旅立ち
城に滞在してから2ヶ月ほど過ぎた。あの外出から一度も城から出ていない。
晴天の空は国中にひろがり、作物の生育も順調で、収穫もかなり増えているそうだ。獣も人里近くに出没することもなくなり、人々の暮らしは以前通り、むしろ良くなったそうだ。良かった。
私は銀ちゃんの通訳が無くても簡単な会話なら出来るようになった。この国のことも大分勉強したと思う。
気候の安定は神の御使いのおかげだと主張する教会や信心深い国民達と、国王の権威を固めておきたい主に貴族達の思惑の中、私は面倒な立場にあった。
権威を守らなくてはいけないはずの王子が私に仕える姿勢を変えないこともきっと良くなかったんだと思う。私がいくら言っても、それだけは聞いてくれなかった。
あんなに為政者として立派な態度を取れる人が、私にだけ態度を変えすぎることに、私が疑われ始めるほど。
だから、立場としては神の御使いまま、国の北にある神殿に私の身を預けることになったのは、どちらの人にも受け入れられた良い案だった。
王子が公務で隣の国に出向いている間に私は神殿に行くことになっている。
お世話になったわずかな人たちに感謝の言葉を伝える。
北の神殿は寒いことを除けば城よりきっと過ごしやすいだろうと、心配してくれる優しい人たちに伝える。おじいちゃんがあとから来てくれることになっているから何にも心配していないと。
話す機会の多かった神官や学者さん達も北の町に移動を希望しているそうだから、きっとにぎやかになりそうだ。
私も神の御使いじゃなく、1人の人間として神殿で役にたてるようにがんばろう!
「ぼくも、ふふっ。がんば、ろう」
銀ちゃんが笑いながらはしゃいでる。テーブルの花がゆれている。強い風に花びらを頼りなげにゆらして。
私と一緒にずっとお城暮らしだったからか、北の神殿にいくことが決まってからとても嬉しそう。
部屋の精霊達は私が城に落ち着くと、いなくなったりまた現れたりしていた。たくさんいるので全部の子を覚えてなんていないけれど、日によって色や数にばらつきがあるから、多分そう。
「お外で遊んできていいんだよ。」
すすめても、銀ちゃんは私のそばから離れなかった。
何も知らされていない王子のことが少し気がかりだけど、立派な王様になってほしいから多分これで良いと思いたい。
落ち着いた頃に手紙を出そう。応援していると伝えよう。
貴方を心配しているたくさんの人たちを笑顔にさせてあげてね。