自然淘汰
獣の国、ユウモウ国は世界でも最北の国。
自然の恩恵にすがり生きる、強きものが次代の種を繋ぐ国。ありのままの自然を受け入れて生きていた。
だが、気候の変化で寒さが厳しくなると、人口が激減。とくに、成獣するまでの子どもの生存率が10に1つ残れば良いというまでに。
争いも増え、食べ物を求めて人間の国まで流れて行っている者も多かったという。
身体の小さな者ほど弱りが早く、命を落としたり、えさを探して無理をして怪我を負ったり。ますます仲間は減るばかり。
獣達はそんな自国の未来を憂いていた。それでも、あるがままを受け入れようと覚悟を決めていた。そこに、山を越えた隣の国に神の御使いが降り立ったという情報が入ってきた。
青空が広がりだし、天候が安定し出した。
すべての生き物が歓喜の声を上げていた。
暖かな光はそれだけで生きる希望を運んでくれた。
流れていた仲間も戻り出した。
なのに、恩恵に感謝しているはずの人々がその御使い様を城に閉じ込めているという。挙げ句の果てに国はずれに追いやるという。
この恩恵を与えてくれている御使い様への所行に腹を立てない者はいなかった。
酷い扱いを受ける御使い様を我が国で保護しようと言う声があがるのは当然だった。
御使い様に無理矢理ではなく、納得して我が国に来ていただく。
もし、否と言われたら元の国に帰す。全員一致で可決した。
この国に御使い様を害するものなど1人もいない。
自由に過ごしていただこう。それがいい。
きっと喜んでくださる。
その後、国の問題に参加してもらおうということになった。御使い様の力をあてにしてのことではない。
共に生きる仲間になるために。
喜びを分かち合う友として。
迎えに行きたがる者はたくさんいた。そのなかで、選ばれたのは未。
夏に生まれた未熟児のため一番命の短い者。
未の願いを叶えることにした。
未熟の未。未だの未。そんなはかない名前のあの子。
私は今、確かに、生きているあの子を絶対に死なせたくない。
「御使い様、あんた、名はなんていうんだ?」
ライオン国王が言葉を発した途端、また頭の中にたくさんの映像が溢れ出した。
あの人たちは。あの場所は。
流れていく、たくさんの場面。
これは。
無くしたと思っていた。
戻らないと思っていた。
私の記憶。
後から後からあふれて、気が遠くなる。
ああ、私は。
「ゆう!」
あの日、私の腕をつかんで必死に呼んでくれた人がいた。