大人になるために
「未来、ちょっといいかな。」
「なに?ユウ。」
「あのね。逢未のことなんだけど。なんだかだんだんやせてきてる気がするの。」
「・・・。」
「狩りに行ってるから、部屋ではご飯食べてないよね。あの、狩りはうまくいってるのかな?」
「一緒に行ってる訳じゃないからわからない。」
「え?1人で行っているの?」
「うん。ちゃんと独り立ちしたいから、狩りも1人でするって言って聞かないんだ。はじめは後からついていったんだけど、狩りの邪魔だって追い返されて。」
「逢未、目が見えないのに狩りを1人でなんて。」
「でも、あいつの言うこともわかるんだ。大人になったら1人で生きていくのは当たり前だ。狩りだって1人で出来なくちゃいけない。俺だって10回追いかけて1回捕まえられたら良い方なんだ。逢未だって、うまくいかない日だってあるよ。誰だって今日獲物にありつけるかはわからない。今日だめでも明日でかい獲物をしとめられることだってあるんだ。心配いらないよ。」
「うん。だけど・・・。」
「逢未には聞かないであげて。心配されてるってわかったら傷つく。」
「わかった。」
獣が大人になるってことは1人で生きていく力を持つことなんだ。
誰の力も借りずに生きていかなくちゃいけない。
なんて辛くて厳しいんだろう。
私は高校を卒業してもいつまでも教会でみんなと一緒に暮らしていけたらってずっと願っていた。遠くに行く拓を引き止めようとさえしていた。
1人で生きていけないから。みんなに甘えてたんだ。
生まれてまだ季節を2つ過ぎただけの未来や逢未がもう大人になろうとしている。
今、私はお母さんだから。
子どもが大人になるのを応援しなくちゃいけない。
親って苦しいんだね。
お腹をすかせている子に黙って気付かないふりしていなくちゃいけないなんて。
まだいいよって言ってあげたい。
ちゃんと食べさせてあげたい。
急いで大人にならなくてもゆっくりでいいじゃないって叫びたくなる。
逢未のため。
逢未のため。
眠った逢未のぱさぱさになった身体を何度もなでながら毎日を祈るように過ごしていた。
食べきれないほど料理を用意して、もったいないから手伝ってと言って無理矢理食べさせたりもした。
聡い逢未は何も言わずに私のわがままに付き合ってくれた。
だけど、毎日はさすがに出来なくて。
未来と話してから何日過ぎたのだろう。
ある日、朝まで待っても逢未が帰って来なかった。
「ユウ、どこ行くの?」
「未来。逢未を探しにいくに決まっているじゃない。」
「だめだよ。今日は風雪がひどくて誰も外には出られない。」
「じゃあ、なおさら探しにいかなきゃ。きっと雪に埋もれて震えてる!!」
「無理だ!逢未はもう帰って来ない。」
「っ!!」
「逢未だって、探しになんて来て欲しくない!」
「そんなこと無い!絶対、ここに帰って来たいに決まってるじゃない!早くいかなきゃ。凍えて死んじゃう!!」
「もう、間に合わない。だって、」
「なに?どうしてそんなこと言えるの?」
「・・・。」
「未来!!」
「だって、言ったんだ。昨日出て行く前に。ユウのことお願いって。」
「やだ!やだよ!逢未!死んじゃやだ!!」
「ユウ!落ち着いて!」
「やだよ、逢未っ。ふえええん!!」
「・・・。ユウ。」
「ふっ、ひっく、銀ちゃん。っく。銀ちゃん、お願い!!逢未のところに行きたいの。お願い!連れて行って!!」
逢未
逢未
すぐ行くから
絶対見つけるから
死なないで
死なないで
強い力に身体ごと引っ張られたと思った瞬間に真っ白な場所にいた。
寒さもにおいも感じない。
ただただ白い。
音もない場所に。




