五十八番槍 左手がお留守だぞ
今回の逸話は割と有名かと思います。
頑張ったのに叱られたんじゃやってられませんよね~。
「いや~、父ちゃん!今帰ったよ!大変な戦だったぜぇ~」
1600年、関ヶ原の戦い。
それに徳川家康率いる東軍として参加した黒田長政は、戦も終わったので父親の黒田官兵衛のもとへと帰ってきた。
「なっ!えっ?早っ!もっと長引くかと思ったのに…」
あまりに息子が早く帰って来たことに驚く官兵衛。
それもそのはず。
関ヶ原の戦いが長引いて、両軍疲弊したところを攻撃して自らが天下を治めるつもりでいたからである。
しかし、その野望は打ち砕かれた。
長政の帰りは、それを意味していた。
父親が天下を狙っていたことなど全く知らない長政。
関ヶ原の戦いでのことを自慢気に話し始めた。
「いやぁ~、俺がちょっと頑張れば小早川秀秋を寝返らせることなんてチョロいもんよ!」
「ふ~ん…。そうかい…」
上の空で聞いている官兵衛。
さらに長政の話は続く。
「今回の最大の功労者は俺だね!だって、家康が俺の手を取って握手してくれたもん!」
そう言った瞬間、官兵衛の表情が変わった。
明らかに険しいものとなったのだ。
「………手だ…?」
官兵衛が聞き取れないほど小さな声で呟いた。
「はい?」
「家康が握ったのはどっちの手かと聞いている!!」
いきなり叫んだ官兵衛。
あまりの迫力に長政の背筋も反射的に伸びる。
「み、右手…ですけど…」
質問の意味が分からない長政。
「その時、お前の左手は何をしていた!?」
「えっと…?(鼻ほじってたとは言えない…)何も…してませんでしたけど何か?」
すると官兵衛は…。
「何故何もしなかったのだ!!」
キレて叫んだ。
「すいません!嘘です!鼻ほじってました!」
「なんだ。なら良し!…って良くないわっ!!鼻ほじってる相手と握手したくないよ普通!もし右手でもほじってたらどうしようとか考えちゃうよ!」
叫び続ける官兵衛。
「父ちゃん乗りツッコミ下手~」
冷たい目線を送る長政。
「うるさいな!そうではなくて、何故その左手で鼻を…じゃなくて家康を突かなかったのだ!?突き殺すべきだったのだ!男は天下を望むべきだ!」
官兵衛は息子の活躍により天下を取り逃したのだった。
「家康に右手で握手してもらった」と語る長政に、官兵衛は「その時左手は何をしていたのだ」と聞いたそうです。
ようするに、左手で家康を殺せよ!と。
なかなかにすごいこと言いますよね~。
因みに、家康から官兵衛に宛てられた手紙には「今回の戦の最大の功労者は長政だ」と書いてあったそうです。
長政の活躍が無ければ関ヶ原の戦いは長引いて……官兵衛の思い通りになっていたことでしょう。
息子に夢を砕かれた黒田官兵衛でございました。
明日城に行く予定です。
また近々絵巻を書くと思います。