死んだ。
夜中に目が覚めた。
ひんやりとした風が肌を撫でるのを感じ、振り向くと窓が開いてカーテンがゆらりと霊でも出るように揺れていた。
まずは水でも飲んでそれから寝よう。
そう思った自分はベッドから降りて部屋のドアを開けた。
ヒタヒタと素足の音が響く。両親は朝まではいない。仕事が忙しいとか言って、きっとどこがでほっつき歩いているんだと思う。
「ハァ・・・」
思わずため息が漏れた。ため息が漏れると同時にある本を思い出した。
思春期の少年少女たちを描いた、良い本だった。
台所まで着くとガラスのコップを持って水を注いだ。
水道から流れる水は透明で、綺麗。
少しぼやけて見える自分の顔。
自分の瞳と目があった気がした。
水を止めてコップの中を喉にへと運ぶ。
少し乾ききっていた喉が潤っていった。
「・・・・あっつ。」
ミシミシと夜でも暑いこの季節。
外にでも行って風にあたってこようと思い、玄関へと向かった。
靴下すら履いていないが白いスニーカーを履いて外へと出る。
風がなびく。誰もいない夜の道を一人でとぼとぼと歩く。
物静かな街が騒ぐ気配もなく。風の音だけが体全体を包む。
曲がり角を曲がろうとした。その瞬間だった。
キキーーーーーーーーーーーーッッ!!!!
ブチャッ
*
「・・・・・・」
真っ黒な世界が視界に広がる。
瞬きを繰り返すが何も変わる気配などない。
意味も分からず呆然と立ち尽くしていると声が聞こえる。
それはそれは、高い、奇声のような声。
「レッディーーッエーンジェントルメェーーーーン!!!
貴方様・・・いや、名無し様。ようこそ真っ黒な世界へ。
ここが何処か、という質問には答えませんよ。そんなベタな質問返すはずがないでしょう。
だって、もう既にその答えに返答は完了済みなのですから。
え?じゃあ違う質問を?
そんなもん、この私の正体でしょう?
知ってます。質問の内容はこれでしょう?
でも、これは返答いたしません。
きまりです。まぁ、私の話をだまぁーって聞いてくださいね?
まず、ここは名無し様の人生の折り返し地点です。
名無し様の人生はゴールなどしておりません。
いえ、正確に言うと。ゴールのゴールはまだゴールしていないということです。
分かりやすくいうと、さっき名無し様がゴールした門の先にもう一つか二つゴールがあるというわけです。
ご理解頂けましたか?それでは先に行きましょう。
ゴールの意味は分かりますよね?そう、死です。
さっき名無し様は一つ目のゴールをして、この世界へと来ました。
てことで、もう一回ゴールしていただく、ということになります。
つまり、違う人生を歩んで、ゴールをしてほしいと言うことです。
そして今度こそ完璧にゴールをしようと。
名無し様。私はこの人生を折り返し地点と言いました。
名無し様がさっきゴールを迎えた人生の日数分だけ、違う人生を歩んでいただくことになります。
人によってゴールをくぐりぬける数は違いますが、名無し様の場合。
たった一つの人生を歩むだけで、完璧なゴールをすることが出来ます!
生まれ変わる数も、その人によって変わるのです。
そんなわけで名無し様は、これから違う人生を歩んでいただきます。
理解できましたか?
それでは、早速次の人生のところまでひとっとびしちゃいましょう。
え?もしかして、次の人生の世界を知りたいですか?
じゃあ特別に教えちゃいましょう。
名無し様の次の人生の場は。
異世界ですね♪
それでは完璧なゴールを!」