来訪者
「お初にお目にかかります。私ヨルジャン国、ジークフリートと申します。こちらはマルク。神の御使い様を探しております。こちらにおられる御使い様にお目通りを願いたい。」
「ヨルジャン国第一王子のジークフリート殿下とお見受けします。先触れの使者も無く、従者一人だけで、単身での訪れとはいささか酔狂が過ぎるのでは。」
「第一王子の役目は捨てました。ここにいるのはただのジーク。御使い様に全身全霊で仕えると誓ったいち信者です。隣にいるのは従者ではなく同行者のマルクです。」
「なんと!」
「まことか?」
「静かに!では、御使い様を探し出してどうされるおつもりで?」
「はい。御使い様の望むまま従い尽くす所存。」
「ほう。」
「では、御使い様がいないと言ったらすぐに旅立つので?」
「ここいるのはわかってるんだ。風がそう言ってる。おれ、私は御使い様にあった日から風の声が聞こえるようになったんだ。それに、城の外にでたら誰でもわかる。あの子が通ったあとは、草花が咲き乱れて木々が茂る。険しい山をいくつも越えた厳しい気候のこの国が春の陽気に包まれている、それが証拠だ。」
「なるほど。かくし通せるものではないらしい。」
「だが、残念だったな。神の御使い様はもういない。」
「なんだと!」
「まあ、落ち着きなさい。本人と話せばわかること。貴殿が自分の目で確かめるが良い。」
「ユウをここに。」
ユウモウ国。
王族の知識として国の存在は知っていたが、まさか言葉を操る獣の国だったとは。
御使い様が現れてから私の世界は今までとは比べられないほどに広がった。
国を旅立って早1か月。ここにたどり着くまで長かった。
渋々出かけた公務から帰れば御使い様が北の神殿に旅立たれたという。
すぐに後とを追わなくては!
旅支度も出来ないまま私は城に軟禁された。
次代の王としての自覚を持て?話の通じぬヤツらには何も言ってもとことんだめらしい。
王位など望まぬ。
優秀な弟達が立派に繋いでくれるだろう。
食事を絶ち、固い意志を貫く。
王に謁見を許されたのは軟禁4日目のことだった。
そこで、さらに思いがけない話を聞く。
晴天が続いていた毎日が嘘のように元に戻ってしまったという。
御使い様への仕打ちに神が怒り神の国に帰されてしまったと、国民の嘆きが城まで聞こえてくるようだ。
神官達は御使い様の道跡を辿り、神殿で祈りを捧げるといって教会から出て行ってしまった。
御使い様が行方不明になったらしい。足取りもわからないという。
いてもたってもいられず、廃嫡を願いでる。国を捨てる覚悟もできている。
王は静かに私を見つめ「許す」と。
王が何を考えていたのか、私にはわからない。
ただ、許されたことに歓喜し、すぐに旅立ったから。
御使い様。
すぐにおそばに参ります。
城を飛び出した私はとりあえず御使い様が向かったという北の神殿を目指した。 道行きでマルクと再会する。
そして、風の導きのままさらに北を目指していたところ、大きな躯をもつ獣に遭遇し、国へ案内されたのだった。
暖かな気候と繁る作物。
城に続く道は花と緑にあふれ、御使い様の気配に胸が熱くなる。
早く、早くお会いしたい。
麗しくも尊大なる御使い様。おそばに、はやくおそばに。
はやる気持ちを抑え城の中で獣と相対する。
御使い様がいないという。
そんなはずがない。
御使い様は私のすべてだ。生きる糧だ!
その御使い様を私から遠ざけるというのであれば、死ぬ覚悟も辞さない。
凶悪な気持ちがあふれそうになる私の前に1人の少女が現れた。




