国づくり
獣達の国をなんとかするためにやらなくてはいけないことも、考えなくてはいけないこともいっぱいある。
時間の余裕はない。
厳しい冬がくる。誰一人死なせずに冬を乗り切る。
命より大事なものは無いから。
獣だけあって冬はひたすら耐えて春を待つらしい。
冬前にしっかりと栄養を蓄えて。
だから、ここ数年は食べ物の確保ができず、さらに厳しい冬が長く続き、昔なら冬を越せたはずの者まで命を落としていた。
食べ物。通常、森や山で魚や野生動物(獣とちがう知能の低い私の知っている野生の動物のことのよう)を狩る、木の実や山菜を食べる。
獲物がとれないのは力が無いから。力のない弱い者は淘汰される。
今までずっとそれでやってこれたって言うからびっくりだった。
まずは食べ物を確保する。国の運営は長い冬に話し合う。あとまわし。
狩りはそのままに、畑をつくり、冬までに食料を増やすことにする。
野生の芋や山菜を全部食べずに畑で増やす。弱い人間のマネなどなんて言われても必要だからと押し通した。食べられる物はなんでも育てて見ることにした。
土を掘り返し、肥料になりそうなものを混ぜ込む力仕事は力自慢達にお願いした。その後は、ひたすら木を切り、薪を作ってもらう。
芋や山菜をお世話したり収穫するのは小さな者や力の弱い者にも出来る。収穫物は一度国に全部集め、みんなに分配。もちろん、冬の間の食料もできるだけ確保する。
幸い、天候もよく、木々の実もたくさん実り、にわか作りにしては畑の作物もすくすくと育っている。
精霊達がいるおかげは大きい。でも、これは好意だから。いつまでも甘えられるとは限らない。
自分達の力で生きていけるように、少しでも出来ることを増やさなくては。
体が弱ったり大きな怪我をすると、若者に食料を譲るため誰にも知られず姿を消すという風習も国からのおふれで絶対にやめるようにしてもらった。いらない命なんてない!どんな命も最後を迎えるそのときまで精一杯幸せに生きてほしい。
すべての獣を畑仕事にかりだし、手が必要だと訴えた。実際、猫の手も借りたいくらいやらなくてはいけないことが山積みなのだから。この国の猫の手。ちゃんと役に立ってくれているよ。
保育園を畑の真ん中に作り、(いすやテーブルを並べただけ。建物も無い)子ども達のお世話も手伝ってもらったし、子ども達にも出来る仕事は手伝ってもらった。
仕事に疲れるといつの間にか茂った草花に癒され、果物をかじり、澄んだ泉に喉を潤わし、さわやかな風に火照った体をさましてもらう。
国王も文官も騎士も子どももみんなで仕事をする。
肉食中心の獣にも負担にならないだけの雑食を食べてもらう。
多分、充分な食事はずっと出来ていなかったのだろう。
お芋に木の実を混ぜ込んで作ったお団子もどきでもみんな美味しいと言って食べてくれた。
未熟な子ども達や体の弱った者たちには火を通した食べ物を。
どこからか銀ちゃんが連れてきた野生のヤギからもらう乳は栄養があって、順番にみんなに飲んでもらった。ヤギが草をたくさん食べてまるまる太ってくると乳の出も良くなり、乳を飲む回数が増える。よだれを垂らして丸かじりしたがった獣達も、だんだん家畜の良さをわかってくれたようだ。
少しずつ皆の毛艶がよくなる。
血行促進と病原虫対策にブラッシングもしてもらう。温泉がみつかると、ますます良い感じになった。体を温めることも、汚れを落とすことも、疲れを取ることも、みんなに喜んでもらえた。
食べ物に飢えなくなると笑い声が聞こえるようになった。
朝から働いて、夢も見ないで眠る。
私の小さな手でも出来ることがある。
私はここで生きている。
皆と食べるおいもは素朴だけど甘くてちょっぴり涙の味がした。
そんなある日。
「山を越えて国境に入ろうとしている者がいます!」
畑仕事をしている私たちのもとに、鷹 颯さんが降りたった。
「人間の雄2個体。1個は腰に剣を装備。如何致しましょう」
「他に兵が見当たらなければ、使者かまたは間諜か。捕らえて目的を吐かせましょうか」
「使者の可能性もあるうちは手荒なことはしないように、丁重におつれせよ」
子ども達が不安そうに身を寄せる。大丈夫だと励ましながら、私も不安になる。
神の御使いを引き渡せと言われたら。
やっと笑顔が戻ったこの国の人達が傷つけられたらどうしよう。
畑仕事は中断し、みんなで城に向かう。子ども達もひと部屋にあつめ、待機。
山仕事をしている騎士達も呼び戻された。
みんなの緊張に包まれた中、狼と雪ヒョウに案内された2人が城にやってきた。
鷹 颯 たか はやて




