はじまり2
神様、どうかお願いいたします。
母の病気をお治しください。村の人々が安心して森に入れますようにお守りください。
そして、世界中の人々が幸せでありますように。
「母ちゃん、おはよう。今日は顔色がいいね。きっと病気は良くなってきてるから、しっかり養生しててね。」
「おはよう、マルク。そうだね。今朝は調子がいいみたい。」
マルクの一日は神への祈りで始まる。そして、原因不明の病気ですっかり弱ってしまった母を元気づけ、仕事に出かけるのだ。
国はずれのこの村は、豊かな森が近く、主に林業を生業にしていたが、獣が出没するようになってからめっきり仕事にならなくなってしまい、村を離れる人々が出始めていた。
マルクも獣にあわないことを神に祈りながら森の入り口近くの木を仲間と切り倒し、細々とした生活を続けていたのだった。
「マルク」
「ヨハン、おはよう。あれ、ほかの人たちは?」
「今日の仕事は中止だって。近々獣退治をするらしい。大人たちは村長んちに集まってその相談だってさ。」
「獣退治したらまた、前みたいに仕事ができるね。よかった。」
「なにのんきなこといってるんだ!そんなの無理に決まってるじゃないか!たとえどんなに強い騎士たちが集まったって、倒せるもんか!」
「そうかなあ。」
一人では森に入ることはできない。仕方なく家に帰ることにした。
帰って昨日とったヤマブドウの蔓でかごをつくろう。でも、せっかく森近くまできたのだから母ちゃんにお花つんでいこうっと。
森の入り口の広場はいろいろな色の野の花が咲き競っていた。
片手につかめるだけ花を摘んだマルクは帰ろうと腰を上げた。
ふと空を仰ぐ。あたりが明るくなったからだ。どんよりした空の雲の切れ間から一筋の光が差し込んでいた。
確かこういうのって天使の御渡りっていうんだっけ?
お天道さんの光、ずいぶん久しぶり。まぶしいなあ。見慣れた景色が輝いて見える。
それにあったかい。
神様!ありがとうございます。今日は本当に良い日になりそうです。
しばらく空に向かって祈りを捧げた。
あれ?光の中に何かがいる。白い鳥かな?だんだんおりてくるような・・・。
!
人だ!
大変だ!このままじゃ。落ちて怪我しちゃうよ。
花を持っていたこともすっかり忘れておろおろしていたが光の射すままにおりてくるのに気付き、その真下で手を広げて衝撃を覚悟する。
羽が舞うようにゆっくりおりてきた人は少女のようだった。白いワンピースのような服を着ている。マルクの腕までおりてきた身体は彼の腕にほんのちょっと触るとふんわりと浮かび、ふたたびゆっくりと腕に降りた。
落ちてきた衝撃も感じられず、目を真ん丸させて硬直しているマルクの腕に真綿のような柔らかい身体が収まってもまるで何も重さを感じない。光があたり、キラキラ輝いている。
やっと我に返ったマルクは少女をかかえたままその場をうろうろと歩き回った。
どうしよう。どうしたらいいんだ。
そこへ、たくさんのひずめの音が響いてきた。