購買に売っている品物を全て覚えてしまったわ」


新「独りで3ヶ月も同じ毎日を過ごしてたらそうもなるよな…。そう考えるとそんな生活を強いられていたのに正気を保っていられたなんてすごいな」  


彩「最初は楽しかったのだけれどね。何が起きるかあらかじめわかっているわけだからその日の失敗は全部無くすことができた。でも、それもだんだん虚しくなってきて、最近はずっとこの部屋で寝ているだけだったわ」


新「ニートってこうして生まれるんだなぁ」


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