歴史絵巻第六幕Let's Go 城巡り~川越城~
続きです。
今回で完結しますから…!
「あ、ああ…!これが…!川越城!」
「川越城本丸御殿!あのウォーターボーイズで有名な川越高校の裏だな!」
2人は念願の川越城本丸御殿に到着した。
入りましょう!と乙葉が晴美の手を引く。
入場料は50円。
まさかの二桁。
中にはふすまで仕切られた部屋がいくつかあった。
「あぁ!ここに…北条氏康がいたんですね!」
目が輝いている乙葉。
(うっ…。これは…言わなきゃいけないのか…?)
晴美は喜んでいる乙葉に、重い口を開いた。
「1846年に…二の丸が焼けたんだ…。その代わりに建てたのが…これ。1848年に竣工…」
え?
あれ?
「先輩…それって…」
「…。戦国時代に…この本丸は、無い…」
晴美は眼を伏せながら言った。
「そんなぁ…」
乙葉ガッカリ。
それでも城に変わりは無い。
一応、築城主は太田道灌であり、戦国武将である。
「あ、枯山水!これは綺麗ですよね!」
乙葉が見ているのは中庭。
ちょっとした枯山水が日本らしさをかもし出している。
さらに、広間や当時のトイレなんかを見て2人は本丸御殿を出た。
「戦国時代じゃないんですね」
「この本丸は、二の丸の代わりに建てたものだからなぁ~」
2人はその足で本丸御殿の目の前にある、三芳野神社へ向かった。
「ここも…神社ですよね?」
乙葉が聞いた。
「そうだ!ここは川越城の天神郭に当たる場所で、この神社はお城の天神様なんて呼ばれているらしい」
晴美が説明していると、興味深い看板が出現した。
「川越城七不思議…?」
乙葉が呟いた。
その看板には、川越城七不思議という七つの伝説が書かれていた。
1、霧吹の井戸
蓋を取ると霧が出て城の姿を隠す井戸があり、そのため川越城の別名は霧隠城である。
2、初雁の杉
雁が飛んでくると、必ず三芳野神社の裏にあった大杉の周りを三回鳴きながら三周したことから別名初雁城と呼ばれる。
3、片葉の葦
浮島稲荷神社周辺の「七ツ釜」で、川越城が戦になったときに逃げ延びた親子がいた。しかし、七ツ釜でころび、必死で葦の葉を掴んだが葉がちぎれ、水底へと沈んだ。それ以来、このあたりに生える葦はその親子の恨みによって片葉である。
4、天神足洗の井水
太田道灌と道真が川越城を建てるときに、堀の水源が見つからず困った。そこで、井水で足を洗っていた老人に案内してもらうと、見事に水源を発見した。道灌はこの老人を三芳野天神の化身と信じ、大切にした。
5、人身御供
太田道灌は、川越城の周辺が泥深く、土塁を建てるのに苦労していた。そんなある日、龍神が夢に出てきて「明日最初に見た女子を生贄に差し出せば、すぐに城は完成する」と言った。しかし、道灌が翌朝最初にみた女子は自分の娘与禰姫だった。道灌は、さすがにためらっていると、与禰姫は自ら城の完成を祈って七ツ釜に身を投げた。
6、遊女川の小石供養
川越城主の鷹狩りについて行った小姓が、「およね」という美しい農民の娘に河原でであった。後に、この小姓の嫁になったおよねだったが、嫁姑戦争に負けて実家に帰らされた。およねは、夫に会えることを期待して、最初に夫と出会った河原で待つも会えず。その川に身投げした。いつしかこの川を「よな川」と呼ぶようになったのは、「およね」が由来とも「夜な夜な泣く」から来ているとも言う。
7、城中蹄の音
川越城主の酒井重忠は、毎晩矢や蹄の音がして眠れなかった。そこで、祈祷師に見てもらうと「城内のどこかにある戦の絵が怪しい」とのこと。蔵を調べると、堀川夜討の戦いを描いた、一双の屏風絵がでてきた。それを半双に分けて、養寿院に寄贈すると、その日から音が消えた。
「ん~…。確かに不思議ですねぇ」
「まぁ、七不思議はどこでもあるから!それよりこの神社、『通りゃんせ』発祥の地だって知ってた?」
晴美が聞いた。
「あの『と~りゃんせ~とおりゃんせ~こ~こはど~このほそみちじゃ~』ってやつですか?ホラー番組の横断歩道の場面でよく聞く…」
「それだ!それは、この神社が発祥というのが一つの説なのだ!」
へぇ~!と感心したような声をあげた乙葉に、晴美は次の行き先を宣言した。
「氷川神社に行くぞ!」
2人はまた歩き出した。
しばらく歩くと、巨大な鳥居が出現した。
「うわぁ!でかぁ!」
乙葉が思わず叫ぶほどの大きさ。
「高さは約15メートル!木像では国内最大らしい!さらにスゴイのは、鳥居に付いてる社号文字はあの勝海舟の直筆だ!」
「勝海舟なら知ってます!坂本竜馬が暗殺しようとしたけど、話してみたら意気投合したっていう、あの人ですよね!?」
晴美がそうだ!と叫ぶと、2人は大鳥居をくぐった。
隣は結婚式場で、神社に直結している。
なんともめでたい場所である。
この日も結婚式にやってきたと思われる和服を着た人たちの姿があった。
境内に入ると、犬の顔の様な形をした「戌岩」や様々な建物があった。
「ここは540年9月15日に建てられた由緒ある神社なのだ!老いらくの 身をつみてこそ 武蔵野の 草にいつまで 残る白雪 と、太田道灌も俳句を送っているのだ!因みに、例大祭は10月14・15日だ!」
