五百三十六番槍 三木の兵糧攻めの裏で
土地柄暫くは関西地方ゆかりの武将の逸話が増えるかもしれません。
あまり連発しない程度に歴史研究部にも活動させてあげたいです。
城巡りのネタ凄いストック溜まってるので、私自身の備忘録としてもそのうち執筆したいと思います。
1578年、突如として織田信長勢に反旗を翻した三木城主、別所長治。
これを抑えんと三木城を取り囲み、兵糧攻めという残酷な攻め方を取ったのが豊臣秀吉であった。
そんな合戦の最中、三木城への補給を担っていたのが淡河城であった。
淡河城主の淡河定範は、家系図を遡れば鎌倉北条家を祖に持つ名門。
現在は別所家と婚姻同盟を結び、長治の謀反に同調する形で織田家へと牙を剥いた。
「この淡河城も、もう間もなく織田の手が伸びてくるに違いない。今のうちにできる対策をしておこう」
定範は家臣に指示を出す。
「馬防柵を建てよ!敵は馬で来るぞ!道には撒き菱を撒いとけ!あと、落とし穴だ!逆茂木(尖った枝や竹を地面から突き出るように設置したもの)も忘れるな!ひたすら罠を巡らせるのだ!」
「わかりました!」
「あ!あともう一つ集めて欲しいものがある」
去ろうとする家臣を呼び止め、定範が付け足した。
「メスの馬を集めてほしい。褒美は弾むぞと周囲の町にも伝えてくれ」
「メスの馬…?今から繁殖させても戦には間に合いませんよ?それに競走馬は血統が大事なんですからそんな適当に繁殖させても有馬記念じゃ勝てません!」
「ちげーよ!!競馬の話じゃねーよ!武士は去勢してないオスの荒馬を乗りこなしてこそ…。そんな風潮を逆手に取るのよ!」
「なーんだ!競馬じゃないんですね!わかりました!とりあえずメス馬集めておきますね!一緒に擬人化して愛でましょうね!」
「そうだな!わしとしては勝てないけど走ることが楽しくて健気に頑張るけど、誰もいない所では負けた悔しさで静かに涙を流すような子が好み…って!それも違うから!」
わかってますと返事をしながら去っていく家臣に一抹の不安を覚えながらも、戦準備を整えた。
定範の予想通り、それから間もなく三木城の支城である淡河城も戦火に包まれることとなった。
敵大将は秀吉の弟、豊臣秀長。
おまけに軍師として名高い竹中半兵衛も付いている。
「あ、でも僕もう死にそうなんで…。武士たるもの畳の上ではなく戦場で死にたいと思って来ましたけど…。やっぱキツイっすよ…」
竹中半兵衛が生涯最後に参加した戦こそがこの三木城攻め、そして最後に対峙した相手が淡河定範である。
淡河城前まで進軍した秀長勢が目にした光景は、呑気に道の普請をする淡河城兵であった。
そこに家臣から伝令が入る。
「お伝えします!淡河城の連中は、今日は朝から道作りをしているとの情報が!油断しきっておりまする!叩くなら今かと!」
「なるほど!よし!進軍だ!」
「えぇ…流石に相手も攻められそうな状況ってのはわかってるし…。罠なんじゃ…」
「油断してる今叩かないでどうすんの!進軍だ!」
秀長は進軍することを選択した。
そして道の普請を行う兵たちへと攻撃を開始した。
「はっ!?敵襲!?やべぇ!逃げろ逃げろ!」
襲われた兵たちは一目散に淡河城内へと逃げ込んだ。
「こりゃ楽勝だな!一気にたたみ掛けるぞ!」
その時だった。
「トラップカード発動!奈落の落とし穴!」
淡河城からの声と共に、馬が騎兵もろとも落とし穴へと落ちていった。
さらに逆茂木や馬防柵が行く手を阻む。
撒き菱も兵の足を負傷させ、進軍を大きく遅らせた。
「さて、そろそろかな…!行くぞ皆のもの!我に続け!」
定範は敵が罠にかかったと見るや、50人余りの手勢を引き連れて突撃した。
「よし!メス馬も解き放て!」
このタイミングで放たれたメス馬に、敵兵のオス馬達は大興奮。
もはや言うことを聞かず、騎手を投げ出して大暴れ。
戦線を維持することが困難となり、秀長軍は撤退を余儀なくされた。
「勝った…!!勝っちまった…!!あの織田相手に…!うちの殿は勝っちまった!!」
大はしゃぎする家臣たち。
しかし、定範の顔は暗い。
「まだだ!とりあえず今日はしのいだが…。奴らは必ずまたやってくる。もう今日のような奇策は通用しないだろう。ここは防御も弱い。長治殿の三木城に行くぞ!」
定範は淡河城を捨て、三木城へと馳せ参じた。
その後、三木城攻めの一幕となる大村合戦。
「敵の勢いが強い…!」
定範が出陣したこの大村合戦。
ここで淡河勢は僅か6人まで減り、定範自身も深傷を負った。
「もはやこれまで…!かくなる上は…!」
一度戦線を離脱した淡河勢は互いに向き合うと短刀を取り出した。
「いざ、さらばだ!!」
お互いを短刀で突き刺し、戦場で果てたのだった。
「あそこで倒れてるのは淡河城のときの…!!てめぇ!その首持って帰ってやるからな!」
豊臣軍の兵が定範達の遺体を見つけ、駆け寄ったその時。
「油断大敵!騙されたな!」
さっと起き上がり、油断して近付いてきた敵兵を始末した定範。
先程の自決は演技であり、敵を騙すための罠だった。
「とはいえ…今度こそここまでだな」
「へへっ、殿ならこんな状況でも生き残る術を持ってるんじゃないですか?」
「バカ言え…。では今度こそ本当にさらばだ」
こうして定範は、討ち取った敵兵の首を誇らしげに膝に乗せたまま腹を切った。
この知らせはすぐに両軍に知られることとなった。
「まこと失うのが惜しい良い将であった…」
そう言ったのは長治か秀長か。
敵味方双方にその死は惜しまれるのであった。
「自刃したふりで誤魔化し、なんとか戦線離脱したんだけどな!騙されたな!後世の人間!」
毛利輝元が家臣に宛てた手紙内に定範が出てきており、定範のその後についてはハッキリしていない。
生存して毛利家に向かった可能性もある。
某競走馬擬人化ゲームも競馬もまるで触っていないので、中途半端なボケになりました。反省。
淡河定範の逸話でした。
竹中半兵衛が最後に戦った武将です。
三木城の近くに竹中半兵衛の墓があります。
淡河城も今は道の駅の裏になってます。
道の駅淡河に寄った時にたまたま見つけた城です。
さて、この淡河定範ですが、かなりの知将だったようで、メス馬を使った奇策を使って豊臣軍を一度押し返しています。
三木で散った説と生存説両方ともあり、最後はハッキリしていません。
かなり忠義に厚い武将だったようで、黒田官兵衛からの調略も断っております。
敵味方双方から死を悲しまれたり、人々からはかなり慕われていたことが伺えますね。
三木城攻めといえば悲惨な兵糧攻めばかりが取り上げられますが、淡河定範の活躍ももうちょっと広まって欲しいところです。