少女
異変に気付いたのは女神官だった。
急に気温が下がったという。
そういえば肌寒い。
北は高地でもあるため気温が低い。暖装備を持ってきたのに、今まで夜でも暖かかったため、忘れていたな。
少女は寝る前に花を摘みに行った。森の中まして夜に、1人離れるなど腕に自信のある俺たちでもしない。
だが、あの少女は精霊に守られている。
どんなに強い獣でもたとえ暗殺者が大勢でおそったとしても、傷一つつけられないだろう。
だが、少女は帰ってこない。
俺たちは周りを探して回った。暗い森はますます暗く、何の音もしない。
手に持った松明を無くしてしまえば真っ暗な森の暗闇に溶けてしまいそうな。自分の想像に身震いする。
少女を見つけられないまま、野営の場所にもどった。
神官2人が話し合っている。
仲間達がもどってきた。
音も風もにおいさえもない。大地から切り離された真っ暗な空間にかろうじて収まっている俺たち。
この薪が燃え尽きたら、暗闇に閉じ込められて明けない夜をさまよう。
寒さがさらに厳しくなった。
みんな黙って火のそばに集まった。どんどん、薪を放り込む。
怖い想像にとらわれるのは俺だけじゃないような気がした。
「精霊の気配を感じられなくなったということは、もう近くにはいらっしゃらないでしょう。夜が明けるのを待って、もう一度探すことにしましょう。明日はしっかり働いてもらいます。さっさと寝てくださいね。」
黙っていたら美人なのに女神官からきつい視線で命じられる。
俺たちの態度にいらだっているのはなんとなくわかっていた。あの少女を悲しませないように心を砕いていたから。このごろは和らいだと思っていたのに。
少女の前とは別人のようだ。
男神官もだ。
神官長補佐。かなり頭が回る人物だと聞いていた。それが会ってみれば話し好きな陽気なおっさんだった。少女の前では。
村に入る前に必ず様子をうかがわせ、泊まる宿の事前調査、安全確認まで、事細かに指示された。
少女に不用意に触ろうとした不埒どもには笑顔で足払い、肘打、食事もさりげなく毒味までさせていた。(させられている本人には気付かれずに)
少女のいない今、俺たちに取り繕う必要はないのだろうけど、俺、人間不信になりそう。
ありったけの防寒をして横になる。
精霊の恩恵はこんなにもありがたかったのか。
ふと、思う。
あの少女も、見えない精霊のようじゃないか。
気がつかない人にはわからない。
でも、気がついた人にはきっとわかる。
確かに、恵みを与えてくれている。
あの少女の優しい表情に明るい未来を確かに感じられた。
どんなものにもわけ隔てることの無い態度と言葉は俺みたいな人間にも愛を感じさせてくれる。
明日、あの子に会えたら、ありがとうって伝えよう。
明日、必ず見つけるから。
困った顔で笑ってくれよ。