晴美も説明しながら歩く。
柿本人麻呂神社、山上憶良の唄碑などがあった。
「人麻呂は…万葉集ですよね!」
古典が得意な乙葉。
このような知識は豊富である。
「え?あぁ…。そうだっけ?」
逆に、晴美にはよく分からなかった。
「時に乙葉よ。さっき気になる看板を見つけたんだが…」
晴美がそう切り出した。
「なんですか?気になるなら行きましょうよ!」
2人はもと来た道を歩き出す。
少し戻った場所にあったのは…。
「おっ!やはりか!ほら!」
晴美と乙葉がやってきた場所。
妙に深く土が掘られた場所。
看板には「川越城中ノ門堀跡」。
「これはまた…。大きな堀ですね!深さ7メートル、幅18メートル…。川越城の唯一現存する堀跡で、内側と外側で法面勾配が違うんですねぇ…。へぇ~…」
乙葉が看板を読んだ。
思いがけず良いものが見れた。
2人は上機嫌で次の目的地へと向かった。
途中、川越市役所で太田道灌の銅像を見て歓声をあげたりした。
「この川越市役所は、川越城の入口前にあるのだ!」
晴美が説明した。
「いざ!最終目的地!東明寺へ!」
「おーっ!!」
晴美は人差し指を前に突き出し、乙葉は右腕を高らかにあげた。
東明寺。
人気のない静かな境内に入ると、大きなイチョウの木の下に石碑。
そこに刻まれた文字は「川越夜戦跡」。
「あっ!ってことは…ここで…!」
「そう!北条氏綱に川越城を取られた扇谷上杉朝定は、取り返すために8万の大軍で川越城を包囲した。北条家家臣の福島綱成は3000で籠城したが、兵糧が尽きて危機的状況だった。そこを助けるために出陣したのが北条氏康。氏康は深夜0時に8万の兵に8000で突撃した。これに応じて福島綱成の軍も城から打って出た。そしてぶつかったのが…」
「ここってわけですね…」
「そして、朝定は討ち死に。北条は関東進出のきっかけを作ったというわけだ」
静かな境内に、晴美の説明する声が響いた。
一通り説明が終わると、2人はしばらく黙っていた。
ここで戦が起きた。
そう思うと、何故か喋れなかった。
いくつもの命が散った、この東明寺。
2人の気持ちにも、「楽しみ」以外の何かが芽生えていた。
そして、黙ったまま2人は境内を出た。
「何か…。緊張しましたね…」
「ん~…。なんだろう。空気が違ったというか…」
「そうですよね!何か…行く前は古戦場って楽しみだったんですが…いざ行くとなんかこう…笑えないと言いますか…」
乙葉が言いたいことは晴美にもわかった。
「あ、そうだ。あそこ、富士塚っていう塚があるんだけど、掘ったら出てきた骨を埋めた塚だそうな」
「掘ったらって…。私たちが立ってた場所をですか…?」
「多分!」
「にゃー!ちょっ!知りたくない情報でした…」
驚きのあまり変な奇声をあげた乙葉。
「だから、激戦地だったんだって!」
「いやまぁそうですけど…」
そう言って、乙葉は軽くため息をついて…。
「この後はどうします!?」
「菓子屋横丁っていう駄菓子屋が沢山ある通りがあるが…」
「行きます!」
こうして2人は菓子屋横丁へと向かった。
部活動報告~活動の記録~
今回の旅で行った場所
喜多院:江戸城から移築された建物や五百羅漢がある、天海や春日局と縁が深い寺。NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」第四十話の最後に紹介されました。
日枝神社:喜多院からほど近い神社。小さい神社です。
川越歴史博物館:川越の歴史に関する資料を展示している博物館。成田山川越別院の向かい。戦国時代の史料も豊富。写真撮影OKなのが嬉しい。
成田山川越別院:通称「久保町のお不動様」。成田山新勝寺の別院として石川照温が再興した。結構立派です。
浮島稲荷神社:湧水「七ツ釜」にあった神社。今も名残かどうかは分かりませんが池が境内にあります。オオカナダモ(水草)が豊富でした。
川越城本丸御殿:川越城を代表する遺構。川越城といえばここを指します。去年の3月にも行きましたが、解体修理中でした…。
三芳野神社:童謡「通りゃんせ」の発祥の地とも言われる神社。昔は川越城の中にあったらしい。
氷川神社:勝海舟直筆の社号が掲げられた大鳥居がある神社。結婚式場と直結している。鳥居は圧巻。
川越城中ノ門堀跡:最近(2010年4月1日)公開されはじめた川越城の遺構。去年も行きましたが、公開前でした…。1週間差で…。
東明寺:川越夜戦の激戦地。戦いはこの寺の境内で行われた。富士塚があるらしいが、私は見つけられませんでした…。どこ…?
~ここから非公開~
中島考昌墓:「消えてこそ まことなりけり 雪仏」と辞世の句を詠んだ人。川越の地誌「三芳野名勝図絵」を書いた。
蓮馨寺:1549年川越城主の大導寺駿河守政繁が母親の蓮馨尼を追福するために作った浄土宗の寺。
疲れました…。
かなり歩くことになります。
歩きたくない方は500円で乗り放題の市内循環観光バスがありますので。
因みにボンネット型。
あとは~…。
菓子屋横丁や時の鐘が有名所ですかねぇ。
是非行ってみてくださいね!
次回からまた逸話書きます~。
逸話がメインの小説ですので…。