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夢への階段  作者: 望月愛
4/9

四段目:恋は盲目?

「慎、おはよ―。」


「おっ、おはよ。」


6月30日午前8時。


今までだったら部活をしていた時間。


『部活してなかったらこんなにゆっくり学校来れるんだな。』


佐々木慎は今までより1時間遅く学校に着いた。


朝の一時間の差はとても大きい。


いつもなら全く見ないテレビと新聞を見てから学校へ向かった。


靴を履き替え、教室へ向かう。


途中、隣の体育館からボールの弾む音、掛け声が聞こえてきた。

体育館へ繋がる渡り廊下の前でふと立ち止まる。


1年生と2年生が練習している姿が見えた。


なんとなく、頼り無い後輩達の姿。


もし自分が居たら…。


あの試合で勝っていたらまだ部活出来たのになぁ…


無意識に込み上げてくる思い。


『だめだ、そろそろ前に進まなきゃいけない。』



慎はくるっと回り、ゆっくりと歩き出した。




「透、おはよ。」


教室に着いた慎は一番前の席に座っている透の元へ行った。


「昨日どうだったんだよ―?ちゃんと告白したかー?」


「……」


「透?」


透の反応がない。


「透どうしたんだ?聞いてる?」


慎は透の顔を覗きこんだ。うつ向いた透の目は下に向けられていた。


「おい、何かあったのか?」


透は無言でずっと一点を見つめている。


慎は透の視線を追ってみた。



「にゅ、入部届!?」


透の視線の先、透の手には『入部届』と書かれたB5の半分くらいの小さな紙がしっかりと握られていた。



「透、吹奏楽に入部する気になったのか?」


慎の問いで、透はやっと意識を取り戻した。


「そんなワケないだろ!?」


「じゃあ何で入部届持ってんの?」


「ってか慎、昨日ワザと帰っただろ?」


「へへっ。」


慎はニヤっと笑った。


「お前のせいで昨日は散々な目に遭ったんだからな。責任とれよ。」



「責任ってなんだよ?俺はただ、透と望月が2人っきりになる場をセッティングしてやっただけだぞ?」


「お前マジムカつく。…でも望月のがもっとムカつく。」


「えっ、何何?望月に何かされたのか?―――もしかしてフラれた?」


慎が楽しそうに聞いてくる。


「だから、告白なんてしてないよ。誰があんなサイテーなヤツに告るかっての。」


「ありゃー、愛情を通り越して、憎しみの域に達した?」



「いい加減ウザイぞ慎。」


「すいません。で、何があったの?練習見に行ったんだろ?」



「あぁ、誰かのせいで行かざるをえんくなったからな。30分位で帰るって約束で行ったんだよ。

そしたら、音楽室に入った瞬間、吹奏楽部の全員に拍手で迎えられててさぁ…」


透は話しつつ入部届を机の上に軽く放り投げた。



「んで、なんか勝手に

『ありがとう!!ホントに助かるよ―』とか色んな子に言われて困ってたんだよ。


顧問の須田先生まで

『水野、大会出てくれる気になったんだ―。ありがとな。』

とか言ってくる始末で…。

望月に、

『俺は見学だけって言っただろ?』

って言ったら、

『みんなこんなに歓迎してるのに今さら言えないよ。』

とか言いやがって…あり得んだろ?

