獣の国
「ユウ、ボク、おいも大好き。」
「ふふっ。たくさん食べて良い子ね、未来。でも、喉に詰まったら苦しいからゆっくり食べてね。」
「うん、ボク、ゆっくり食べるよ。」
ここは、未成熟な子ども達の保育園。私がここに来て、最初に始めたこと。
あの日、神の御使いとして北の神殿に向かう途中、森の中でこの子に出会った。
暗闇から聞こえた。
私を呼ぶ声。
声にたどり着くと、目も開いていない生まれたばかりの狼が小さな身体を震わせてか細い声で鳴いていた。
走り近寄って思わず抱き上げると、小さな声で言葉を発した。
「ボクの命を助けてください。誰にも告げずに、そのかごに入って。」
そばに大きなかごが落ちていた。迷わずかごに入る。私1人がちょうど入る深いかご。しゃがんだら隠れてしまうほど。
すぐにかごは空に引っ張り上げられた。
見上げるとおおきなフクロウが一羽、紐をくくりつけて飛んでいる。
高さが怖くてしゃがみ込む。
銀ちゃんが飛んできた。
「そら、こわい?」
「ううん、だいじょうぶ。銀ちゃんも空飛べるの?」
「うん、そら、ひろい。どこまでも。すき」
私が落ち着くと、銀ちゃんは空を駆け回りだす。
腕の中の子はじっとして声もあげない。お腹に抱え込む。高い体温とトクトクという心臓の音が生きていることを教えてくれる。震えていない。
大丈夫。
良かった。
安心したら、眠くなってしまった。
まぶしい・・・。
目を覚ますと、落ち着いた木目の天井。どうやらベッドに寝ていたようだ。木のにおいのする部屋。窓にカーテンは無い。
両脇にぬくもり。
あれ?銀ちゃん?2人? ・・・。あ、あの子だ。
そうっと触れる。
温かい。上下するお腹がかわいらしい。
そうっとなでる。つやのない灰色の毛並み。
ごわごわして、汚れている。
生まれてから誰も毛繕いをしてくれなかったの?
「こちらにどうぞ。」
「!」
びっくりした。気がつかなかった。
白い猫がベッドの脇に座っていた。
2人をそのままに、そうっと抜け出す。
「ぼくも、いく」
銀ちゃんがついてきた。
大きな広間。
ライオン、虎、狼、熊、狐、犬、多分私を運んできたあのフクロウも。たくさんの動物が輪になって床にしゃがんでいた。どの動物も人の倍以上の大きさがありそうだ。みんなお年寄りなのかな。毛艶が悪く、やせ気味で元気がなさそう。
私はその真ん中に案内される。いすに座るよう促すと猫は扉のそばに座った。
「神の御使い様。ようこそ、我が国へ。私はこの国の宰相をつとめます、北狐 賢と申します。どうぞ、おみしりおきを。そして、中央におられますお方が我が国の第68代目国王、ライオン 勇でございます。」
身体の大きな獣に取り囲まれ、普通なら命の危機を感じる場面なのに、私はなんだかおかしくなってしまい、失礼にならないように下を向いた。
きたきつね けん と らいおん いさみ って。
名は体を表すって言うけど、そのままじゃない!!
笑っちゃいけない!我慢だ!
後から教えてもらったところによると、子どもが生まれたときに名前が自然と浮かぶんだそうだ。名前を聞いたらどんな動物かいっぱつでわかっちゃうよね。ぷぷぷっ。
「御使い様。あんたのおかげでこの国にも希望が見えてきた。感謝している。
このようなかたちであんたを連れてきたことはほめられることじゃないのはわかっている。だが、あんたにはもっと自由になってほしかったんだ。あんたにも幸せになってほしい。これは俺たち皆の願いだ。
この国に住まないか?あんたの力を借りたい。」
ライオン国王が頭を下げると、周りの動物達もそれに倣った。
実は動物描写を褒めたもらったのがうれしくて、ここからちょこちょこ表記を増やしています。
動物の温かさや柔らかさがうまく表現出来るように、頑張ります。