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十九の太刀 謎合戦、川中島の戦い

川中島は行ったことないのでいつか行きたいところです。

この戦い、知名度や討ち死にした武将の多さの割にわかってることが少なすぎる謎の合戦となっています。


今回は歴史研究部の活動として、謎の合戦について書いてみました。

「今日の議題は川中島の戦いだ!」


放課後の歴史研究部部室に響く、部長焙烙晴美の声。

それに続くように、黒板の中心に大きく「川中島の戦い」と書いたのは2年生、村上乙葉。


「おぉ!川中島の戦い!川中島の戦いって何ー!?」

椅子から立ち上がり、右手を突き上げながら質問してきたのは晴美の妹、明日香。


「えっと…確か…武田信玄と上杉謙信の戦…だったかな…。丁度先週…日本史で出てきてたよ…?」

自信無さげに明日香の問いに答えてくれるのは、清水ひなた。

明日香に引っ張られながらこの部に入部した1年生。


「そうですね。川中島の戦いは武田信玄率いる2万の軍と、上杉謙信率いる1万3000の軍の間に起きた戦いです。ただ、特定の一回を指すわけではなくて、5回起きた戦いの通称です」

補足してくれたのは尼子紗代。

もともと日本史大好きな期待の1年生。


本日はこの5人で部活を行う。


さて、と晴美が仕切り直し本日の話題、川中島の戦いについての話を進める。


「紗代が言うように、川中島の戦いは武田と上杉の戦で、5回起きたことが知られてるな!通説では!」

乙葉が通説、5回と黒板に書いていく。


「通説?」

乙葉が書きながら違和感を口にする。


「ああ、通説ではな。川中島の戦いって当時の一次史料が全く無いんだ。記録だけを見ると武田と上杉が川中島で戦った回数はどう見ても5回より多いし、なんなら学者によっては2回しか無かったなんて説を唱えてたりもするレベルなんだ」


「半分以下じゃーん!何でそんなにハッキリしないのさー?」


「それが一次史料がないということなんですよ。後で物語にされたり、尾ヒレが付いたりで、本当のところがわからなくなっていってしまうんです」


明日香の疑問に紗代が答える。


「それじゃ…物語とかそういうのって…史実を探るうえでは…邪魔に…なっちゃうんですか…?」


「うーん、ノイズになるって考え方もあるけど、そもそも軍記物みたいにならなかったら誰も興味持たずに忘れ去られて消えていっちゃったかもしれないから、邪魔者としては扱いたくないかな、私は!」


そう言って乙葉はひなたに笑いかけた。


「でも、何であんなに大規模な戦いなのに一次史料が残ってないんでしょうか?」


紗代からの質問。

それに晴美が受け答える。


「それについて考えるために、この戦についてもうちょっと考えてみようか。最も規模が大きかった第4次川中島の戦い、通称八幡原の戦いで見ていこう。この戦い、どっちが勝ったと思う?」


晴美の質問に、本を眺めていた明日香が手を挙げる。


「書いてあったよ!武田側の損失が4000人、上杉側の損失が3000人!だから上杉の勝ち!」


「あ…討ち死にしたのも武田側は親族とか武将が沢山なのに…上杉側は武将クラスの人は少ないって…。これ、上杉の勝ちなんじゃ…!」


明日香、ひなた共に上杉の勝ちで結論を出している。


これに異を唱えたのは紗代だった。


「待ってください!でも戦後に川中島を治めたのは武田家です。これつまり、損失を見ずに結果だけを見ると武田の勝利とも言えますよ!」


少し興奮気味の紗代。

どこを見るかで勝敗が変わる不思議な結果に考察しがいを感じているようだ。


そして少しの間の沈黙。

それを破ったのは乙葉だった。


「両軍の損失7000人は中々に多いですね。戦国時代最大の合戦だった関ヶ原が5000〜8000人とか言われてますから、下手したら上回ってますね」


「そうなんだよ、めちゃくちゃ多いんだこれ。この時代の戦は、どちらかの軍が総崩れになった時点で決着。そのまますぐ撤退するからこんなに戦死者は増えないんだ」


「戦術的な問題でしょうか?啄木鳥戦法とかありましたし」


「キツツキ?」

明日香が口元に手を持っていき、キツツキのくちばしを再現する。

そのまま木をつついているような仕草をした。


キツツキはかつて、木を裏側から突いて虫を驚かし、反対側に逃げ込ませてから捕食すると信じられていたこと。


啄木鳥戦法はそんなキツツキの捕食方法のような戦法…即ち別働隊を出して敵を奇襲し、驚いて撤退した相手を本隊で叩く作戦だと紗代が説明してくれた。


実際のキツツキにはそんな習性は無いですが…と補足まで加えて。


「だがその啄木鳥戦法って、実は川中島の戦いを伝える数少ない史料の甲陽軍鑑ではそんな名前は出てこないって知ってた?」


「え…それじゃ…啄木鳥戦法って…歴史と生き物に詳しいと勘違いしている自称専門家とかがキツツキの生態を間違えたまま名付けた…とかだったりしますか…?」


ひなたは時々毒を吐く。


「いやぁ…自称専門家かはわからないが、啄木鳥戦法という名前の初出は甲越信戦録っていう江戸時代の終わり頃に出た軍記物なんだ。作者は不明とされている」


晴美の言葉に合わせて、乙葉が黒板に甲越信戦録と書いていく。

これまでの要点を纏めている黒板は、綺麗な字で見やすく整えられていた。


「江戸時代の軍記物じゃ、信憑性なんてあったもんじゃないですね」


そうなんだ、と紗代に同意する晴美。


「話を戻すが、この戦いの勝敗についてだ。恐らく両軍とも引き分けとして認識していたのだろう。勝ち戦じゃないから両軍ともに記録としてあまり残していないんじゃないか?」