しかも30分で帰るって言ってたのに、帰りそびれて合奏も見てく事になって、結局練習終わるまで居たんだぜ!?」



透は早口で一気に吐き出した。



「そりゃひどいなぁ…」


興味本意で聞いていた慎も段々と透に同情していった。



「まだ続きがあるんだよ。てかこの先が最悪なんだよ。

部活のあと望月とオレ、音研(音楽研究室)に呼び出されたんだ。

行ったらさぁ、須田に入部届渡されて、

『これないと活動出来ないから、親にサイン貰って明日持ってきて』

って言われたから、

『俺、やるつもり無いんですけど…』ってちゃんと言ったんだよ。そしたら須田が望月に

『水野がやるって言ったから連れて来たんじゃないの?』

って聞いたんだよ。望月のやつ、黙りこんじゃってさぁ、答え無かったんだよ。…たら……」


「…そしたら?」


「『ちゃんと答えろよ!!』

っていきなり怒鳴ってきた。

望月が

『嫌って言われたんですが、見学だけで良いから来てってお願いしました。』

って言ったら、

『お前は水野の意思を無視してやらせようとしてたのか?』

とか色々言ってめっちゃ望月に対して怒鳴ってんだよ。俺、めっちゃ気まずいじゃん…」



「あぁ…」


慎の透に対する同情はどんどん増して行った。


「望月、半泣き状態でさ、なのに須田はずっと怒鳴ってるから、望月が可哀想で、思わず・・・」


「思わず?」


「……」


立て続けに話していた透の言葉が止まった。




「…思わず,


『先生、俺やります』


って言っちゃったんだよぉぉ――!!」


透は叫ぶように言い、机に突っ伏した。



「マジで?やるって言っちゃったの?」



「あの場に居たらそう言うしか無かったんだよ…」



「その後どうなったの?」



「須田のやつ、いきなり態度変えて、

『ホントに?水野、ありがとう♪』

って超スマイルになって、


『じゃあこれ明日持って来て♪』

って言って入部届渡して、


『下校時刻過ぎちゃったから急いで帰ってね。』


って言って音研から出てったんだよ。」



「うわぁー透、相手の策略にまんまとはまったって事じゃん。」



「それが!!去り際に

『望月、作戦成功したなっ☆』

って言ったんだよ!」



「えっ?ホントに作戦だったの!?」


「そうゆ―こと。望月もそれまで涙目だったくせに

『先生、ありがとうございました。』

とか笑顔で言ってるし、須田は

『水野、男に二言は無いからな―。』

って言って去ってった。」


「さすが須田先生。そういう手で今まで男を騙してきてそうだよなー。」



「そうじゃなくて、騙すなんて最悪じゃね?須田が居なくなってから望月に、

『もしかして、2人で仕組んだのか?』

って聞いたら、望月のやつ…


『引っかかる方が悪いんだよ―☆』


って言ったんだよっっ!!」



「望月って性格悪いんだな…。」


慎は話を聞きつくづくそう思った。


「んでこうなったわけ。」



透は全てを吐き出した為、少しスッキリした。



「そんなの詐欺のよ―なもんなんだからやらなきゃ良いじゃん?」


「もちろんやるつもり無いよ!!」



「なら何で入部届握りしめてたの?」



「……何でだろ?」


「……」



2人とも黙り込んでしまった。




「水野君おはよ―!!」


朝練を終えた望月舞が透達の元へやってきた。


「水野君、昨日はごめんね。ちょっとやり過ぎだったって反省したんだ。でも、水野君が入ってくれるから本当に嬉しい!!本当にありがとうね。」



そう言う舞の顔は、今まで透に見せた事のないくらい嬉しそうな、素敵な笑顔だった。


透の胸が音をたてる。



「あれ?入部届まだ書いてないの?」


机の上に置かれた入部届を見て舞が問いかけた。


「『入部しない』とか言わないよ…ね…?」


さっきまでの笑顔が急に曇った。


「あ…やるよ!!親に言うの忘れちゃってさ。」


透は立ち上がり、必死に答えた。


「透!?」


驚いた慎が呼びかける。



「ホントに?」


「うん。」



「ありがとう!!水野君大好きっ!!」


嬉しそうな舞は大きな声で言うと同時に透に抱き着いた。



「!?」



騒がしかった教室が静まり返る。


そして教室中の目線は透と舞に集まった。


数秒後教室はさっきよりざわめき出した。


女子のかん高い声が響く。


透の頭は真っ白になった。


「ちーちゃん、水野君やってくれるって!」


そう言いながら舞は同じ吹奏楽部員の元へ駆け寄って行った。




「何かすごい事になってるな。」


荷物を持ったままの祐介が慎の隣にやってきた。


「祐介。さっきの見てた?」



「あぁ。透、吹奏楽やる事にしたのか?」



「さすが!!分かってるねぇ―。」


「何で急に?」







「『恋は盲目』ってやつだよ。」




放心状態の透を見つつ慎は言った。



------------------------------



「水野君、今日の放課後から部活来てね。」


5時間目が始まる前、慎、陽介と話していたところへ舞がやってきた。


「えっ?入部届は?」



「須田先生に話したら、水野君のお母さんに連絡してくれて、水野君のお母さんから入部の許可貰えたの。だから今日から出来るって。」


舞が嬉しそうに話す。


「親に連絡したの!?」


「うん。おばさん喜んでたって。どんな形であれ水野君がまた音楽やってくれるのが嬉しいんだよ。」


「…分かったよ。」


「掃除終わったらすぐ行くからね。」


そう言って舞は去って行った。



「望月と透の母さん面識あるの?」


陽介が問う。


「あぁ。俺と望月は小さい頃から同じピアノ教室通ってたから。同じ学年は俺らだけだったし、自然と家族ぐるみで仲良くなったわけ。」


「その割には透と望月って話したりしてないよな?」


「それは…ピアノ辞める時、望月に言ったら猛反対されてさ、それで喧嘩になって気まずくなったままだったんだよ。」


「そういえばお前と望月、小学校ん時は仲良しだったもんなー。俺は面識無かったけど。」

慎が言う。


大岡中学校は3つの小学校から生徒が集まる。

陽介は大岡中央小学校出身。慎、透、舞は大岡南小学校出身。

慎は4年生の時に転校してきたのだった。


「中1の時、クラス離れたからお互い知らんふりしてて、2年で同じクラスになってもあんまり話さなかったくせに、いきなりこれだぜ!?」


「そんな事があったのにずっと望月の事好きだったんだな。透、めっちゃ一途じゃん。」

陽介が感心したように言う。


「昔の事なんて気にするなって。大丈夫!お前らは今クラス公認カップルだから。なっ陽介♪」


「そうそう。何てったって『水野君大好き!!』だもんな♪」


「いい加減その話は止めろよ!からかいやがって。」


「だって衝撃的だったもんなぁ。」陽介が言う。


「あんなに望月に対して怒ってたくせになんでやるって言ったんだよ?」

慎が問う。


「分からんけど雰囲気でさぁ…。ま、大会が終わるまでだから1ヶ月くらいだろうし…吹奏楽部ってそんなに強くないだろ?」


「去年は地区大会落ちだったらしいよ。」

陽介が答える。


「でも今年来た須田先生は去年まで東海大会常連校の指導者だったらしいよ。練習もだいぶ変わったって。」


「そうそう、昨日練習見たけどスパルタだった。女なのに男口調だしなぁ。」


「ま、スパルタには慣れてるから大丈夫だろ。」

慎が言った。

「夏休みはバスケ部のOB戦や合宿もあるしちゃんと来いよ。」


「もちろん。」

透が答えた。

最後に出てくる祐介は陽介の間違いです。

すみませんm(__)m

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