願い
初めての旅は楽しかった。
初めて見る景色、人々。
光を浴びて元気に育つ作物も木々も光り輝いていた。なにより、人々の笑顔がまぶしいほどだった。立ち寄ったどの町でも、笑い声が聞こえない所は無かった。嬉しくて、私も頬が緩んだ。
旅は男女の神官さん2名と護衛の騎士さん4名。
騎士達は誰も知らない人で、必要最低限しか会話をしていない。さけられているような気もする。
神官のコロナさんは物腰の優しい理想のお姉さんという感じの人で、私が声を発する前に察して動いてくれる凄い人だった。
もう1人はおじいちゃんの代わりに時々先生役をしてくれていたアンゼルムさん。お話が上手で楽しい話をいっぱいしてくれるおもしろいおじさん。長い馬車の移動もアンゼルムさんのおかげであっという間に到着してしまう。
お尻と腰が痛いけれど、こんな旅ならしばらく続いてもいいな。
銀ちゃんは外を飛び回っていて、時々帰ってくる。
綺麗な花や珍しい木の実なんかをお土産に持ってきてくれる。銀ちゃんがいないと馬車の中はたくさんの精霊でオシクラマンジュウだけれど、清々しいからむしろ快適だった。
精霊が見える人が居たらきっとびっくりしたんじゃないかな。精霊団子の馬車なんだもん。
「御使い様、あの丘を越えたら小さな滝がある泉が見えますよ。そこで休憩しましょう。」
「はい、ありがとうございます。」
お尻がしんどくなってきたなあ、なんて思ったとたんに休憩を教えてくれるコロナさん。
窓からアンゼルムさんが伝えている間に外を見る。
自然豊かな国だけあって、山々が連なっている。北に向かうのつれて広葉樹が減り、針葉樹が増えてきた。精霊達のおかげで寒さは感じないが、木々の間から見える空は青く高い。
きっと、朝夕は冷えるんだろう。もやもかかるかもしれない。
村と村の間もだんだん遠くなり、木々の間をひたすらすすんでいるようになった。
アンゼルムさんがまた話し始める。今日泊まる町の特産品の話だ。高原なので果物がおいしいんだとか。
精霊達がまたはりきりそう。たくさん実ったらみんな嬉しい悲鳴だろうな。
まぶしいみんなの笑顔にちょっとだけ、罪悪感がうすれる。
神の御使いとみんなに感謝されて大事にしてもらっているけれど、私は何もしていないから。
私じゃなくて精霊達がしてくれているのに。
たまたま、空が晴れた日に私が現れた。たまたま、精霊が国を豊かにしてくれた。
神様に感謝してください!
わたしじゃない。
新天地で私に出来ることが見つかりますように。
御使いじゃなく、私をみてくれる人が一人でも出来ますように。
名前を尋ねてくれようとしたマルクさんが思い浮かんだ。
遠くの地で暮らす彼には会えないけれど、お母さんや村の人の幸せを願う優しい彼が笑っていられたらいいなと思う。
私も彼のように誰かの幸せを願って生きていたい。