「なるほどねぇ。勝ってたら好きなだけ盛って書けるけど、見栄を張ることすらできないからねぇ」


腕を組みながら頷く明日香。

歴史は勝者が作るって言うしねぇ、などと勝手に納得しているようだ。


「川中島って、今でもすっごい濃霧になることがあるみたいですよ!もしかして合戦の時も濃霧だったとしたら、敵味方わからずばったり出会って同士討ちに乱戦!なんてこともあったかもです!そうすればこの死者数の多さも理解できるんじゃないでしょうか!」


スマホで調べていた乙葉が閃いたと言わんばかりに意見を述べた。


小休止の後、再び始まる考察会。


「実は武田信玄は上杉謙信の強さを認めてて、直接対決をとにかく避けていたなんて話もある。小競り合いのような小さい争いだけして、戦を避ける信玄に業を煮やした謙信が、戦を避けられない状況に追い込んで直接対決したのが第四次川中島の戦いって説だな」


「上杉謙信も冬を越すために、関東へ行っては略奪や誘拐を繰り返してた武将ですからね!」


「えぇ…上杉謙信の…イメージが…」


乙葉の補足に下を向くひなた。

ショックだったのだろう。


折角啄木鳥戦法の話が出たから、これについても考えてみようと話を仕切るのは晴美。


「まず、上杉軍が布陣したのが妻女山、数は5000人を善光寺に置いてきたから1万3000人。武田軍は本隊が茶臼山に布陣した8000人、妻女山を叩くための別働隊が1万2000人」


これに違和感を覚えたのが紗代。


「待ってください!本隊と別働隊の人数逆じゃないですか?」


「たしかに!別働隊の方が多いなんておかしいよ!」

紗代に明日香も同意する。


「そうなんだ。ここはやっぱり違和感あるよな」


さらに晴美は続ける。


「武田の本隊8000は八幡原にて、鶴翼の陣で上杉軍を迎え撃つ作戦だった。でも鶴翼の陣って、人数有利の時じゃないとあまり有効打にならないんだ。対する上杉は車懸りの陣。小隊を次々に繰り出す陣形だ」


「たしかこの戦い…上杉は武田の動きを見抜いてたんですよね…?」


「そうそう。別働隊の動きを察知した謙信は夜のうちに妻女山を降りて、濃霧に紛れて武田本隊とぶつかった。そして起きたのがあの総大将二人の一騎討ちだ」


晴美とひなたの話を乙葉が黒板に書き留める。

通説と書かれた欄に加筆された。


ここで疑問が残る、と言葉を続ける晴美。


「甲陽軍鑑には啄木鳥戦法なんて言葉は出てこないどころか、詳しい進軍ルートは書いてないんだ。別働隊が通説通りの道を使うと時間がかかり過ぎる上に道が険しすぎる。まして夜中にこんな大軍がこっそり音も無く明かりもなく奇襲なんて不可能だと思う。バレて当然とも言えるこんな作戦をあの信玄が採用するものかな?」


考え込む一同。


「史料が江戸時代後期の本しか無いんでしたら、物凄く当てにならないですね、この辺の話。おまけに軍記物としてみると華になる大将同士の一騎討ちなんて、普通に考えたらありえない話ですよね」


紗代の発言に、頭に?を浮かべる明日香。


「信玄と謙信の一騎討ち、無いの?謙信の攻撃を3回くらい信玄が軍配で受け止めたって聞いたよ?」


丁度日本史で習ったところなのだろう。

明日香が紗代に尋ねる。


「戦の時、普通は大将が先駆けることなんて無くて、後方で指揮を執るものなの。先駆けたら討ち死にしやすくなるし、全体を見れないから指示が出せなくなるでしょ?」


「なるほど!じゃあこれ、一番後ろにいる2人の一騎討ちってことになるんだね!たしかに敵陣まで大将は来ないだろうし、こんな所まで敵が来たらさっさと逃げるよねぇ」


うんうん頷きながら、納得した様子の明日香。


「じゃあこの合戦、何なら本当なの?」

明日香がそう思うのも当然なくらい、この戦は情報が少ないのだ。


「討ち死にした武将は信用できると思う!でも、甲陽軍鑑だからなぁ…」


乙葉が頭を抱えてしまう。


「で、でも!甲陽軍鑑も山本勘助の記述以外は信用できるって話もありますから…!」


言いながら、紗代はそれとなく目を逸らす。

甲陽軍鑑という書物、なかなか曲者で記載内容に誤りが多く、信憑性に欠けるとされている。


しかし、近年では一部は史実だろうと再評価されていたりとどうにも掴みにくい史料なのだ。


話していたら、教室内にチャイムが響く。

今日の部活もここまでだ。


「ほんと、謎だらけですね。川中島の戦いって」


「知名度はあるのになぁ」


そんな話をしながら、一同は教室を後にするのであった。

川中島の戦いは何度行われたかすらハッキリしていないようです。

一般的に5回と言われてますが、あの場所での小競り合いはそれ以前にも何度もあったようですし、はっきりとした戦いは2回しかなかったなんて話もあります。


なんせ当時の史料が甲陽軍鑑くらいしか無いので、どうもハッキリしないのです。

甲陽軍鑑は読み物としては面白いのですが、史実としての信憑性とかの話になると落ちます。

正確に書いてくれや…。

しかしどうもまるっきり創作というわけでもないらしく、判断が難しいところです。


この戦、何が正確な情報なのかわからないんです。


かなり昔ですが、バスツアーで寄ったお土産売り場が何かの裏をふらっと見てたら胴合橋があったのは覚えています。

川中島の戦いの舞台となった場所、行ってみたいですね!



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