五百四十番槍 最後の花見
秀吉の墓を見に行った際、京極竜子と国松の墓をスルーしていたことを知りショックを受けております。
誰かの墓っぽいものがあるなーとは思ったんですけど…説明看板とか無かったんですもん…。
ちゃんと見ておくべきでした…。
京都は史跡が多すぎて一生回りきれる気がしません…。
伏見城の遺構とか明智藪、今回の逸話に出てくる醍醐寺も見たいんですが、ちょっと中心から離れるんですよね。
京都はおすすめスポットだらけで何度行っても新しい発見があります!
1598年、京にて。
「…醍醐寺で花見がしたいなぁ」
そう思い立った一人の老人。
もはや先は長くないであろうことが誰から見ても明らかなほど衰えた天下人、豊臣秀吉である。
時はまさに朝鮮へと諸将が攻め入っている中。
秀吉は自らの最期が近いことを理解していた。
どうせなら盛大に。
去年見た醍醐寺の美しい桜をもう一度見たい。
そう思い、家臣の前田玄以に花見の準備をさせた。
秀吉本人も何度も醍醐寺に足を運び、入念に下調べや準備を行った。
口には出さぬが、玄以は秀吉の体調を鑑みると今年が最後になるかもしれないと思い、急ぎ準備をした。
「花見の準備だ!吉野から桜を700本、京の醍醐に植え替えるんだ!紀州から金堂を移築せよ!1週間で終わらせるぞ!」
これが後に言う醍醐の花見である。
「今、みんなは朝鮮で戦っておる。諸将の妻は夫の帰りを待つばかりで不安であろう。今度の花見は、そんな奥方たちを労う会にしよう。すまぬが、醍醐で花見を行うので招待状を書いてくれぬか?」
秀吉は右筆(手紙を代筆する係の人)にそう頼んだ。
「すまなくないですよ、秀吉様!お任せください!……醍醐の醍の字ってどう書くんでしたっけ?」
右筆の問いに秀吉は笑う。
「ははっ!普段は書かぬ字だからな!大の字で構わんぞ!」
こうして1週間後、花見に招待されたのは1300人を超える女性たち。
家臣たちの妻をはじめ、条件をクリアした一般参加者も多数参加していた。
秀吉、そして息子の秀頼、前田利家に続き、輿で入場してきたのは秀吉の正室、北政所。
それに続いたのが側室代表、秀頼の母淀殿。
3番目は京極竜子(松の丸殿。淀殿の従妹)。
4番目は三の丸殿(織田信長の6女)。
5番目は加賀殿(前田利家の3女)。
6番目がまつ(前田利家の正室)。
錚々たる顔ぶれが並ぶなか、花見がスタートした。
杯に注がれた酒に一口付けて、次の人へと回す。
そんな催し物が行われていた時だった。
まずは秀吉が口をつけ、北政所に渡す。
そして北政所が淀殿に渡す、はずだった。
「ちょっと待って!」
杯に手を伸ばした淀殿を制止したのは、竜子だった。
「北政所様の次は私!淀さんより私が相応しいのよ!」
「はぁ!?あんた何言ってんのよ!入場の順番的にもわかるでしょ!?次は私よ!!」
なんと杯を貰う順番で喧嘩が始まってしまったのだ。
「そんな順番ごときで争わんでも…」
秀吉も苦言を呈するが、2人は収まらない。
それを見ていたまつがすっと立ち上がる。
「それでは私が戴きましょう。おねちゃんと私は若い頃からの親友。そして年齢順で言ったらこの私ですからね」
そう言うと、まつは北政所から杯を受け取った。
「まつちゃん、ありがとう」
「いいのいいの!」
小声で言葉を交わすと、まつは杯に口を付けるのであった。
この花見の最中に、女性たちは2度のお召し替えをした。
つまりは3着の服を持って参加したのである。
服の費用は秀吉持ち。
2度の衣装チェンジは義務であった。
そんなわけで、秀吉の開催した花見は大成功のうちに幕を閉じた。
醍醐寺の和尚、義演准后は日記にこう記している。
「路地や茶屋まで贅を尽くした有様は、言葉では表しきれない。少しの障害もなく、無事に秀吉様達はお帰りになられた」
それから5ヶ月後、秀吉は息を引き取ることになるのだった。
醍醐の花見でした。
秀吉最後の大イベントです。
淀君と竜子が喧嘩した話だけ書こうと思ってたんですが、周辺事情を調べると中々面白くて、花見全体のエピソードを1話にしてみました。
前書きに書いた竜子の墓をスルーした後悔から執筆に至っております。
秀吉の墓が山の山頂にあるんですが、その山を登るための階段の手前にある墓がそれだったみたいです。
秀吉の墓、女子大の奥にあるんですよね。
多分秀吉喜んでますよ…。女好きだから…。
醍醐寺の和尚は秀吉と仲が良かったようで、散々秀吉がバックアップをしていたようです。
秀吉や利家がこの花見で書いた俳句が醍醐寺に現存しています。
まぁこれ、武将たちが朝鮮で戦ってる時にやってるんで顰蹙買いそうな話ではありますが…。
女性だけ1300人も呼んだのは秀吉の趣味なのか労いなのかわかりかねますが、3着も衣装を用意させて着替えまでさせてるあたり前者な気もします。
醍醐寺のホームページにも色々面白い逸話が書いてあるので是非ご覧になってください!