一段目:部活
この話は私が中学生の時の体験を基に書いています。
稚拙な文章ですが、読んで頂けたら嬉しいです♪
そして、評価して頂けたらもっともっと嬉しいです!!
「水野君お願い!」
望月舞が上目使いで見つめてくる。
その目を見るとドキッとしてしまうから、右上の方、つまり窓の外を見つめる。
異常気象のせいか、6月後半になっても梅雨入りしない空は、雲一つなくすがすがしい。
「何回も言ってるけどムリだってば。絶対オレより良い人居るって。だから他のヤツ探して。」
水野透は空を見たまま答えた。
「どうしても水野君が良いの。一生のお願い!」
2時間目後の休み時間、次が体育の為教室に残っている人はほとんど居ない。透もジャージを抱え、体育館へ向かおうとしていたところを舞に足止めされた。
そんな透を見て、友達の陽介と慎はニヤつきながら『お先に〜』と言って行ってしまった。
「何回言われてもムリ。次体育だから行かなきゃ。ってか慎達が待ってるから行くわ。」
「水野君!!」
透は舞から逃げるように教室から出た。
「待たせてごめん。」急いで男子更衣室に入ると、ジャージに着替えた佐々木慎と野沢陽介が近づいてきて透の脇腹を攻めてきた。
「おぃ、コラっ、やめろ!!」
抵抗してなんとかふりほどいた。
「透、朝からずっと望月に言い寄られてんじゃん。愛の告白?」
慎が肩に手を廻しつつ言ってきた。
「そんなんじゃ無いって。てか着替えれねぇだろ。」
「しかし透はモテるなぁ。中学入って何人目?」
陽介も便乗してきた。
「透、前に望月の事好きって言ってたよな?やったじゃん、初彼女♪」
「てか、何でOKしないの?女の方から言ってきたのに。」
何も言わず聞いていた透がゆっくり口を開いた。
「…あのさぁ、お前ら、違う事を『お願い』されてるの知ってて言ってんだろ?タチ悪りぃなぁ!」
「えっ、付き合ってくださいのお願いだろ〜?」
そういう慎の目は笑っている。
「お前らマジでうぜー。でもそれより望月の方がだいぶウザいわ。ここ3日間ずっと言ってくるんだぜ?何回言われたって嫌なものは嫌だってのに。」
不機嫌な透を見て慎が言った。
「吹奏楽部の助っ人だろ?良いじゃんやれば。中学最後の夏、望月と親密になれるチャンスじゃん。」
そうなのだ。望月舞は透に『付き合って』では無く、『吹奏楽部入部』を迫っていたのだ。
「だからそんなんじゃ無いって。大体オレはバスケ部なんだぞ?何でまた吹奏楽に入らないといけないんだ?帰宅部のやつとか、あんまり活動してない部活のヤツに言えば良いじゃねぇか。」
「だけどオレら引退したじゃん。」
慎が言う。
「でも引退してからまだ1週間もたってないんだぞ。」
透と慎はバスケ部員だった。日曜日にあった県大会までは・・・。
「でも引退したからには帰宅部のようなもんじゃん。」
慎が言った。陽介も言う。
「やれば良いじゃねぇか。オレがお前だったら絶対OKしちゃうよ。あの望月があんなにお願いしてくるんだぜ?これをきっかけに付き合えたらサイコーじゃん。」
「だったら陽介、お前やれよ。」
「残念ながらオレはまだ野球部やらなきゃだからさぁ。その前に彼女居るしぃ〜。」
「うわっ、ウザっ。」
透が言った。
陽介は野球部に所属している。大岡中学野球部は歴史があり、県で1、2位を争っている。陽介はそこのエースピッチャー。いわゆる『背番号1』を背負う男だ。部活で期待され、可愛い彼女が居る陽介は幸せだろう。
「てか透じゃなきゃダメだろ?『どうしても水野君が良いのっ』だもんなぁ。」
慎が舞をマネて言った。陽介も笑う。
「あ〜お前らホントムカつく。」
「吹奏楽、人が足りないから透に頼んでるんだろ?」
陽介が問う。
「あぁ。2年の子が5月いっぱいで転校しちゃったんだって。」
「やってやれよ」
「嫌だってば。吹奏楽だぞ?あんなオタク部。」
「ちょっとぉ、オレの彼女の事オタクって言ってますか〜?」
陽介が不機嫌そうに言う。
陽介の彼女は吹奏楽部の副部長をやっている。もちろん透も知っていた。
「ちょっ、違うって!ユウちゃんは可愛いし、ってかイメージ的なものだって。」
慌てて弁解する透を見て2人は笑った。
「やってくれよ〜可愛いユウちゃんの為にも。人が足りないって結構悩んでるんだよ。」
陽介が言う。
「そうだよ、やれば絶対望月の高感度UPだぞ。こんなチャンス、他には無いぞ。」
慎ものってくる。
