始まりの章 1
あたしには、お兄ちゃんがいる。
いや、いたと言うほうがいいのかな?
今となっては、あたしの記憶の中にしか住んでいないんだけど……
あたしには、確かにお兄ちゃんがいたんだ。
おはよう、杏奈。
あっ!畠中くん、おはよう。
どうしたの、今朝は?
何が?
うん、なんだか元気ないみたいだけど…
あのさぁ、畠中君。
あたしのお兄ちゃんと、会った事あるよねぇ?
はあ??
お前、何言ってんの。
確か、杏奈一人っ子のはずだろ。
やっぱりなぁ……
やっぱりって、何が?
畠中君も、やっぱりお兄ちゃんの事覚えてないんだ。
覚えてるもなにも、杏奈のお兄さんなんて知らないし。
だから、やっぱりなの。
なんだよ、変なやつ。
朝から訳がわかんないよ。
そうかぁ〜、そうなんだぁ……
今朝起きると、なんだかあたしの部屋の何かが違っていた。
最初は分からなかったんだけど、あたしの部屋からお兄ちゃんがいなくなっていた。
もちろん、本人は最初からあたしの部屋にはいないんだけど。
写真立ての中には、ちっちゃい頃のあたしとお兄ちゃんがいたはずなんだ
それから、あたしの携帯の中にもお兄ちゃんの写真があったのに…
もちろん、携帯の番号もアドレスも。
メールだって、沢山残ってるはず……
なのに‥‥‥
あたしの周りから、お兄ちゃんに関するもの総てが消え失せていた。
最初は、夢かと思ってみたけど紛れもない現実で
その次は、あたしの頭がどうかしちゃったんじゃないかと疑ってみた。
でも、ホントのホントにあたしの頭の中には、お兄ちゃんとの小さな頃からの思い出が一杯詰まっているわけで‥
どっちが、本当なの?
お兄ちゃんの存在を証明する物がカケラもない今と。
あたしの頭の中で、溢れそうなお兄ちゃんのいた記憶と…