もう一つの獣の国
俺の話を聞いてくれてありがとう。
俺はここから太陽が沈む方向に山10程越えたあたりから来た。
カモウ国と言う。
俺のように変化できる者も多い獣の国で、本能に従うより人間達に近い生活をし、人の国と交易もしていた。
ここ数年の異常気象で作物の収穫が減り、家畜も育たなくなったんだ。それでも、周りの山に入ればいくらかの食べ物は手に入ったんだが、それもだんだん少なくなった。
人間に化けて国を出て行く者が増えて、今まで出来ていたことが難しくなり、交易も途絶えた。生活はさらに切迫してきている。
俺は旅が好きで時々国を出て外を見て回ることがあるんだが、随分前に会ったカラスにこの国のことを聞いたのを思い出したんだ。
本来の生き方をしている獣の国だと。自然とともに生き、たくましくやさしい仲間たちだと言っていた。
それなら、同じ獣同士助けてくれるんじゃないかと思った。
確かに半年程前から天候が良くなり、畑の作物も育ち出したし家畜も元気になった。
だけど、とれた作物だけでは冬を越すには足りないんだ。
いつもならその分交易で食べ物を手に入れるんだが、変化出来ない者には細かい作業はできない。
国に残った者達は不安な毎日を過ごしている。
どうか、助けてほしい。
アシュはネズミに戻るとぺこりと頭を下げた。
「では、具体的な様子を詳しく教えてください。その後、皆で検討しましょう。」
宰相が冷静な声を出すと、皆何も言えないような顔をした。アシュを連れて出て行く。皆もそれぞれくつろいだり、部屋から出て行ったり。
私をこの国に誘ってくれたやさしい皆なら一つ返事ですぐに助けると思っていた。
そんな簡単なことじゃないんだ。
それでも、知らなかったときには戻れない。
私に出来ることをしよう。
部屋を飛び出すと、ジークが立っていた。




