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明日は  作者: 白い花びら
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失踪

  神の御使いは小さな花を掲げられてはにかむ、はかなげな少女だった。


 俺は貴族の3男に生まれ、なにを考えるでもなく騎士になった。

 剣の腕には自信があったし、敬愛するジークフリート様は他国にも誇れるすばらしいお方だ。殿下に仕えることは騎士の誉れ。

 その殿下が、お変わりになられたと、俺たちにあっという間に知れ渡った。

 なんでも、国を救ってくれた神の御使いさまに傾倒しているのだとか。

 御使いにひざまずいたのだの、部屋の前で一日中名前を呼んでいたのだの、喜んで犬になると言ったとか叫んだとか。そんなわけあるか!!誰もが自分の耳を疑ったはず。


 しみ一つなかった敬愛する殿下に醜聞をもたらした御使いに、俺たちは闇討ちすることを真剣に相談したほどだ。御使いの北送りに溜飲を下げたが。


 北の神殿は神官どもに言わせれば神に一番近い場所だとか、聖域であるとか。

 だが、俺たちにしたら左遷、島流し。王都へ出てくるのに2週間もかかる陸の孤島だ。

 国民達の手前、神の御使い様を城からただ追い出すわけにはにはいかないんだろう。お偉いがたの考えることはある意味エゲツない。見上げた心意気。さすが!


 往復1ヶ月のしかも関わりたくない人物の護衛の仕事は気が進まないが、これきりで煩わしかったことが解決すると思えば喜ぶべきだろう。

 俺たちはうなずき合った。



 初めて見る神の御使いは15、6歳だろうか小さな身体に困った笑顔をいつも浮かべて、頼りなさげな風貌の少女だった。黒髪に闇色の瞳は肥沃な大地を連想させた。

 精霊が周りに群がっているらしい。近くにいると清々しい新緑の森や水辺にいるようなさわやかな風を感じる。

 立ち寄る村々で、花々が咲き乱れ、木々や作物が実る。いくら忍んでの旅をしようとしても、あっという間に周りに知れ渡ってしまう。


 どこに行っても神の御使い様は人々に歓迎された。口々に感謝の言葉を浴びせられる少女は決まって困った顔をしていた。

 はしゃいだ子ども達が道ばたの草を摘んで少女に差し出したとき、周りの大人達があわてて子どもを諌める中、初めて心から嬉しそうに大事そうに受け取ってはにかんだ。

 殿下をたぶらかした悪女、怪しい技を使う魔女。

 どれも、あの小さな少女には当てはまらないのかもしれない。


 俺は普段使わない頭を使いまくって考えた。結局答えはわからなかったが。



 立ち寄れる最後の村を出発し、残り1日になった旅。

 最初で最後の野営になった。


 明日で終わると思うと、帰りの旅が残っていても気分が高揚する。

 あいさつと必要最低限の会話しかしなかったはじめの頃には考えられないほど、少女とは打ち解けたと思う。別れが名残惜しい気さえする。

 帰ったら、誤解している仲間達に少女のことを話してやろう。

 少女が去って沈んでいるだろう殿下にも共感しながら話が出来るかもしれない。


 

 交代で食事をとり、仮眠をとった。

 眠りに落ちてすぐに起こされた。



 少女がいなくなったという。

 俺は飛び起きた。



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