友として
王子もマルクにも特別なことは出来ず、皆と同じ食べ物をふるまう。畑でとれた山菜とお芋の料理。
今日はみんな狩りにいけなかったから、干していたお肉をつかったスープ。これでも、来た頃に比べたらごちそうだ。王子は食事はいらないと言って部屋にこもっている。
マルクは給仕を手伝いながらすっかり獣に打ち解けていた。
「おお、うまいな、この芋。なんていう芋なんだ?」
「さあ、山から採ってきたものを畑で増やしたものだ」
「へえ、山の芋ねえ。畑見たけど俺の知らない作物ばっかりだったな。うまいからか?」
「いや、この国にはそもそも畑など無かったのだ。食べ物を増やすためにユウが考えた。畑の物は、山や森で食べていた物を植えてみて、育ったものだ。」
「ええ?畑無かったのか。そりゃあ、大変だったな。」
「マルク、わかるの?」
「ああ、わかるさ。俺の村は山に囲まれてほとんど畑にならない。木を切って売ったり、炭や木工品つくって売ったりして、もらったお金で米や小麦を買う。採る物が無くなったらどうにもならねえ。広い畑が作れりゃ、いつでもお腹いっぱい飯が食べられるよな。」
「マルク。この国も山がいっぱいで木はたくさんあるの。冬に備えて薪を作ってもらってるんだけど、他にも役に立つもの作れるかなあ?」
「薪?良い薪は木を切ってから2年は乾燥させるんだ。燃えないことはないけど、少しでも良い薪にしたいなら細かく割った方がいいな。」
「そうなんだ。ありがとう。さすが専門家だね。教えてくれて助かるわ。早速明日、皆にお願いしなくちゃ。」
「俺、一緒にやっても良いか?なにもすることないし、役に立てることがあるかもしれない。」
「うれしい!お願いします。皆もきっと喜ぶよ。」
「へへっ。」
軽食を持って王子の部屋を訪ねる。
ちゃんと向き合って話をしようと決めていた。
トントン
「王子、私です。」
「みつっ、ユウ様。お入りください」
「おじゃまします。」
「私をユウと呼んでくださってありがとうございます。」
「いいえ。」
・・・。
「考えていたのです。御使い様と呼ばれた貴方がいつも見せていた表情。ご尊顔がいつも曇っていたことを。
私は貴方の心のうちをもっと考えるべきでした。知るべきでした。
貴方は優しい方です。貴方は私たちの望むまま、御使い様として居てくださった。私たちが神の御使いという存在に勇気づけられ、生きる希望を与えてもらっていたのを知っていたからです。
貴方は私たちの都合のいいままに城に留め置かれ、さらに国はずれに移されて。それでもただ従ってくださった。
私たちは、いいえ私は、貴方自信を認めていなかったのですね。貴方に名前があり、意思があり、感情があることを見ようとせず、貴方を苦しめてしまっていたのですね。」
「ユウ様。どうか、償わさせてください。私はもう、王子ではありません。国のために生きていたジークフリートは消えました。
私は私の心のままに生きることができます。ただのジークをおそばにおいてくださいませんか。どうか、どうか。」
うつむくジークの表情は見えない。
「じゃあ、ジーク。私の友達になってくれませんか?
貴方が貴方のやりたいことをやり、心のままに生きることを私は応援します。だから貴方も私を友として、ユウとして生きることを応援してくれませんか。」
「はい。ユウ様。ありがとうございます。」
正面から目を合わせる。
深い澄んだ湖に涙がにじんでいた。
さっきまでくすんでいた金色の髪が輝いているみたい。
まっすぐな人。
この人も王子という存在として生きてきた。生まれたときから国を背負う重圧に耐え、ふさわしくあろうと努力してきた人。
今は私と同じ。1人の人間として生きていく。
「あああ。このあふれる歓喜をなんとあらわしたら良いか・・・感謝します!ああ、母上。神よ。あああ。」
祈るように目を閉じ涙を流すジーク。
あれ?
なんだかちょっと、様子がね。
テーブルに食事をのせると、そうっと部屋を出た。
しばらくそうっとしておこう。




