息をする
私の体調を気遣ってくれてか、早々に二人は退室した。
明日また、話しの場を設けてくれるそうだ。私が落ち着いたら王との謁見もあるそう。
いろいろとお世話をしてくれるマリーさんが知らせてくれた。彼女は部屋付きの侍女だそうだ。
部屋で食事をとった後、お礼を言って下がってもらった。
私は何者なのだろうか。ここに来るまでの経緯はおろか、自分のことが全く思い出せない。湯浴みのときに左腕につかまれた後のような赤あざを見つけてびっくりしたくらいだ。これは、誰の手の痕なのだろう?
その人物が私を空から落としたのだろうか。思わず身震いしてしまう。
そういえば、精霊はまだここにいてくれるのかしら。
目を閉じて、身体の力を抜いてみた。
やさしい風は未だ吹いている。穏やかな温かい心地になる。
ありがとう。そばにいてくれて。
安心できること、とてもうれしいよ。
できたら、姿が見たいな。
声を聞いて、抱きしめて。
一人じゃないって感じられたら寂しくないのに。
そう思いながら、いつしか眠りについていた。
気がつくと、どこまでも続く真っ白な場所に立っていた。
私をなでるようにやさしい風が吹いている。
目を閉じると銀色の長いしっぽが頬をなでている、そんな風景が思い浮かんだ。
途端、風は色をまといはじめ、姿をかたちどりだす。
目を開けると頬に感じる風はそのままに、銀色に輝く毛をなびかせて小さなオオカミが私の周りを飛び回っていた。
追いかけて捕まえて、柔らかなおなかに顔をうずめると、朝の新鮮な空気のにおいがした。
ぬくもりが愛しい。
オオカミがくすぐったそうにからだをひねり、頬をなめる。
思わず笑い声がこぼれてしまう。
「ねえ、私とお友達になってくれない?」
オオカミは何を言われたのかわからないというようにきょとんとした後、うれしそうな目。ちぎれそうなほど尾をふった。
「仲良くしてね。銀ちゃん。」
勝手に名前を付けちゃった。
おそるおそる顔をのぞく。
いつの間にか銀色の髪の小さな男の子がいた。
目が合うとうれしそうな顔をして、私にぎゅっとしがみつく。
「ぼくはぎんちゃんなの?」
「君じゃなくてね、小さなオオカミさんにつけたんだけど、いなくなっちゃった。勝手に名前呼んだのが嫌だったのかな?」
「ちがう! ちがうよ。とってもうれしいの。ぼくになをつけてくれた。ともだちにしてくれた。」
男の子はくるんと回るように跳ねると、あの小さなオオカミになってまた私のまわりを飛び回る。私もうれしくて追いかけて一緒に走りまわり、声を上げて笑った。
こころがほっこりする。身体の力がぬけて、やっと息ができたような気がした。