「お前ら、人事だからって調子こきやがって!!」
「あっ、チャイム鳴った。」
慎がぽつっと言った。
「やべ、間に合わん。」
透はまだ上しか着替えていない。
「やべ、透先行くわ。」
「えっ、ちょっと位待てよ。」
慎と陽介は透を置いて先に行ってしまった。
透も慌てて着替え、体育館へ向かった。
「水野、遅刻。体育館5周してこい。」
体育館へ一歩入った瞬間、体育教師の太田和義が厳しい口調で言った。
「…はい。」
ホントなら、ちょっと位良いじゃん!!と言いたいがこの人には反抗出来ない。
3年間お世話になったバスケ部の顧問だから。
「この前言った通り、今日が最後のバスケットボールだ。来週からは水泳だからな。今日はくじでチームを決めて試合をするように。」
透が5周から戻ると太田が話し始めた。
「じゃあ、くじ引きして、チームごと準備体操して30分から試合開始出来るように。」
太田が話し終えると各々が動き出した。
女子の方から『水泳やだー』と話す声が聞こえてくる。
しかし、透の頭の中は水泳どころでは無かった。
舞へ視線を向けてみる。
舞は水泳の事など全く口にせず、友達と笑いながらくじを引いていた。
『かわいいなぁ。』
何の苦も無くこの言葉が浮かんでくる。
さらっとした長い黒髪、ぱっちり二重の大きな目、笑うと出来るえくぼ、スッと伸びた手足・・・
まさに美人の典型。憧れない男子は居ないだろう。
「透、ボケっとしてないでくじ引けよ。」
後ろから肩を叩いた後、慎は透と同じ方向を見てみた。
「またまたぁ〜望月にみとれちゃってぇ〜。」「ばっ、そんなんじゃねぇよ!!」
会話を遮る為、透は急いでくじを引きに行った。
そんな透を見て慎は笑った。
「透何班?」
「2班。慎は?」
「俺も!!大岡中バスケ部最強コンビ復活じゃん。」
「まじで!?これは楽勝だね。」
そう言って透は慎の背中を一発叩いた。
「おい、2班ズルいだろ?慎と透が一緒なんて。」
チームごとにわかれた時、3班になった陽介が言った。
「本当だよ。有り得ん!!」他の人たちも口を揃え言った。
3年3組にバスケ部員は慎と透しか居ないのだ。
「くじなんだから仕方ない!!30分になったからやらなきゃ!」
慎がそう言うと、みんなしぶしぶ試合を始めた。
県大会でベスト8まで残った大岡中バスケ部レギュラーが2人も居れば、授業のバスケットボールなど…
「余裕の勝利だな。」
チャイムが鳴り更衣室へ向かう途中、慎が言った。
「もちろん。」
笑みを交え透が返す。
最下位だった陽介のチームは片付けをさせられている為先に着替える事にした。
「透、親何て言ってた?」
「えっ、何が?」
「スポーツ推薦の話だよ。唯野高校の。」
「あぁ…。」
唯野高校は透の家から電車を使って50分位のところにある私立高校。
バスケ部は2年連続でインターハイ出場を果たした。バスケ部以外の部活も全国大会に名を残している。いわゆるスポーツ校だ。
高校でも部活を続けたいと思う人が憧れる学校。
慎と透は昨日、太田に呼び出され、唯野高校へのスポーツ推薦の話をされた。
「お前らが唯野へ行き、バスケを続けたいなら推薦をする。しかし、決めたら断れないし、絶対にバスケ部に入り、3年間続けなければならない。私立高校だから学費の事もあるし、親にも必ず相談して決めて欲しい。」
そう言われたのだった。
「オレ、まだ話してないや。」
「話してないの?」
「昨日の今日だし…慎は?」
「言ったよ。やっぱ私立だから、ちょっと嫌がってた。」
「えっ、反対されたの?」
「いや、『どーせ唯野行きたいって言うと思ってた。』って言われた。」
「そっか、良かったじゃん。」
「お前も早く話せよー。唯野でバスケ出来るなんて、何かドキドキするなぁ。」
「あぁ…。」
「透、どうかした?」
「えっ、何で?」
「急に元気無くなったから。」
「そんな事無いって!!」
透は慎と目線を逸らすかのようにロッカーの中を探りだした。
「もしかして、高校悩んでる?」
慎が伺うように聞く。
「えっ?」
「昨日、推薦の話聞いた後もあんまり嬉しそうじゃ無かったし…まさか、バスケ続けないつもり!?」
「そんなワケ無いだろ。もちろん続けるよ。」
「だよな、なら良かった。唯野のバスケ部はオレらの憧れだもんな。」
慎の顔に笑みが浮かんだ。
透は何も言わず着替え続けた。
進路…
それは透にとって今一番の悩みだった。