ただのユウ
「御使い様!ああ、お会いしとうございました。お体に怪我などはございませぬか?獣に無体などされておられませぬか?ジークがおそばに参りましたからにはもう、憂うことはありません。どうか、もっと良く拝顔させてください。ああ、御使い様!」
本来なら涙がにじむ顔を見られるなど、恥以外のなにものでもない。だが心がうち震え、歓喜の涙があふれるのを止めることが出来ない。
そばに駆け寄る。
柔らかな手に今一度誓いの口づけを。
のばした手は御使い様に届く前に白い狼に阻まれた。
「ユウは御使い様じゃない!ユウはユウだ!お前達は本当の御使い様を見つけにいけよ!」
「未来!」
御使い様は白い狼を愛おしそうになでると、私をまっすぐに見つめる。
「王子。私は御使いではありません。この国のユウです。どうか、国にお帰りください。」
あまりの衝撃に言葉がでない。
ただ、御使い様と見つめ合う。
衝撃を受けている私のとなりから、のんきな声が聞こえた。
「ユウっていうのか。名前、やっと教えてもらえたな。」
「マルク。久しぶり。そうね、貴方は私の名前を尋ねようとしてくれたね。ふふっ。ユウです。」
「元気そうで良かったよ。いなくなったって聞いて心配してたんだ。母ちゃんが元気になって、お礼を言おうと城を尋ねたら北の神殿にいるって聞いて、神殿まで会いにいこうとしたら、今度はいなくなったっていうし。母ちゃんや村の皆も心配してるから、代表して俺が探しにきたんだよ。途中で王子さんまで拾っちまった。」
「拾ったって、ふふふっ。マルク、ありがとう。」
「はあ?俺がお礼を言うんだって。ありがとう。日光浴で母ちゃん良くなって、皆にも教えてやったらどんどん広まって。 俺の村じゃ、元気な人もみんな日光浴してるぞ。」
「おい!御使い様にそんな口をきくなど!無礼だろう!」
「王子、やめてください。私は御使い様じゃないんです。皆と同じ人間です。」
「そんなっ、御使い様。私は」
ガブッ。
「!!!」
「未来!やめなさい!」
「未来!」
「ユウはユウだって言ってるだろう!御使いって言ったら噛みつくぞ!』
もう、噛んでるし・・・。
「お疲れでしょう。部屋にご案内しましょう。何もありませんが、ゆっくりおくつろぎください。」
「いや、私は・・・。」
放心した王子をうながす。
王子がうなだれて退室すると、視線はマルクに集まった。
「まあ、なんだ。しばらくしたら落ち着くんじゃないか?」
「うん。」
「ところでマルク様はこれでご用件はお済みですか?」
「ああ、ユウにも会えたし、お礼も言えたし。いやがるユウを無理矢理ここに留めているようにも見えないし、皆に教えたら安心するだろう。」
「それなのですが、ユウのことは他言しないでほしいのです。」
「私からもお願いします。私は他の国の人たちが望む御使いじゃない。ただの人間なの。この国で一生懸命に生きる皆と共にいたい。お願いです。私は見つからなかったと伝えてくれませんか?」
「うーん。困ったな。みんな心配してるんだ。安心させてやりたいんだけど。」
話し合いはいったんお開きにして、日を改めることにした。
マルクと王子はしばらく城に滞在してもらうことになった。




